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夢見るクズではいられない

『甲府い』という落語がある。

豆腐屋の店先で、卯の花を盗み食いしている若い男が捕まった。話を聞くと、男の名は善吉といい、甲府(今の山梨県)からやってきたという。善吉は幼い頃に両親を亡くし、伯父さんのところで厄介になっていたのだが、その恩を返したいと思いつき、江戸で商売を始めて、一人前の男になって帰ってこようと考えていた。しかし、身延山で願掛けをして、江戸に出てきたところをスリにあって無一文になり、空腹になっていたところで盗みを働いてしまったのだ。それを聞いた豆腐屋の主人は、これも何かの縁だと考え、善吉を店で働かせてやることにする……。


今でこそ、山梨から東京まで、電車で二~三時間程度しかかからないが、当時は大抵の移動が徒歩(駕籠や馬もあっただろうけど)。生まれ育った故郷を捨てて上京するには、並大抵じゃない覚悟が必要だったに違いない。それなのに、着いて早々にスリにあうとは、なんという運の無さか。落ち込んで、空腹から盗み食いをしてしまう気持ちも、分からなくはない。しかし、その一方で、この一連の行動からは、「江戸に対する漠然とした憧れ」が垣間見られる。ただ、伯父さんに恩を返したいというのであれば、別に甲府にいたままでも実行できる筈だ。むしろ、伯父さんに恩を返したいという大義名分の元に、善吉は甲府を捨てて、江戸へと飛び出したのではないか。……というのは、単なる妄想に過ぎないのかもしれないが……。

江戸から東京へと名称が変わった今でも、かの地に憧れを抱く地方者は少なくない。聞いたところによると、今や東京都の人口の半分以上は地方出身者であるそうだ。そこに行けば夢や希望が叶うかもしれない。そんな漠然としたガンダーラの様なイメージが、東京という街にはあるのだろう。

毎週土曜、深夜に放送されているバラエティ番組「オンバト+」。ゼロ年代お笑いブームの地盤を築いた「爆笑オンエアバトル」の後継であり、世間にはまだまだ知られていないような若手の芸人たちが、そのネタでもってしのぎを削り合う番組だ。先日、この番組で、キャプテン渡辺が漫談を披露していた。

キャプテン渡辺は、あるあるネタを得意とするピン芸人である。

一般的に「あるあるネタ」とは、芸人が提示するシチュエーションを観客自身の実体験と重ね合わせることによって、笑いを生み出す芸風という認識がある。だが、キャプテンのあるあるネタは、既存のあるあるネタとは一線を引いている。何故ならば、キャプテンのあるあるネタは、その対象を“クズ”に限定しているからだ。ここでいうクズとは、働きたくはないけれどもお金は欲しいという、人の業のカタマリの様な人間のことをいう。売れない時代が長かったキャプテンは、芸能界という巨大な山脈の地下でもぞもぞと蠢いているクズたちを、数多く目にしてきたのだろう。だからこそ、キャプテンが口にするクズあるあるは、なんともいえないリアリティに満ちている。

但し、「それは果たして前述の様なあるあるネタと同類なのか?」と問われると、返答し難い。クズたちの最大公約数を切り取って、ネタとして昇華するキャプテンの芸風は、単なる生態観察なのではないか、という見方も出来る。……ところが、これが面白いことに、キャプテンのあるあるネタは共感できるのである。というのも、「楽してお金を儲けたい」という、キャプテンがいうところのクズたちの願望は、誰しもの心の中にあるものだからだ。全ての人間は完璧に生きられない。だからこそ、キャプテンが語るクズたちの生き方に、観客は苦笑しながらも共感を覚えてしまうのだ。

その日、キャプテン渡辺が披露したのは、地方から東京へやってきたクズたちについてのあるあるネタだ。いつも通りに、堂々とした態度でネタを進行していくキャプテン。観客もまた、いつもと同様に笑い声を上げる。ところが、ネタが進むごとに、その“いつも”の中に、ほのかなメッセージが見え隠れしている。

ここから先は、キャプテンが披露していた漫談を、全て文字起こししたものである。通常ならば、こういう行為は芸人さんの営業妨害に繋がりかねないので、出来る限り避けているのだが、このネタに関しては、もっと多くの人の目に触れてもらいたいと考え、このような手段に出ることにした。無論、当人および関係者から苦情があった場合は、文字起こし部分を削除する所存である。

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2012年2月のリリース予定

03『サンドウィッチマン ライブ2011~新宿与太郎完結篇~
07『2700 BEST ALBUM 「SINGLES」
08『情熱大陸×立川談志 プレミアム・エディション
15『カナリアLIVE『金糸雀』
22『単独ライブ 二日坊主』(トップリード)
22『単独ライブ「文殊の知恵」』(インスタントジョンソン)
22『ロッチ単独ライブ「ストロッチベリー」
22『タイムマシーン3号 第3回単独ライブ ひまわり畑でつかまえて

緩やかな滑り出しでスタートを切った2012年、続く二月も盛り沢山のラインナップ。東北の期待を一身に背負うサンドウィッチマンの単独ライブに始まり、「右ひじ左ひじ交互に見て♪」と熱唱する2700、「落語は人の業の肯定である」と謳った落語会の巨星・立川談志のドキュメンタリーなど、注目の作品が立て続けにリリース。しかし、なんといっても注目は、22日に集中する単独ライブラッシュだろう。トップリード、インスタントジョンソン、タイムマシーン3号……売れ残り芸人たちの奮闘を見よ!

