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英国紳士の紳士による紳士のための『キングスマン』

『キングスマン』という映画を観た。


物語の主人公は、何処の国にも属さない独立した国際諜報機関“キングスマン”に属している英国紳士、ハリー・ハート。彼はかつて、自らのミスによって仲間を失ったことがあった。残された幼い息子に彼が手渡したのは一枚のメダル。メダルには電話番号が書かれていた。「何か困ったときは電話してくれ。合言葉は“ブローグではなくオックスフォード”」。

それから17年後……家族は荒れ果てていた。かつて男の妻だった女はろくでなしのクソ野郎と付き合うようになり、その息子のゲイリー・“エグジー”・アンウィンは22歳で働きもしない。ある日、ろくでなしのクソ野郎の手下の車を友人たちと一緒に盗んだエグジーは、警察を煽りながら町中で暴走行為を働いた末に事故を起こして逮捕、取調室で刑務所行きは確定だと宣告される。その時、エグジーはメダルのことを思い出す。試しに電話をかけてみると、いともあっさりと釈放されてしまう。直後、ハリーとエグジーは再会。エグジーに可能性を感じたハリーは“とある案件”を追った末に命を落としたキングスマンの欠員を埋めるメンバーとして彼を推薦、新人試験を受けさせる……。

あえて偏向的な表現をするのであれば、「観た後にオーダーメイドのスーツを注文し、ハンバーガーを食べてビールを飲み干し、女を抱きたくなる映画」。穏当で紳士的、それでいてグロテスクで野性的。その根底にあるのは偉大なるスパイ映画シリーズ「007」に対する敬愛の念と対抗意識だろう。007という時代を超越した大河が存在しなければ、この映画は生まれなかったかもしれない。とりわけ終盤の展開には笑った。007のお家芸を見事に踏襲している。

登場人物はいずれも魅力的だ。主人公のハリーはピチッとまとめられた髪型に英国的スーツを着こなしべっこう縁の眼鏡をかけているという典型的な英国紳士だが、にも関わらず、実に涼しい表情で激しいアクションをしてみせる。教会のシーンを話題にする人が多いだろうが、個人的にはろくでなしのクソ野郎の手下たちをブチのめしたパブのシーンの方が印象に残っている。短いアクションの中で、ハリーの凄さを明確に表現していたからだろう。そんなハリーから様々なことを教えられるエグジーは、いかにも現代風の若者といったところ。その肉体のポテンシャルは超人的だが、精神はあくまでも経験値の少ない若者らしく、様々なシーンで感情を露にしてみせる。一見すると対称的な両者による“継承”の物語は、だからこそ美しい対比として物語を盛り上げてくれる。

エグジーの新人試験と同時進行で描かれている“とある案件”の重要人物、リッチモンド・ヴァレンタインもいいキャラクターだ。ラッパーを思わせる格好をして、言葉巧みに各国の重要人物たちを手玉に取る億万長者。これもまた、紳士たちの集まりであるキングスマンとの対比となっている。しかし、義足に刃物を仕込んだヴァレンタインの側近、ガゼルの美しさには敵わない。冷静と情熱を兼ね備えた見事な存在感だった。

人間が真っ二つにされたり、刃物でえげつなく切り刻まれたり、爽快感よりも痛みを優先したシャープな演出を嫌う人もいるだろうが、とても面白い映画だった。激しくて、クールで、それでいてユーモアもある。グロテスクな表現が故にゴールデンタイムで放送されることはないだろうが、素晴らしいエンターテインメント映画であった。
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『次元大介の墓標』



2014年公開作品。依頼さえ受ければどんな人間でも確実に殺してしまう凄腕の狙撃主・ヤエル奥崎に命を狙われた次元大介の物語。2012年に放送されたテレビシリーズ『LUPIN the Third –峰不二子という女-』がなかなか面白かったので、その流れを汲んでいる本作にはかなり期待していたのだが、少し肩透かしを食らったような内容だった。ストーリーそのものは悪くない。『ルパン三世』ならではの娯楽性に、初期の作品に見られたエロスとカオスが混ぜ込まれている。万人向けではない、大人のエンターテインメントを意識していることがはっきりと伝わってくる。

だが、これを映画として見ると、些か物足りない。次元とゲストキャラクターが対決するストーリーは、過去のテレビシリーズでも何度か見られたパターンなので、それを一時間かけて見せられても、ちょっとした特別篇程度にしか感じられないからだ。物語に膨らみを持たせるために作られたであろう背景も、説明でさらりと流されているので、突貫工事的に付け加えられただけに見える。正直、そこに映画としての厚みはない。(ちなみに、レンタル版は前編と後編に分けられてしまっているので、その中身の薄さが余計に際立ってしまっていた) 余計な背景などを持ち出さず、純粋に、次元と奥崎の戦いだけで展開していれば、もうちょっと印象は違っていたかもしれない。ストーリーに不二子を絡めるために、そうするしかなかったのかもしれないが……。

終盤、ルパン一行の“粋”なやりとりが渋滞していたことも気になった。ある策略によって奥崎を撃退した次元だけで十分にかっこいいのに、その後にああだこうだとかっこつけさせられると、見ている側としては「もうかっこいいのはいいから!」という気分になる。空腹時に食べるファーストフードのポテトみたいなものだ。ちょっとだけ食べる程度だから美味しいのであって、そればっかり食べさせられると、飽きるばかりか苛立ちも覚える。

とはいえ、ラストシーンであの物語への繋がりを感じさせるやりとりが盛り込まれていたのには、やっぱりちょっとコーフンしてしまった。せっかくなので、オマージュに留まらずにリメイクしてくれればいいのに……と思うのだが、どうなんだろうか。

しっかし、クリカンの声も老けてきたな……。

スッキリしないぞ『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』

映画『百日紅』を観た。


『百日紅』は浮世絵師として知られる葛飾北斎とその娘・お栄の物語である。杉浦日向子による同名コミックが原作となっている。以前、この原作のちくま文庫版を、書店で立ち読みしたことがある。なんとなく興味の惹かれる題材ではあったのだが、画風のクセの強さに少なからず拒否反応を起こし、手を出さずにいた。そのことが今回の鑑賞に繋がっている。原作でのクセの強さも、アニメーションになっていれば、幾らかは控え目になっているだろうと考えたわけだ。また、監督が『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』を手掛けたことで知られる原恵一だったことも、私の気持ちを後押しした。