この他のリリースについてはこちらをご参考

『恐怖学園』(鬼ヶ島)

一月某日。午後六時を回ったばかりの夕暮れ時、仕事を終えて家へと帰ってきた僕は、いつものように郵便受けの中を確認していた。パソコンや携帯電話が普及している近年、友人知人から葉書や手紙が送られてくることなど、皆無に等しい。この日も、郵便受けには、一年ほど前に一度だけ訪れた某有名洋服店から送られてきたダイレクトメールしか入っていなかった。それを手にした僕は、郵便受けを背にして、家の中へ入る……つもりだった。しかし、何か妙な予感を覚え、再び郵便受けの元へと戻り、改めて中を確認した。すると、そこには確かに先程まで無かった筈の、黒い封筒が入っていたのである。

これは一体なんだろう。手に取ってみると……軽い。試しに振ってみると、カタカタと音がした。封筒の表面には何も書かれていない。送り主の名前も、宛先もない。普段の僕ならば、そんな不気味なモノなど、とっととゴミ箱にでも放り込んでしまうところだが、その時は何故か、そういった奇妙を受け入れたい気分だった。不覚にも、退屈でつまらない日常のちょっとした刺激になるのではないか、と思ったのである。僕はその黒い封筒を抱えて、そそくさと家の中に入った。家の中は、何故か灯りがついていなかった。漆黒の闇。皆、何処かに出掛けたのだろうか。それにしても、僕に何も言わずに出掛けるというのは妙だ。皆の携帯電話に連絡しようとしたが、繋がらない。電波の届かない圏外にいるのだろうか、それとも……。

僕はひとまず自室に入り、部屋の灯りをつけて、暖房機の電源を入れた。冷え切った室内に、温暖な空気が流れ始める。冷え切った身体が、いくらか人間らしい体温へと戻っていく。かじかんだ両手がすっかり暖まったところで、僕はその黒い封筒を開けることにした。封筒は紙で出来ていたので、簡単に千切ることが出来そうだった。ぐっと力をかけると、いともあっさりと切れ目が出来た。そこに指を入れて、スッと中身を取り出す。僕はそれを確認した瞬間、恐怖のあまりに、温まった身体が凍りついた。そこには、鬼ヶ島の『恐怖学園』が入っていたのである……!

……以上、意味のない前フリでした。

恐怖学園 [DVD]恐怖学園 [DVD]
(2012/01/25)
鬼ヶ島

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『白鳥の古典 -冬-「夢金」「初天神」』

白鳥の古典-冬-白鳥の古典-冬-
(2011/11/23)
三遊亭白鳥

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『夢金』(10年11月7日収録)

【あらすじ】船宿の船頭、熊蔵は金のことばかり考えている守銭奴。その欲張りぶりは凄まじいもので、「百両欲しいよォーっ!」と、寝言ですら金のことを口にする始末だ。ある雪の日、そんな熊蔵の船宿に、人相の良くない浪人風の男と若い娘がやってきた。男は船を出してもらいたいというが、残っている船頭は熊蔵しかいない。最初は、寒いからと断る熊蔵だったが、男が酒手(酒代)を出すと聞いて態度を一変、雪降る中に漕ぎ出すのだが……。

【感想】新作派として知られている三遊亭白鳥による、いわゆる本寸法の一席。今は亡き古今亭志ん朝師匠のBOXから選んだ、とのこと。雪国・新潟生まれで、前座時代にはドン底といっても過言ではない貧乏生活を送った師匠にとって、雪景色を背景に、金に貪欲な男が活躍する話はまさにジャストフィット。貪欲ぶりは些かキャラクター化に走り過ぎているきらいがあるが、冬の寒々とした情景が上手く表現できていたと思う……まあ、参考となっている志ん朝師匠のおかげなのかもしれないが。しかし、この『夢金』における本当の見どころは、浪人の最期の叫びにあると僕は思う。他の落語家も同様の演出をしているのか、数を聴いていないので判断できないが……あの場面で浪人にアレを言わせるドラマ的な演出は素晴らしい、と思った。あと、事前に『愛宕山』を聴いておくと吉。……ここはやはり、志ん朝師匠の『愛宕山』を薦めるべきか?