だが、フタを開けてみると、なんとも満足感の残りにくい映画であった。

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最近観た映画の感想。

愛のむきだし [DVD]愛のむきだし [DVD]
(2009/07/24)
西島隆弘、満島ひかり 他

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09年作品。とある理由によって、毎日懺悔を強要するようになった神父の父親・テツに対し、“股間の盗撮”という罪を重ねることでその繋がりを保とうとした少年・ユウ。その行為は狂気的な聖職者たるテツに手を上げさせるほどの激昂を誘い、その暴力にユウは父親の愛を感じていた。そんな日々の中でも、かつて亡き母親に「いつかマリア様のような人を見つけなさい」と言われたことを忘れていなかったユウ。ある日、そのマリア様のような女性と、遂に出会った。たくさんの不良少年たちをボッコボコに叩きのめしていた女子高生、ヨーコである。しかしヨーコは、父親の影響で全ての男性に対して不信感を抱いていた。そんな二人の間に、新興宗教団体「ゼロ教会」信者のコイケも加わり、事態はとんでもない方向へとなだれ込んでいく。園子温監督の映画を観たのはこれが初めてだったが、非常に面白かった。4時間という長大な作品なのに、センセーショナルな映像とシンプルで肉厚的なストーリーでまったく飽きない。また役者の演技も素晴らしい。ユウを演じる西島隆弘の純朴さ、ヨーコを演じる満島ひかりの美しさ、コイケを演じる安藤サクラの狂気、それぞれが思う存分スパークしている。中でも安藤サクラは凄かった。いわゆる美人とはいえないけれど物凄く魅力的で、だけど絶対にお近付きになりたくない。テツが崩壊するきっかけを作った女を演じていた渡辺真起子も凄かったなあ。安藤は火薬庫みたいなキャラクターだったけど、渡辺は完全に爆発していた。板尾創路、岩松了、吹越満など、存在感がキョーレツな役者がところどころで顔を出しているのも、アクセントになっていて良かった。盗撮、勃起、自慰行為など、ちょっと性的な表現が激しいので、そこに嫌悪感を抱かなければ間違いなく楽しめると思う。あ、グロ表現はそこまで激しくないのでご安心を。

もらとりあむタマ子 [DVD]もらとりあむタマ子 [DVD]
(2014/06/25)
前田敦子、康すおん 他

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13年作品。東京の大学を卒業し、父親が一人で暮らしている甲府の実家へと戻ってきたタマ子は、外へ働きにも行かず、家の手伝いもせず、何もしない毎日を過ごしていた。そんなある日、父に再婚の話が持ち上がり……。『リンダ リンダ リンダ』『天然コケッコー』『苦役列車』などの作品を手掛けてきた、山下敦弘監督による作品。ストーリーを必要最低限に控え、タマ子を演じている前田敦子の気怠い魅力を映し出すことに専念している印象。とはいえ、いわゆるプロモーションビデオの様な、あざとさや不安定さは感じられない。淡々と過ぎゆく日々の中で、淡々と日々を貪り続けているタマ子のみっともない一年を、しっかりと映画監督の矜持でもって丁寧に撮影している。とはいえ、その圧倒的な日常性が故に、時たま前田の肉体にエロティシズムを感じることも。なるほど、考えてもみれば、エロスというのは常に日常に潜んでいる。

ベイマックス [Blu-ray]ベイマックス [Blu-ray]
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不明

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14年作品。サンフランソウキョウに暮らす14歳の少年ヒロ・ヤマダは、その科学的な才能を持て余し、学校にも行かずに自作のロボット同士で競い合うロボット・ファイトに熱を入れていた。そんなヒロのことを心配する兄のタダシは、彼を自らが所属している工科大学へと連れていく。そこでタダシが開発した介護用ロボット“ベイマックス”や彼の友人たちの研究を目にしたヒロは、この大学に入りたいと願うようになる。ヒロが大学に飛び入りするためには、大学の研究発表会でロボット工学の第一人者であるロバート・キャラハン教授に認められるような発表をして、入学の許可を貰うしかない。そして見事、ヒロは結果を収め、大学への入学を許されるのだが、その研究発表会の会場で火災事故が発生し、タダシとキャラハン教授が亡くなってしまう。大切な人を同時に二人も失ってしまったヒロは意気消沈し、家でふさぎ込むようになるのだが、ふとしたことからベイマックスが起動し……。普通の人間がスーパーヒーローへと変貌を遂げる過程を描いたヒーローアクション映画。『スパイダーマン』『アイアンマン』と重なる場面も多い。調べてみると、なるほど原作はマーベルコミックスとのこと。王道のストーリーを個性豊かなキャラクターや洗練された映像で描いており、とっても魅力的な作品だ。ベイマックスとヒロが空を飛ぶシーンは、サンフランソウキョウという街の広さと良い意味での猥雑さが楽しめて、とても魅了された。広告内容が偏っているということで話題になった作品でもあるが、いわゆるヒーローものとして宣伝されたら、ここまでウケなかったのではないかと思う。何も知らずに、ちょっとした興味だけで鑑賞するのが一番……って、この感想文を根底から覆しているけど、まあ、うん。

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(2014/08/02)
クリス・プラット、ウィル・フェレル 他

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14年作品。何もかもがレゴブロックで出来た街、ブロック・シティで暮らしているエメットはごく普通の建設作業員。決まった時間に決まったことをする、マニュアルで定められた暮らしに何の不満も抱いていなかったエメットだったが、ある日、建設現場に出来た大きな穴に落っこちてしまい、そこでうっかり“奇跡のパーツ”を手に入れてしまう。その瞬間、単なる平凡な作業員でしかなかったエメットは、世界を救うことが出来る「選ばれし者」になってしまったのであった。“レゴブロックで出来た世界”であることを最大限に利用した映像が、とにかく魅力的。海をレゴブロックで表現しているシーンでは、その美しさに思わず感動してしまった。それに加え、何かを壊して新しい何かを作り出してしまう自由さが、とてもクリエイティブで楽しい。それはレゴブロックの楽しさそのものと通じている、ともいえる。様々な映画の名物キャラクターやパロディも随所に散りばめられていて(あの二人の老人を同じ画面に入れてはいけない!)、その意味でも自由さを感じられる作品だった。しかし、本当に自由だったのは、終盤の展開である。そうか、そうくるか! 楽しくて、バカバカしくて、あらゆる創作を肯定する、全てのクリエイティブに捧げる傑作。素晴らしい!