『初天神』(11年8月8日)

【あらすじ】甘いものが好きで好きでしょうがない息子が、初天神のお参りに行く父親に無理矢理付いていく。屋台で何かをねだろうと思っているからだ。しかし、普段から甘いものをねだっている息子を連れて回りたくない父親は、すぐさま家に帰ろうとする。だが、案の定、息子に駄々をこねられ、様々なモノを買い与えることに……。

【感想】寄席の定番とされている古典落語。「息子が父親にモノをねだる」という構図が一貫して続いているため、その合間で演者オリジナルのギャグを放り込むことが出来るという、自由度の高い演目である。それを新作派の白鳥が演じるのだから、面白くならないわけがない。師匠は“息子のねだり”のくだりに、なんとオリジナルのモンスターを登場させて、父親をこの上なく翻弄する。そのナンセンスたるや、もう……たまらない。『夢金』とは打って変わって、情景もへったくれもない、とにかく息子の甘いものに対する欲が渦巻いているギャグ落語。やたらめったら面白かった。オチはオリジナルだろうか。なかなか上手い。

「オンバト+」一月二十一日放送感想文

ラバーガール【489kb/1,706票】※視聴者投票2位
七戦全勝、今期二勝目。コント『記者会見』。海外映画の制作発表会見で、大水扮する通訳がデタラメなことばかりを口にする。ラバーガールのコント世界に第三者を加わえたことで、これまでよりも複雑な構図の笑いが生まれていた。コンビがそういう手を使っていいのかしら、という気がしないでもない。ただ、基本的には大水ワールド全開のコント。また、こういうコントではお馴染みの、何も知らない海外女優に余計な情報を教える……というボケが、こちらの予想を完全に裏切るものだったのが良かった。というか、外国人の口調であの台詞をいうと、あそこまで面白くなるものなのか。

ツインズ【473kb/1,351票】
初挑戦初オンエア。かつてサワズカンパニーに所属していたが、現在は松竹芸能に所属する双子の漫才コンビ。ちなみに、二卵性とのこと。ネタは漫才で、もう双子でいることが嫌な二人が、双子の卒業式をやるというもの。卒業式でお馴染みの、卒業生全員で思い出を読みあげる手法で、双子のあるあるネタを述べていく。ネタ自体はそれなりに面白いのだが、ところどころで過剰な動きを見せているために、妙なわざとらしさを感じた。ただ、あのくらい大きな動きがなければ、ライブでは飽きられてしまいそうな気もしたので、ナマで見る分には丁度いいのかもしれない。最後の最後に身体を張ったボケをしていたが、次はどうするつもりなんだろうか。まがりなりにもM-1準決勝進出コンビ、次の作戦が気になるところ。

ななめ45°【497kb/1,613票】※会場審査1位・視聴者投票3位
五戦全勝、今期初オンエア。コント『野球選手と手術を恐がる医者』。ななめ45°が得意とする、ちょっと捻ったシチュエーションのコント。大きな笑いが生まれることはないが、全体的に安定して笑いを引き出すあたりに、彼らのコント師としての地力の強さを感じる。終盤、ブラックユーモア的な展開で客の気持ちを少し引かせておいて、きちんと落とすくだりは、けっこうな冒険だったのでは。彼らはどうも、コントを真面目に作り過ぎるきらいがあるので、もうちょっとブッ壊れたものも見てみたい。

キャプテン渡辺【465kb/1,900票】※視聴者投票1位
八戦七勝、今期三勝目。前回、ネタをド忘れして、低キロバトルでのオンエアとなったが、今回で見事にそのリベンジを果たした。今回のネタも、お馴染みのクズ漫談。地方から東京に出てきたクズの話を展開する。夢を抱いて東京に出てきて、なのに夢へのアクションを起こせずに、ぐずぐず生きている人たちのことを語っているのだが、これが実に沁みる。というのも、そんな人たちの姿に、時折キャプテン自身が重なるからだ。そして、そんなダメな人たちの姿に、視聴者もまた自らを重ねる。これまでに生きてきて、何かしらかのことを諦めた経験のある人ならば、今回のキャプテンの漫談には笑い以外の何かを感じた筈だ。ちなみに、キャプテンは静岡出身で、今回の収録には両親が観戦に来ていた。並々ならぬ思いで、このネタを披露したのだろう。稀に見る、記憶に残る漫談だった。

風藤松原【453kb/952票】
六戦全勝、今期二勝目。かなり雑なマクラから、タクシーの漫才コントへ。無表情でさらりとボケていく松原と、それに慌てふためきながらツッコミを入れていく風藤の塩梅が丁度いい。ボケの手数は少ないが、一つ一つのボケが持つインパクトで、グイっと客を引きつけようとする様は、見た目に寄らず力強い。ただ、中盤あたりから、ボケのスタミナが切れ始め、最終的に尻すぼみに。「性転換でもしようかな」レベルの強烈なボケが、もうちょっと欲しかった。