「アニメ映画ベストテン」に参加します。

「男の魂に火をつけろ!」さんが年に一度のペースで開催している映画のベストテン企画。今回はアニメ映画でやっているということなので、幼い頃からアニメ映画が大好きな私としては居ても立っても居られず、参加することにした。……本当はこんなことしている場合じゃないんだけどな!(私的な理由で)

「アニメ映画ベストテン」(男の魂に火をつけろ!)

というわけで、自分なりのベストテンを考えてみた。

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『ぱいかじ南海作戦』

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(2013/01/23)
阿部サダヲ、永山絢斗 他

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仕事を失い、妻とも離婚して、何もかもを失ってしまったカメラマン・佐々木は、ふとした思いつきで沖縄へとやってくる。飛行機から船へと乗り継いで、更にレンタカーを運転して、辿り着いたのはとある島の果てにある砂浜だった。そこで出会った四人のホームレスたちと意気投合した佐々木は、彼らに南の島での時間の過ごし方を教わる。すっかり四人のことを信頼していた佐々木だったが、ある日の朝、彼らが自分の荷物とともに姿を消していることに気が付いて、呆然とする。しかし、色々な喜びを教えてくれた彼らのことを通報する気にもなれず、ただただ途方に暮れるばかり。そんなある日、休暇を取って沖縄にやってきた若者“オッコチ”と、関西出身の女性二人組“アパ”と“キミ”がやってきて……。

本作のことは、テレビのコマーシャルで知った。ただ、そのコマーシャルでは、阿部サダヲが南の島で楽しく過ごすという情報しか伝わってこず、正直なところ「どうせ南の島で心が洗われたとかなんとか言うだけの、手抜き映画なのだろう」と思っていたのだが、監督・脚本を細川徹(※シティボーイズやラバーガールの舞台を演出する作家。また、コントユニット“男子はだまってなさいよ!”を手掛けていることでも知られる)が担当している知り、今回の鑑賞と相成った。原作は椎名誠の同名小説。未読である。

基本的に、ファンタジー色の強い作品だ。いくら南の島とはいえ、大の大人が一人でいつまでも同じ砂浜に滞在できるとは思えないし、そんな如何にも怪しい人物と旅行者が自然に共同生活を始める流れも無理を感じる。まあ、この辺りのことは、総じて「南の島だから仕方がない」と断じてしまってもいいだろう。先にも書いたように、原作の小説は未読だが、印象としては原作を踏襲した作りになっているように感じた。少なくとも、三木聡監督の『イン・ザ・プール』の様にやりたい放題な印象は受けない(※三木氏もシティボーイズの舞台を演出していたので、ファンとしてはついつい両者を比較してしまう)。南の島での暮らし方や、ホームレスの侵略を警戒してテントの周辺に罠を仕掛けるくだりなどは、原作に忠実なのではないだろうか。……あくまでも読んでいないが。ただ、時たま見られる笑いどころに、細川徹のセンスが垣間見えていた。例えば、ホームレスと決着をつける場面のバカバカしい見せ方などは、まさしく細川のセンスであった。

惜しむらくは、あまりにも急展開なオチだろう。ネタバレになるが故に細かい説明は出来ないが、なんとも投げっぱなしなオチである。どうやら、このオチは原作にあるものらしく(※あまりにもどうかと思ったので、鑑賞後にネットで感想を調べて回ったのである)、細川もかなり悩んだのではないかと想像される。今の時代に生きているイイ年を重ねた大人が、こんな『未来少年コナン』みたいなことをするわけがない。このオチで、それまで自然に受け入れられていた南の島ファンタジーが、非現実的なモノとしてはっきりと認識させられてしまった。惜しい。実に、惜しい。

松本、漫才に帰る『R100』

R100 [DVD]R100 [DVD]
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大森南朋、大地真央 他

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都内有名家具店に勤務する片山貴文には秘密があった。それは、謎のクラブ「ボンテージ」に入会してしまったということ。以降、様々なタイプの美女たちが片山の日常生活の中に突然現れ、彼をこれまで味わったことのない世界へと誘っていった。しかし内容は次第にエスカレートしていき、女性たちは彼の職場や家庭にも現れるようになる。耐えられなくなった片山はプレイの中止を求めるが、一向に受け入れられない。さらなる予測不能の事態が次々と巻き起こる中、果たして彼の運命は!?(内容紹介より)


2013年10月25日金曜日夕刻、仕事を終えた私は自らの車で遠方の映画館へと向かっていた。ダウンタウンのボケ担当・松本人志が監督を務める映画『R100』を観るためである。

過去、松本は自身が監督を務めている映画を三作品、世に送り出している。『大日本人』(2007年)、『しんぼる』(2009年)、『さや侍』(2011年)、以上の三作だ。そして、私はそれらの映画を、全て鑑賞していた。とはいえ、それは松本人志を尊敬して止まない、いわゆる松本信者のそれとは違い、お笑いについて御託を述べる人間として、時代を代表する芸人の一人である松本人志の映画を見逃すわけにはいかないという、半ば使命感によるところが大きかった。だが、これまでの三作品を鑑賞してきて、私の松本映画に対する興味は意気消沈しつつあった。それらが決して面白くなかったわけではない。『大日本人』『しんぼる』『さや侍』、それぞれに観るべき点はあった。しかし、それらの作品には総じて、素晴らしい映画を鑑賞した際に生じる特有のカタルシスが感じられなかった。特に『しんぼる』『さや侍』は笑いの要素がブツ切りにされている感が強く、世界観に浸りにくかったことが大きなネックとなっていた様に思う。

加えて、本作に対するバッシングが私の鑑賞意欲をより萎えさせた。松本映画に対して過剰なバッシングが行われるのはもはや通例だが(一時代を築いた人間の衰え(と判断させるもの)に対して、大衆はあまりにも素直に非情である)、今回は映画愛好家を自称する一部の人たちからの批判も少なからず見られたからだ。彼らの言い分によると、本作には映画好きであれば「決して見逃すわけにはいかない」描写が施されているそうで、学生時代に映画研究部に所属、お笑い鑑賞と映画鑑賞に青春を注ぎ込んでいた私としては、なんとも板挟みにされているような気持ちになっていたのである。それでも、私が『R100』を鑑賞するに至ったのは、それらの批評が世に出回る前に前売り券を買ってしまっていたからだ。前売り券を買ってしまったからには、その映画を観るしかない。もはや賽は投げられていたわけだが、むしろ私はサジを投げたかった。そんな気持ちで鑑賞に至ったのだが……結論からいうと、バッシングされているほどヒドい映画ではなかった。いや、むしろ、これまでの松本作品に比べ、圧倒的に面白かったと言ってしまっていい出来だった。

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『ムーンライズ・キングダム』

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(2013/08/02)
ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン 他

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物語の舞台は1960年代のニューイングランド島。ある朝、ボーイスカウトに所属する12歳の少年、サム・シャカスキーがキャンプから脱走してしまう。ウォード隊長はすぐさま島に滞在するシャープ警部に連絡し、彼の捜索に乗り出す。そんな折、島の少女スージー・ビショップも同様に行方不明になっていることが分かる。実は、二人は一年前に出会い、それから何度も文通を重ねていき、この日、駆け落ちすることを決意していたのだ。彼らは何処へ向かったのか。そして、彼らの恋の結末は?

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ダージリン急行』『ファンタスティック Mr.FOX』などの作品を手掛けてきた、ウェス・アンダーソン監督による作品である。私は彼の作品が大好きで、新作が公開されるたびに、地元での上映やソフト化を期待している。が、本作は迂闊にも劇場での鑑賞を逃してしまい、初見をレンタルで済ませてしまうという結果に至ってしまった(購入を見送っているのは、廉価版のリリースを待っているためである……と考えている時点で、実はさしてファンであるとはいえないのかもしれない)。本作の鑑賞後、私は劇場でこれを観なかったことを深く後悔した。もっと、しっかりと画面に集中して、その世界観に浸るべき作品だったからだ。実に、実に素晴らしい作品だった。

ウェス・アンダーソン監督の作品には、一つの共通するテーマが見られる。それは「家族」だ。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は妻や子と離れて暮らしていた父親が家族の絆を取り戻そうとする話だったし、『ダージリン急行』は三人の兄弟たちが父の死をきっかけにインド旅行へと向かう話だ。唯一のアニメーション作品である『ファンタスティック Mr.FOX』も、人間からの泥棒行為を働くことで父親としての尊厳を取り戻そうとするMr.FOXの姿が描かれている。そこには常に父親の姿があって、母親の姿があって、親たちを意識する子どもたちがいたのである。だが、本作には珍しく、親の姿が見えてこない。シャカスキーは幼い頃に両親を亡くし、複雑な性格が故に里親からも突き放されている。スージーの母親は他所の男と浮気しているし、父親は彼女を力で抑えつけようとする。親としての意識が表面的で、希薄だ。だからこそ、彼らは逃げ出したのだろう。心を寄せる親を持たない彼らは、親を必要とせずに生きるために、二人での逃避行を決断したのである。

だが、幼い二人の行く先は、とてもじゃないが現実的ではない。どんなに二人で生きるための道を進もうとしても、それは所詮、子どもの浅知恵である。だが、先が見えないからこそ、彼らは何処までも進んでいこうとする。その姿は、まるで一昔前のメロドラマの様に美しくて儚い。もし、ところどころに散りばめられた笑いの要素が無ければ、本作はとても切ない話になっていたかもしれない。その意味では、本作の落とし所は無難だが非常に納得のいくものになっているといえるだろう。だが、この結末に、私は迂闊にも涙してしまった。思うに、「そうであってほしい」という気持ちが、無意識のうちに高まっていたのだろう。彼らが絶望を知るにはあまりにも若すぎる。

とどのつまり、いい作品だった。泣いた。楽しかった。観ろ!

『映画 けいおん!』

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(2012/07/18)
不明

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ある日、ある時、無性にアニメ映画が観たくなった。

賢明なる読者諸君に同意を得られるかどうかは分からないが、私にとって夏という季節はアニメ映画を観なくてはならない時季である。夏の熱気が、幼い頃に目にした、夏休みに入った児童をターゲットとしたアニメ映画やテレビアニメの数々を、感覚的に思い起こさせるためだろう。

とはいえ、ここで安直に昔馴染みの傑作を鑑賞するというのも、なにやら保守的で面白くない。それでは、まるで青春時代に流行した楽曲をカラオケで熱唱するような、現実を見過ぎて疲れ切っているサラリーマンだ。私はそんな視線でアニメ映画を観たくはない。あくまでも、純粋無垢にアニメ映画の世界へと飛び込みたいのである。と、そんな私の偏執的なポリシーを遂行するために、Twitterでフォロワーの方々からオススメのアニメ映画を募ったところ、幾つかの作品を薦めていただいた。持つべきものは友である。そこで薦められた作品の中に、この『映画 けいおん!』の名前もあった。