・今回のオフエア
441kb:天狗
305kb:あかつ
289kb:パンダユナイテッド
237kb:クロスバー直撃
217kb:エーデルワイス

地方収録が故の高キロバトルでオフエア、天狗。しかも、彼らにしては高いキロバトルというのが、なんとも痛い。次こそは。パンダユナイテッドは、ナベプロ所属の漫才師。一時、事務所に売り出されていたけれど、今はどうなんだろう。じっくり育成してもらいたいところ。前回、初オンエアのクロスバー突撃、連勝ならず。ちょっと楽しみにしていたんだけれどな。

・次回
あばれる君【初】
アルコ&ピース
井下好井
うしろシティ
鬼ヶ島
勝又
GAG少年楽団
知念【初】
フリータイム【初】
ぽ~くちょっぷ

三重県松阪市収録。井下好井・うしろシティ・鬼ヶ島が今期三勝目、アルコ&ピース・勝又・GAG少年楽団・ぽ~くちょっぷが今期二勝目狙い。人気の若手芸人大集合、といってもいいくらいに豪華なメンバーが揃っている回。どこがオンエアされてもおかしくない、つまり、どこがオフエアになってもおかしくない。なにやら、激戦を予感させる。注目は、うしろシティ。じわりじわりとそのコントが認知され始めているが、まだドカンと大きな当たりを見せていない彼ら。ここらで一度、オーバー500を記録したいところだが……。

『磁石単独ライブ「プレミア」』

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(2012/01/18)
磁石

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「THE MANZAI2011」本戦サーキットにおいて、パンクブーブーに続く総合2位という好成績を残した漫才師、磁石。広島県出身の佐々木優介と秋田県出身の永沢たかしによって、2000年に結成された。磁石というコンビ名は、二人のイニシャルが“S”と“N”であるところからきている。スラッとした体型に端正な顔立ちをしていることから、イケメンコンビと称されることも少なくない。一方で、芸人としての評価も高く、「M-1グランプリ」では八年連続で準決勝戦に進出している。但し、決勝戦に進出した経験は、一度も無い。予選審査員との相性が悪かったのか、はたまた、評価されるために必要な何かの要素が足りなかったのか。理由は分からないが、そこに彼らが今でも売れそびれている原因があるような気もする。

そんな自らの状況を打破する意味もあったのだろうか、2008年にそれまで所属していた三木プロダクション(元サワズ・カンパニー)を退社し、多くの若手芸人を抱えるホリプロコムへと移籍。単独ライブも定期的に行うようになり、2010年には初の冠番組「磁石のケータイハンター」が放送される。ゆっくりと、しかし確実に、芸人としてステップアップしていた彼ら。そんな折、「THE MANZAI2011」の開催が発表される。ここぞとばかりにエントリーし、出場、認定漫才師として選ばれて本戦サーキットに出場し、総合2位という好成績を残す……まさに、磁石が売れっ子芸人になるための最大の好機が、そこにあった。しかし結果は、浅草の舞台で漫才師としての腕を磨き抜いたナイツに圧倒的な実力を見せつけられ、無念の予選落ち。だが、彼らが「THE MANZAI2011」という、日本で最も面白い漫才師を決める大会の決勝戦に勝ち上がったという事実は、確かに残っている。この経験をきっかけに、2012年の彼らが更なる飛躍を見せることに期待したい。

『磁石単独ライブ「プレミア」』は、磁石が2011年7月に行った単独ライブを収録した作品だ。彼らが単独ライブを行うのは、2010年7月に行った『磁石漫才ライブワールドツアー日本最終公演』以来、およそ一年ぶりのこと。前回のライブで披露したネタは全て漫才だったが、今回のライブではコントも披露しており、いわゆる若手芸人の単独ライブらしいライブになっている。とはいえ、全体的に見ると、やはり漫才の比率が高い。「THE MANZAI2011」に向けて、新ネタを模索していたのかもしれない。……ちなみに、磁石が「THE MANZAI2011」決勝で披露した漫才は、前作に収録されている。もしも、彼らが最終決戦に進出していれば、本作で披露した漫才を演じていたのだろうか。

「プレミア」はコントで幕を開ける。舞台には、目隠しをされ両手を縛られた状態で座らされている、佐々木の姿。訳も分からずに、助けを呼ぶ。「佐々木:ちょっとー!?誰かーっ!?誰かいませーんっ!?」。と、そこへ、荷物を持った永沢がやってくる。様子から察するに、助けに来たわけではないようだ。縛られている佐々木と、思わせぶりな表情を見せる永沢。ライブのポスター(=本作パッケージ)を彷彿とするシチュエーションである。目が見えていないのをいいことに、様々な手法で佐々木を翻弄し続ける永沢。卒業証書を入れる筒をポンポン鳴らしたり、耳元に携帯電話と思わせて人参を当ててみたり、ヌーブラをつけた胸を触らせてみたり。散々弄んだところで、目隠しを外す。ところが、佐々木は永沢の顔に見覚えがない。果たして、永沢の正体は。佐々木の運命は。衝撃的なエンディングがそこに待っている……?

短めのオープニングコントとVTRが終わると、いよいよ彼らの二人舞台が始まる。まずは漫才だ。少年時代に永沢が憧れていたものを、佐々木と共に演じてみせる漫才コントである。永沢の先の読めないボケ、佐々木の言語センスが滲み出るツッコミ、それぞれが活き活きとしていて実に面白い。磁石というコンビのポテンシャルの高さを、改めて認識させられる漫才だ。ただ、その一つ一つのやりとりから漂ってくるセンスに対し、二本の漫才をむりやり一つにまとめたような構成には、激しく違和感を覚えた。前半が「不良ネタ」で後半が「ロボットネタ」というのは、ちょっと繋ぎに無理がある。「THE MANZAI2011」でも感じた、構成の弱さがここでも見えた。もしかしたら、それぞれの言語ポテンシャルの高さが、漫才自体の屋台骨を弱くしているのかもしれない。どちらに寄るのがいいのかな。

それを彼ら自身も意識しているのか、それともまったく関係無いのか、これ以降は、きちんと展開が練られている漫才が続く。永沢が数々の有名童話をごちゃ混ぜにしたおとぎ話を創作する読み物漫才『おとぎ話』、怪盗をやりたいという佐々木の要望に永沢がクレームを入れ続ける『怪盗』などなど。それぞれに違った魅力のある漫才が楽しめる。それらの中でも、完成度が高かったネタが『優柔不断』。永沢が優柔不断だという話から、究極の選択(「永沢:向井理か……若井おさむか、みたいな」)を始め、気になる女性とデートすることになるまでの流れが自然で、実に上手かった。全体的に、佐々木のツッコミが重視されたネタではあったが(名ツッコミ「ブスは待つ!」の別バージョンが!)、これからの展開に期待が持てる漫才だったように思う。これで永沢のセンスがもっと活かされれば……。

ところで、今回のライブでは、序盤に登場したフレーズが、後になって再びネタの中で登場するという、なかなかにニクい演出が取られている。前回の漫才ライブでもやっていたことだが、ノンストップ漫才ライブとは違い、こうして一つ一つのネタが独立しているライブだと、純粋に統一感が増して、なかなかに良い。見せかたもさりげなくて、嫌味じゃない。漫才のクオリティだけでなく、ライブ自体のクオリティも着実に上がってきている彼ら。今年あたり、そろそろドカンと爆発してもおかしくないとは思うのだが、果たして。

……ちなみに、本作に収録されているコントは、漫才師が演じているということを考慮すると、それなりに面白い。少なくとも、以前に彼らが単独ライブでやっていたコントよりも、シンプルで分かりやすくなっていた様に思う。流石にキングオブコントにかけられるレベルではないが……こっち方面の彼らにも、ちょっとだけ注目していきたい。あと、飲酒ネタは本当に危ないので、やめたほうがいいんじゃないか? と、余計なお世話も焼いてみる。


・本編(96分)
「コント:監禁」「オープニング」「漫才:少年時代の憧れ」「次回予告」「漫才:おとぎ話」「CM」「コント:マジシャン」「親に電話 前編」「漫才:怪盗」「親に電話 後編」「漫才:優柔不断」「酔ってチャレンジ 前編」「コント:恋愛セミナー」「酔ってチャレンジ 後編」「漫才:ピンチ」

・特典映像(13分)
「未公開+ハプニング」「メイキング」

「立川談春独演会」(1月21日・松山)

午前九時、起床。八時に携帯電話の目覚まし機能をセットしていたのだが、念のため、九時にも合わせておいて本当に良かった。もし、九時にもセットしていなければ、寝過ごしていたかもしれない。今年最初の落語会、いきなり逃してしまうなんて、縁起の悪いことこの上ない。顔を洗い、ヒゲを剃り、財布の中身と上演会場を確認して、出掛ける準備が全て整ったのは、午前十時を回ったころ。あれこれと準備が必要な女性に比べて、男は手間がかからなくて実に宜しい、と改めて思う。その安心感から、寝過ごしたりしてしまうのだが。

午前十時過ぎ、家を出る。愛する軽自動車で国道を進み、高速道路へ突入する。自宅から松山まで、一時間半ばかりのドライブ。車内に流れているのは、この日のために、聴かずにとっておいた『にっかん飛切落語会 よりぬき名人名演集3』。先代の三遊亭圓楽一門のネタがピックアップされている。ニヤニヤしながら、松山自動車道を走り抜ける。

松山インターチェンジを下りて、国道33号線を北上すると、松山南環状線に繋がる十字路に辿り着く。そこを更に真っ直ぐ進むと、大街道交番前という交差点。これを左に曲がると、右手に有料駐車場が見えてくるので、そこに駐車する。30分100円という値段は、ちょっと高い気がするのだが、一般的にはどうなんだろうか。