実をいうと、この『けいおん!』という作品には、以前から興味を抱いていた。もう少し詳細に書くと、『けいおん!』の様な話題作はいずれ観なくてはならないだろうという宿命の様なものを感じていた。しかし、それはあくまでも個人的な問題であって、絶対的に定められたものではない。そのため、この曖昧模糊とした問題は、実行されない可能性も大いに孕んでいたのである。そんな私が今、この作品が薦められたということは、何か一つの運命の様にも感じられた。……いや、流石にそれは嘘だけど。とにかく、私は思い切って、これまでに一度も通常放送を観たことのない『けいおん!』の映画を鑑賞しようと心に決めたのであった(ちなみに、原作の四コマ漫画はネットカフェで既読済)。

『けいおん!』は、市立桜ヶ丘女子高等学校の軽音部に所属する、四人の部員たち(途中から新入生が加わり五人となる)の三年間を描いた作品である。そして『映画 けいおん!』は、五人が卒業旅行にロンドンへと出向き、てんやわんやあって現地でライブを行ったり、教室で卒業ライブを敢行したり、卒業後に残された一人の部員に新曲をプレゼントしたりする姿が描かれている。

海外への卒業旅行に卒業ライブと、かなり大きめなイベントが展開されているにも関わらず、不思議と映画特有の高揚感は沸き上がってこない。それは私が通常放送を観ていないことも大きいのだろうが、それよりなにより、作中における彼女たちの描写があまりにも日常的であるためだろう。海外旅行はそれだけで十二分に特別なイベントだが、アニメ映画においてのそれは事件を予感させるトリガーとして取り扱われることが多いにも関わらず、本作の海外旅行は徹底的に旅行以外の何物でもない。無論、旅行特有のハプニングも幾つか見受けられるが、それらも実に現実的だ。彼女たちのテンションも日常とさして変わらない。状況は非日常であるにも関わらず、何処までも不変的な日常のトーンで描かれているのである。だから正直、ちょっと退屈にも感じた。なにせ、まるで金太郎アメの様に、何処まで行っても同じままだから。

しかし終盤、卒業式を終えた彼女たちが、学校の屋上を駆けていくシーンを見て、深く涙が流れそうになった。それはまさしく感動であった。では、どうして急に感動を覚えたのか。それは恐らく、これまで延々と描かれてきた日常が、いずれは絶対的な終焉を迎えざるを得ない刹那な青春の時間であることをはっきりと突きつけられたからだ。その行動には、はっきり言って何の意味もない。だから、あの四人が屋上を駆けることは、彼女らの人生において今後恐らく二度とない。それ故に、その姿はただひたすら青く、切なく、愛おしいほどに、刹那だった。本作の鑑賞後、幾つかの既出レビューを読んでみたところ、本作に「あの頃の青春」を重ねた人も多く見受けられたようだが、私はむしろ「あの子らの青春」に思いを馳せてしまった。空想の世界に生きていた彼女たちは、これからどんな時間を過ごしていくのだろう。この青春の果てに、何を見るのだろう。

今後、本作は青春映画の試金石として輝き続けるだろう。言い過ぎか、いや。

『運が良けりゃ』

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(2012/12/21)
ハナ肇、倍賞千恵子 他

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1966年作品。貧乏長屋で生活しているたくましい人々の姿を、古典落語の要素を取り入れて描いている時代劇。手がけているのは、『男はつらいよ』シリーズで知られる山田洋次監督。なんでも本作は、監督が手がけた初めての時代劇だそうな。また監修を、落語評論家として知られる安藤鶴夫氏が務めている。立川流家元のエッセイの影響で、どうもこの人にはあんまりいい印象がない。うむむ。

はっきりいって本作、映画ならではのカタルシスは弱い。主人公の熊五郎を中心に物語が進んではいるものの、基軸となるストーリーが存在しないので、映画特有の重厚な後味は得られない。一応、作中では、熊五郎の妹であるおせいと汲み取りの吾助の出会いから結婚までが描かれてはいるものの、それもストーリーとしては脆弱だ。ハナ肇演じる熊五郎、犬塚弘演じる八つぁん、砂塚秀夫演じる若旦那、花沢徳衛演じる大家など、キャラクターのクオリティが異常に高いだけに、なんとも惜しい(中でもハナ肇の熊は素晴らしい。ちょっと荒っぽいが、後半で『らくだ』が使われることを考慮すると納得)。これで、鑑賞後に素晴らしい余韻さえ残せていれば、『幕末太陽傳』レベルの傑作になっていたんじゃないだろうか。

本作で引用されている落語は、先に名前を挙げた『さんま火事』『らくだ』の他に、『突き落とし』『妾馬(八五郎出世)』『黄金餅』などなど。いずれも上手く映像化されているが、一方で、このネタをここに使う理由がよく分からないと感じることも。例えば、序盤で使われている『突き落とし』だが、どうしても女遊びをしたいというのであれば、後になって登場する若旦那を利用すればいいだけの話に思える。落語にはそういった内容の演目もあるし(『羽織の遊び』)、それに若旦那の存在だって一層際立つ。わざわざ『突き落とし』なんて、人気の無いネタを使った理由が分からない。確か、アンツル先生も嫌いなネタだと公言していたと思うが……などと文句ばかりをたらたら述べてはいるが、それなりには面白い。長屋の人たちのやりとりはドライでいかにも落語的だし、『黄金餅』の映像は目を見張るド迫力だ。落語ファンなら一見の価値ありといって間違いない。

ちなみに、『運が良けりゃ』は『男はつらいよ』以前の作品なのだが、八五郎とおせいの関係はまさしく寅さんとさくらの関係そのもの。おせいとさくらを演じているのは同じ倍賞千恵子だし、『運が良けりゃ』には渥美清もチョイ役で出演している。思うに、本作は『男はつらいよ』の基盤を作った作品といえるのではあるまいか……と、知ったかぶりを決めてみたり。いや、もしかしたら、山田洋次監督の作品は基本的にそういうモノなのかもしれないが……。

『華氏451』

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(2012/05/09)
オスカー・ウェルナー、ジュリー・クリスティ 他

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今から何週間か前に放送された『オデッサの階段』という番組で、この映画の映像が一瞬だけ流された。どういう理由でその映像が使われたのかは覚えていないけれど、作品の性質から察するに、表現云々に関する使われ方だったのだろう。この作品……もとい、これの原作にあたる『華氏451度』のことを、私は以前から知っていた。ドキュメンタリー映画の監督として知られているマイケル・ムーアの作品『華氏911』のタイトルの由来が、この作品だったからだ。しかし、これを原作とした映画が存在するということ、また、それがSF映画の類であるということを、私はまるで知らなかった。その番組で流されていた映像の雰囲気も良さそうだし、一度くらい観てみることにしようか……と、先日レンタルショップで借りてきて、鑑賞したのだが。これがもう、とてつもなく面白かった!