有料駐車場に車を停めて、まず向かったのは松山市駅前にある高島屋。ここの7階に紀伊国屋書店があるのだが、以前に松山を訪れた際、そこで見つけた『志ん朝初出し』という古今亭志ん朝師匠のCDボックス(五割引)を買うためである。落語のCDにはCDボックスが多いのだが、とにかく高くて手を出しにくい。それが五割引、つまり半額で売られている! 見つけた当時は持ち合わせがなかったのでスルーしたのだが、今回はきちんと財布に銭を突っ込んで、満を持して購入してやろうと思い至ったのである。それなのに、置いてない。代わりに、昨年お亡くなりになられた立川談志師匠のCDが、これでもかと置かれている。……談志よ、何故死んだ!(不純) 肩を落としながら、いつものように津田演奏堂(演歌のCDを専門に取り扱っているお店。落語のCD・DVDも多数置かれている)に立ち寄り、三遊亭圓歌師匠のCDを購入する。さよなら志ん朝、こんにちは圓歌。高齢化社会を乗り切るぞ。

津田演奏堂を出て、次なる目的地であるシネマサンシャイン大街道に向かう。2月に放映される『幕末太陽傳』の前売り券を購入するためだ。シネマサンシャイン大街道は商店街の中にある映画館で、とてもこじんまりとしているが、清潔感があって雰囲気もいい。個人的に、かなり気に入っている。それ故に、いつも客入りの少なさが気になってしょうがない。潰れない様に頑張ってもらいたいものだ。ここは滞りなく、無事に購入することが出来た。まあ、特典のポストカードの存在を、完全に忘れられていたけれど。しっかりしてくれよ……。それから、ネットで事前調査していたつけめん屋「媛乃屋製麺所」に行く。地図でチェックした場所に行ってみると、店が見つからない。近辺をうろうろしていると、アパートの入口にしか見えない、小さな入り口を発見。よくよく見ると、そこがお店だった。まさに隠れ家的名店の様相を呈している。店舗は建物の二階にあって、店内からは道端を見下ろすことができる。なんだかオシャレだ。つけめんの大盛りを注文する。なかなか美味かった。

媛乃屋製麺所のつけめん※つけ汁はぐつぐつと煮立ってます。無料でスープ割も。

食後、車を有料駐車場から出して、落語会の会場であるキャメリアホールへと向かう。大街道の駐車場からキャメリアホールまでは一直線なので、道に迷う心配はない……と思っていたのだが、会場の駐車場が満車、周辺駐車場も満車という緊急事態。既に時刻は開演一時間前なので、急いで駐車場を見つけなくては。近辺をぐるぐるぐるぐる回っているうちに、松山駅前の駐車場に辿り着いたので、ここに停めることに。会場までは徒歩移動。……けっこう遠い。

どうにかこうにか、歩いてホール入り口へ。既に開場されているにも関わらず、入り口には沢山の人が見受けられる。当日券も売られていたが、まだ空席が残っているのだろうか。チケットをもぎってもらい、中へ。通路には物販コーナー、見ると、CD・手ぬぐい・ハンカチ・クリアファイル・著書が売られている。せっかくなのでと、手ぬぐい(1,000円)を購入する。客席に入ると、既に沢山の人たち。空席は目立たない。立川談春、メディア露出は殆どしていないが、人気はあるようだ。流石、立川流。或いは、談志師匠の訃報が影響しているのだろうか。着席して数分、客席が暗転。幕が上がった。

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「オンバト+」一月十四日放送感想文

チョコレートプラネット【469kb/1,001票】※会場審査1位・視聴者投票3位
三戦全勝、今期二勝目。コント『ヒムロクリニック』。「爆笑レッドカーペット」で披露していた記憶がある。氷室京介風の内科医が、患者を診察する。氷室の歌詞をふんだんに盛り込んだネタは、福田哲平を思い出す。その歌詞とシチュエーションが適合することで、どっと笑いが起こる。こういうネタは、原曲を知らなくてもそこそこ楽しめるからイイね。時折のナンセンスなボケも面白いが、むしろそっちメインで観たいという気持ちも少なからず。

THE GEESE【421kb/1,842票】※視聴者投票1位
六戦全勝、今期二勝目。コント『お客様サポートセンター』。購入した空気清浄機が壊れたので、サポートセンターに電話して対応してもらおうとすると、担当者がちょっと変な人で……。電話という、声と声だけで行われるコミュニケーションの場で日常的に行われているだろう言葉の例え、言葉の表現を徹底的にズラしたコントで、じんわりと面白さが染み込んでくる。なかなか笑えたが、彼らのナンセンスな世界観のコントが好きな僕としては、ちょっと物足りなさも。「スイッチというと、押すと何かが起こる例のアレ……」という言い回しは好き。

【389kb/975票】
五戦四勝、今期三勝目。漫才。ウィンタースポーツが好きだという話から、スキー場で女の子をナンパするコントへ。しゃべくり漫才から自然にコントへと突入するという、いわゆる漫才コントの様な導入ではなかったためか、客がネタにあまり引き込まれていなかった様に思う。ネタ自体は、長友のアクロバットな動きや不敵な表情が活かされていて、悪くはなかった。小林にイキってみせる様など、彼らの真骨頂だったと思うのだが……。

スギタヒロシ【437kb/1,737票】※視聴者投票2位
二戦全勝、今期二勝目。エイリアン漫談、再び。宇宙から帰って来た男の身体に入り込んでいたエイリアン、と漫才……というか漫談というか。以前にも書いたが、レッドスネークカモンで知られている東京コミックショウを彷彿とさせる芸風で、意外性はないが安定感がある。パペットマペットもそうだが、こういう芸の幅が狭そうな芸こそ、スキマ産業的な価値が生じやすいから油断ならない。そのうち、エイリアンや衣装が小奇麗になっていくことだろう。後は当人の頑張り次第、か。

エレファントジョン【397kb/904票】
七戦六勝、今期二勝目。漫才。30を過ぎたあたりから太り始めてきたという加藤の話に、森枝が余計な相槌を打ち続ける。漫才のスタイルは以前にも増して洗練されてきたが、結果は伸びず。確かに、クオリティは上がっているのに、どうも満足感は得られなかった。早口でまくし立てている割に、笑いどころが少なかったからかもしれない。しかし、そこもまた、彼らの魅力を引き出す要因ではないか……という気も。この辺りの塩梅は、なかなか難しい。

・今回のオフエア
369kb:コマンダンテ
349kb:モエヤン
341kb:テンゲン
221kb:村瀬雄一
201kb:ブリッジマウンテン

前回初オンエアのコマンダンテ、今回は惜しくもオフエア。あの不思議な世界観を、もう一度堪能したかったのだが。「爆笑レッドカーペット」で活躍していた印象のあるモエヤンとテンゲン、揃ってオフエア。ともに二戦二敗。彼らが再び、日の光を見る日は来るのか。

・次回
あかつ
【初】エーデルワイス
キャプテン渡辺
クロスバー直撃
【初】ツインズ
天狗
ななめ45°
パンダユナイテッド
風藤松原
ラバーガール

キャプテン渡辺・天狗が今期三勝目、クロスバー直撃・風藤松原・ラバーガールが今期二勝目を狙う。ラバーガールは前回、自己最高記録を更新。圧倒的力量を見せつけたが、果たして今回は。そして、第1回チャンピオン大会ファイナリスト、ななめ45°が遂に今期初出場。安定感のあるコントで、実力を見せるか。注目は、前回ネタを飛ばしてしまい、低キロバトルを叩き出してしまったキャプテン渡辺。リベンジなるか。

『現代落語論』(立川談志)

現代落語論 (三一新書 507)現代落語論 (三一新書 507)
(1965/12/10)
立川 談志

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立川談志が落語について書いた本。本が出版された当時、談志はまだまだ真打になったばかりの29歳。そんな若手の時期に書かれた本とは思えない程に、本書では落語というジャンルとがっぷり四つに組み合っている。……いや、恐らくは、落語家ならば誰もが少なからず、落語と真剣に向き合っていることだろう。ただ、落語を取り巻く状況に対して、イチ落語家として理性的に思いの丈を述べるには、29歳という年齢はどうも若過ぎる。何十年も経過した今でさえそう感じるのだから、それこそ当時はかなりの反響があったことだろう。そこに、まずシビれたね。

本書に書かれていることは、「落語とはどういうものなのか」「談志は如何にして真打(※一人前の落語家)になったのか」という基礎的な話から、「今、落語家はどうなっているのか」「今の時代に落語はどうあるべきか」「これから落語はどうなるのか」などの現状についての話まで、まさに『現代落語論』と呼ぶに相応しい内容になっている。きちんと基礎的な話もなされているので、落語についてそこそこ知っている人は勿論、さほど落語に詳しくない人でも読みやすいのではないだろうか。単に、談志のエッセイとしても楽しめるし。真打になるまでのプロセスなどは、知らない話も多くて面白かった。……まあ、僕はそもそも、師匠のことを殆ど知らないのだから、知らなくて当然なのだが……。

本書が出版されたのは1965年、つまり今から47年も前に書かれたことになる。そんな昔に書かれた本が、果たして21世紀を迎えた現代でも通用するのか……と、心配する人もいるだろうが、これが妙に通じるところがあるから面白い。例えば、落語の本質と大衆との間にズレが生じているのではないか、という話のくだりに出てくる「受ける芸人、とよく人がいうが、この受けるという言葉が、今や、笑わせる、という言葉に完全に変わってきてしまったといえる。そして、その笑いはその内容よりも量である」なる一文は、近年囁かれていたM-1グランプリの手数論を彷彿とさせる。勿論、落語と漫才とでは、それぞれ本質的な部分が違っているのだろうが、なかなか興味深い共通点である。多分、落語に興味がない人でも、読めば引っ掛かるところがある一冊ないかと思う。文体も読みやすいしね。