『華氏451』の舞台は、読書が禁じられている未来だ。本を読むことは人間に悪い影響を与えるので、良くないとされている。人々の娯楽はもっぱらテレビとドラッグ。司会者は視聴者に対して「いとこのみなさん」と語りかけ、また視聴者もテレビ出演者のことを「いとこの○○」という風に話している。ドラッグには様々な種類があって、たまにそれが原因で救急車が出動する。ちょっとした中毒症状なら、血を全て入れ替えてしまえば解決だ。物語の主人公・モンターグは、この世界で消防士の仕事に就いている。しかし、この世界における消防士は、私たちが知っている消防士とは違う。この世界の消防士は、火を消すのではなく、書物を焼き払う仕事として存在している。タレコミを元に現地へと駆け付け、家宅捜索の後に書物を全て燃やしてしまう。それがモンターグの仕事だ。そんな彼に、一人の女性が近付いてくる。彼女の名はクラリスといい、学校で教師の職に就いている。彼女と何度かの会話を交わしていくうちに、モンターグは少しずつ読書という行為に対して興味を抱くようになる。そしてある日、遂に……。

SF映画とはいえ、宇宙人や特殊な機械などは殆ど登場しない。それなりに頑張った特撮による“飛行警官”の存在が、唯一SFっぽい。とはいえ、作品全体に漂う「人間らしからぬ人間」の姿は、やっぱりどこか非現実的に見える。この雰囲気は、以前に観た『夢のチョコレート工場』を思い出させた。……ジョニー・デップじゃないヤツね。ちょっと上から目線な言い方になるが、非現実的な世界観を当時の演出でどうにかこうにか頑張ってみました的な映像の味わいというか。その頑張りが故の、人間臭くない人間の画というか。最近のCGとかじゃ出せないところを、演技で上手くカバーしました的な(『夢の~』は映像だけでもかなり頑張ってたけど)。そういう良さがある。……視点がマニアックだな。でも、なにより、この作品が素晴らしいのは、その世界観の広げかただ。「もしも読書が許されない世界があったら?」という大喜利に上手く答えている。読書が禁止される理由、読書の代わりに発展する娯楽、どのようにして禁止されているのか……それぞれの回答が実に上手い。「読書が禁じられている理由」が割ときちんとしているところとか、凄いよなあ。個人的に衝撃を受けたのは、読書家たちが法律に反することなく書物を楽しむ方法。暴力に訴えず、ただ自らの楽しみのためだけに困難に臨む人たちの姿は、狂気的であると同時に、とても慎ましく、そして美しい。良い映画でした。

『さらば青春の光』

さらば青春の光 [Blu-ray]さらば青春の光 [Blu-ray]
(2012/12/05)
フィル・ダニエルズ、レスリー・アッシュ 他

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原作はザ・フーのロックオペラ『四重人格』。『四重人格』の原題は『Quadrophenia』と記し、映画の原題も同じ言葉が使われているが、邦題は『さらば青春の光』に改変されている。映画を最後まで観れば分かるが、実に合点のいく邦題である。主人公の青年が、青春という狂乱の渦に身を任せるも、それが現実の元に成り立っている幻想であることを知り、青春の終わりを迎える。そこに漂う寂しさは、誰もが無意識のうちに体験していた青春の後の寂しさ、そのものだ。

とはいえ、正直なところ、私は主人公の様な青春を送っていない。流行のファッションに身を包み、同じ思想を抱く連中と行動を共にし、派手に装飾されたスクーターを乗り回し、対立するグループと暴力を繰り広げ、果てには警察沙汰にまで発展する。こういう青春を送っている人間は、今ならタチの悪い暴走族以外の何者でもない。それでも、そんな彼の姿に共感を覚えてしまうのは、そこに青春特有の先の見えない狂騒が感じられたからだろう。青春時代の真っ只中に在る人間は、その先を意識しない。今しか見えない。まるで、明日が来ることを知らずに、今日が終わることを悲しんでいる赤ん坊の様に。思えば私も、青春時代には、わけもなくバラエティ番組を録画しまくるという意味のわからないトンネルに潜っていたっけなあ(それはまたちょっと話が違うような気がしないでもない)。

そんなストーリーの軸に使われているのは、1950年代から60年代にかけてイギリスで流行したという“モッズ”というファッション思想である。身体にピッタリしたスーツにミリタリーパーカー(モッズコート)を身に付けた彼らの姿は、今見ても実にカッコイイ。スーツが時代を超越して着用され続けていることが、少なからず影響しているのではないかと思われる。

ちなみに、冒頭でも触れた原作の『四重人格』だが、最近になって安価盤がリリースされている。二枚組のアルバムとしてはかなり安い値段になっているので、試しに聴いてみるのも良いのではないだろうか。収録曲は映画本編でも使われているので、観てから聴くのも楽しいのではないかと。

四重人格四重人格
(2013/02/20)
ザ・フー

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聴いた後は「ベルボーイ!」と叫びたくなること間違いなし。……多分。

『マチェーテ』

マチェーテ [Blu-ray]マチェーテ [Blu-ray]
(2011/08/24)
ダニー・トレホ、ジェシカ・アルバ 他

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ダニー・トレホ主演、2010年公開のアメリカ映画。

いきなり話を脱線するけれど、ダニー・トレホって名前がなんだか素敵だ。ダニーの部分はどうでもいい。問題はトレホだ。なんだ、トレホって。思わず口にしたくなる、なんとも魅力的な響きじゃないか。この名前を口にしたいがために、この映画の感想をアッチコッチで口にしたい。「『マチェーテ』っていう映画が面白くってさ。マチェーテっていうのは主人公の名前で、演じてるのはダニー・トレホっていう俳優さんなんだけど……」とか言いたい。ベッドで眠っている恋人に、ささやくようにそっと耳元で「トレホ」って言いたい。いや、最後のは流石に冗談だけど、でも良い名前だと思う。トレホ。ちなみに、トレホは本作で“みうらじゅん賞”という珍妙な賞を受賞、選考したみうらに「オレもこの先、ジジィになってもトレホでいくよ。トレホで」と言わしめているけれど、多分みうら氏もトレホって言いたかっただけなんじゃないかと思う。いや、知らないけど。

『マチェーテ』の舞台はアメリカのテキサス。かつてメキシコで連邦捜査官をしていたマチェーテは、その正義感が故に麻薬王トーレスと衝突、妻と娘を殺されてしまう。それから3年後、マチェーテはテキサスで不法移民の日雇い労働者をしていたのだが、ある時、ブースという男からメキシコからの移民を弾圧している政治家、マクラフリン上院議員の暗殺を依頼される。多額の報酬金と命の保証を理由に依頼を受けたマチェーテは、マクラフリンの暗殺に乗り出すのだが、そこで逆に狙撃を受けてしまう。突如、追われる身となってしまったマチェーテ。やがて彼は、この一件の背景に、トーレスが関わっていることを知る。

とどのつまりは復讐劇なんだけれども、その他の要素がゴチャゴチャに絡まっているので、途中からは死んだ妻と娘のことなんざすっかり忘れてしまう。まあ、しゃーない。なにせ、まるでハイテンポな漫才を観ているかの様にスパッスパッと後腐れなく展開するストーリーが、ただひたすらに軽快でたまらない。悪役はブッ殺すわ、美女と一緒に寝まくるは、もうイケイケトレホが満載。内臓をえぐり出しちゃうシーンも、ちょっとしたアクセントということで受け入れてしまう。「おいおいトレホ、その内臓どうしちゃうってのさ? あ、ちょんちょん」と思わず広川太一郎口調になった観客の期待に応える、マチェーテの最適な内臓利用法も必見だ。ただ、この映画のグロ要素は前半に固まっていて、後半は割と真っ当なアクション映画に仕上がっている。コミカルなシーンも多い。鑑賞中、何度も「チョイとお待ちよトレホさん!」とツッコミを入れたくなること、間違いなしだ。

エログロなシーンも少なくないけれど、基本的にはトレホがむーっな表情でバッチコーイしまくっているのが魅力の映画。セガールやデ・ニーロもマンキンの表情で登場、素晴らしい活躍を見せている。惜しむらくは、マチェーテが兄として慕っている男を演じているチーチ・マリンが、その存在感の割にあんまり活躍していなかった点。もっとかっくいいところが観たかったよ、兄さん!

『バカリズム THE MOVIE』

バカリズム THE MOVIE [DVD]バカリズム THE MOVIE [DVD]
(2012/11/21)
升野英知(バカリズム)

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2012年1月から3月にかけて、TOKYO MX系列で「バカリズム THE MOVIE」という番組が放送されていた。“バカリズム THE MOVIE”。考えてみると、妙なタイトルである。通常、なにかしらかの言葉に“THE MOVIE”という言葉が付加される場合、それは既存の作品が映画化されたことを意味している。特に、『踊る大捜査線 THE MOVIE』『アンフェア THE MOVIE』『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』など、人気を博したドラマ作品が映画化される際に使われることが多い。しかし、“バカリズム”は作品の名前ではない。芸人として活動している升野英知のユニット名である。そこにはどんな深い意味が込められているのか……いや、きっとそこに深い意味など存在しない。バカリズムと映画。この二つの点を繋げただけに過ぎないのだろう。

「バカリズム THE MOVIE」は、バカリズムが映画を完成させるまでの経緯を追ったドキュメンタリー……という設定のフェイクドキュメンタリー番組である。一応、番組はバカリズムが映画を撮影することを前提に進行しているし、実際に映画を撮影するために必要なプロセスを踏んではいるのだが、その内容はというと、やれ「映画に使用するカチンコを木材からチェックする」だの、やれ「スタッフが食べる弁当を監督自らが選別する」だの、あまり映画とは関係のなさそうなことばかりやっている。それはもはや、単なる悪フザケとしか言いようがない代物であった。……というわけで、一応「バカリズムが映画を撮る!」と銘打ってはいたものの、当時の私はそれを半信半疑の気持ちで見ていた。どうせ、映画を撮影するだのなんだのいうのもフェイクなんだろう、と。

ところが同年5月、バカリズムが手掛けた“ほぼ初監督”映画『バカリズム THE MOVIE』は本当に完成され、東京・シネマアート六本木にて限定上映されたのである。まさか本当に映画が制作されているとは思ってもみなかったので、それが本当だと知った時は随分と驚いたものだ。映画は好評を博し、その後も大阪・福岡などで上映された。しかし、流石に全国上映とはいかなかったようで、上映されたという事実だけを目前に叩きつけられた田舎者(=私)は、ただただその評判を指をくわえて見ていることしかできなかったのである。泣くしかないっ。

そんな折、吉報が飛び込んできた。なんと、『バカリズム THE MOVIE』がDVD化されるのだという。それも、単なるDVD化ではない。映画本編を収録したディスクに、テレビで放送されていた「バカリズム THE MOVIE」の完全版を収録したディスク(※なんとバカリズム“ほぼ監督”のコメンタリー付!)と、映画で披露されている音楽(※東京03の単独公演テーマソングの編曲担当でもお馴染み、カンケが担当)を収録したオリジナルサウンドトラックCDを加えた、豪華三枚組仕様になっているのだという。値段は少々お高いが、それだけの価値があると確信した私は、薄っぺらな財布の奥底に眠る一万円札を握り締め、近隣のDVDショップを目指したのであった。……いや、本当はamazonだけど(←地元に金を流さない極悪人)。

『バカリズム THE MOVIE』は五つの短編で構成された、いわゆるオムニバス映画だ。それら全ての作品に、バカリズムは“ほぼ 主演・脚本・監督”として関わっている。それ故に、まったく違ったジャンルの作品を取り扱っているにも関わらず、いずれの作品にもバカリズムのエッセンスがたっぷりと染み込まれている。ただ、『トツギーノ』などのコントに見られるシュールさは、本作では控えめだ。バカリズムは本作のブックレットにおいて、【メッセージ性はなにもありません。たくさん笑って終わりです】と語っている。それはまさしく、かつての大衆映画が持っていた、エンターテインメント性にのみこだわるスタイルと同じであるように思える。『バカリズム THE MOVIE』は、シュールと呼ばれ続けてきた芸人が世に堂々と見せつけた“大衆映画”なのである。

鑑賞後は、一緒に「バカリズム THE MOVIE音頭」を踊りたくなること、間違いなし!

以下、各作品のレビュー(出来る限りネタバレ含まず)。

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『モンティ・パイソン ライフ・オブ・ブライアン』

モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン [Blu-ray]モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン [Blu-ray]
(2010/05/26)
テリー・ジョーンズ、グレアム・チャップマン 他

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ストーリー:西暦33年のエルサレム。イエス・キリストと同じ日に生まれたユダヤ人の青年ブライアンは、ひょんなことから民衆に救世主だと勘違いされてしまう。必死で否定するブライアンだったが、どんどん信者は増える一方。おまけにローマ帝国にも危険人物のレッテルを貼られ、悲劇と喜劇の入り混じる驚愕のラストにもつれこむ!


キリストを冒涜してるってんで、世界各国で上映禁止となった名作コメディ映画……って話なんだけどね。そんなこといわれたって、宗教関連の話題にはとことん疎い八百万の神を許した我が国日本では、あんまりピンとこないってな感じ。ちょんちょんっての。ンだからさ、コメディ映画として純粋に観ちゃったんだけどさ、全体的に映画って感じじゃないの、これが。テレビでやってるコントみたいな、軽ーいノリでやっちゃって、のっちゃって、楽しんじゃったのよね、ちょんちょん。でも、別にセットが作り物っぽいとか、そういうしょぼちーんな理由で軽いんじゃなくって、やってることがコントっぽいのよね。皆のノリが軽くってさー、なんか本当に「映画やってます!」ってノリじゃないわけ。「面白くって楽しいよー」っていわれてるみたいで、映画として観ようって気持ちが無くなっちゃうってー話なのさ。どうしてこれがキリストの冒涜になっちゃうのか、まったく理解できないのよね、ちょんちょんっての!

……こっからはマジメに書こう。ストーリーは先に書いた通り。これ以上でも、以下でもない。どこにでもいるような青年が、なんやかやがあって救世主だと勘違いされて、最終的にはりつけの刑に処されてしまう。でも、実をいうと、これらのストーリーはさほど意味を持たない。何故ならば、そのストーリーを凌駕してしまうほど、随所にギャグが散りばめられているからだ。むしろ、これらのギャグの使い道を考えた結果、このストーリーが完成したんじゃないかと疑ってしまうくらいギャグが多い。それ故に、ストーリーの重厚感は皆無に等しく、映画としては物凄く軽い。本当に、テレビのコント番組を見ているかのように、気軽に楽しめる。退屈な日曜日の昼間とか、なんとなく寝付けない夜なんかに丁度良いんじゃないだろうか……と、個人的には思う。無論、僕の感性がズレているだけなのかもしれないけれど。

ただ、テレビのコントに比べて、本作で披露されているギャグはかなり辛口だ。例えば、女性になりたいという男の、生物学上は子どもを産むことが出来ないけれども“子どもを産む権利”のために闘うことを宣言するくだりなどは、かなり強烈だ。現実的には有り得ないことの権利を守る……って、どっかで聞いた様な話だな。また、ユダヤ解放戦線の仲間たちが、「ローマ人から奪われたものを取り返すぞ!」と話すくだりでは、「水道もか?」「下水設備もそうだ」「道路の舗装は?」「教育は?」「ワインもあるね」と、どんどんローマ人の功績が話の中に出てきたりする。極端な意見は微細を無視しがちであることを、上手く皮肉っている。こういう人間の裏をかくギャグは、今のテレビコントじゃ出来ないぞ。……やればいいのに。勿論、安直なギャグも存在。塔の上に追い詰められたブライアンが、思わぬ方法で脱出するくだりは大失笑もの!

さて、本編もさることながら、本作は特典映像も凄い。この映画が生まれるまでの行程と、完成後の大反響ぶりを描いたドキュメンタリーが収録されているのだが、これだけで一本の映画が出来るのではないかというくらいに面白い。宗教関連の揉め事といえば、日本でも定期的に話題に上がるけれども、やっぱり本場には敵わない。それらの出来事は、宗教自体ではなく、宗教に対する価値観を笑い飛ばした本作の正しさを証明してしまったといえるだろう。

ちなみに、本作は後にオペラ化された。

モンティ・パイソン ノット・ザ・メシア [Blu-ray]モンティ・パイソン ノット・ザ・メシア [Blu-ray]
(2012/01/11)
エリックアイドル、マイケルペイリン 他

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『ノット・ザ・メシア』には、パイソンズの結成40周年を記念して行われたオペラが収録されている。プロのオペラ歌手四人とパイソンズのメンバーであるエリック・アイドルによるステージは、とにかく大迫力の一言。バックには140人のコーラス隊を従えているのだから、当然といえば当然だ。ひょっとしたら、迫力という意味では『ライフ・オブ・ブライアン』よりも凄いかもしれない。そんなとんでもないステージで展開しているのは、先に書いたようなギャグの羅列……そりゃ、笑うしかない。オペラ歌手がその声量で男女の一夜を演じるところなんか、もうサイコーに品が無くていい! ラストにパイソンファンにお馴染みのアレが登場するので、初見での鑑賞はオススメできないけれども……いや、それくらいなら見逃そう! 映画ともども、オススメです。
プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

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https://twitter.com/Sugaya03

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