最後に、ちょっとグッときた文章を抜粋する。

 いいわけにならないかも知れないが、やはりわたしは大衆が欲しい。みんなに受けてもらいたいし、わかっていただいて支持されたい。このような悩みはわたしにかぎらず、モダンジャズ奏者である友人も、同じことをいっていた。
 ……そして、幸か不幸か、わたしたちのすぐ目の前にマスコミがある。しかし、古典落語だけではマスコミに入っていけない、とはいえ、一芸人として、今でいうタレントとしてなら当然、その力があり、素質がありさえすれば入っていけるし、しかもその中から頭をだすことも可能だ。
【略】
 しかし、ひとたびその世界で信用を得たときは、大衆はそれを噺の世界まで追っ駆けてきてくれるとわたしは信じたい。その信用によっていい落語を、笑いがたとえすくなくても良質の噺をお客さんに聞かせることができれば、噺の自信もでてくる。つまり、マスコミで得たものを寄席へ持って帰ってくればいいのだ。
 だから、飛びだして行くのはいい。しかし、絶対に寄席へ帰ってこなくてはいけない。マスコミで売れた、そのキラキラしたひかったものが、いまの落語の世界にはとくに必要なのだ。


落語に限らず、閉鎖的なジャンルならどれにでも当てはまる言葉ではないか、と思う。

『ナイツ独演会 其の二』

ナイツ独演会 其の二 [DVD]ナイツ独演会 其の二 [DVD]
(2012/01/11)
ナイツ

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漫才協会所属の漫才師、ナイツ。彼らが初めて単独DVDをリリースしたのは、2008年12月のことだった。DVDのタイトルは『ナイツのヤホーで調べました』。当時、塙がネットで調べてきたという間違った情報を喋り続け、それに土屋が制止するでもなくツッコミを入れていく“ヤホー漫才”で人気を博していたナイツは、この作品に当時のベスト“ヤホー漫才”、そして彼らの拠点ともいうべき浅草を漫才調で案内する“浅草紹介”を収録した。テレビで目にするナイツの漫才を堪能できると同時に、彼らが浅草を中心に活動しているということを深く印象付ける、まさに入門書と呼ぶに相応しい一枚である。この翌年、2009年2月には『21世紀大ナイツ展』をリリース。ここでは、ヤホー漫才を開発するより以前にナイツが演じてきた、様々なスタイルの漫才を観ることが出来る。要するに、彼らの漫才師としての紆余曲折の歴史が理解るわけだ。

この二作品で、ナイツは自身の“基礎知識”と“漫才師としての歴史”を、視聴者に提示している。一部のファンのみをターゲットとしたDVDも少なくない昨今において、ここまで自らを理解してもらうために徹底している若手芸人を、僕は他に知らない。実に賢く、堅実である。

『21世紀大ナイツ展』のリリースから二年近く経過した2010年12月、彼らは『ナイツ独演会』をリリースする。独演会と銘打っているが、その内容は単独ライブのそれと同様だ。但し、舞台は国立演芸場。そしてゲストには、漫談の中津川弦、漫才の宮田陽・昇、落語家の三遊亭小遊三を招いていて、いわゆる単独ライブとは少し違った雰囲気を醸し出している。ここでナイツは、若手芸人のファンにはあまり馴染みのない、寄席の空気を再現してみせたのではないだろうか。彼らの主戦場である演芸場が、果たしてどういう場所なのか、またどういう芸人が登場するのか、それを見せようとしたのではないだろうか。翌年の2011年1月には、ナイツとともに漫才協会に所属しているWコロン、ロケット団で結成された“浅草三銃士”(※現在はU字工事も加わっている)によるDVD『浅草三銃士』をリリース。三組の漫才と同時に、浅草芸人たちのディープな話題が散りばめられている。この二作品で、ナイツは浅草演芸の表と裏を切り取っている。彼らなりの、浅草演芸に対する愛情表現といってもいいのかもしれない。

そして、2012年1月11日。ナイツはおよそ二年ぶりとなる独演会DVD『ナイツ独演会 其の二』をリリースした。本作には、2011年9月に国立演芸場で行われたライブ、「ナイツ独演会2011」の様子が収録されている。

開口一番、登場するのは主役のナイツ。お馴染みのスーツに身を包んで、ゆったりとトークを始める。ライブ当日、関東に接近していた台風についての話から、どうしても触れざるを得ない震災の話題へ。瞬間、重たい空気になるも、「塙:考えた結果、今日は自粛にさせていただきます!」と、逆手に取ったボケを見せつける。こういう時だからこそ、笑わなくてはならないんだ……というメッセージが込められているのかどうかは分からないが、実に力強い開き直り宣言である。挨拶もそこそこに、漫才を開始。最初の漫才は、ヤホー漫才と同じ系譜を踏んでいる、お馴染みの自己紹介漫才……と思いきや、ところどころで身内ネタが。塙の友達、家族、漫才協会の人々など、観客の理解が届かないボケがどんどん飛び込んでくる。一筋縄じゃいかないナイツの本分が見える漫才といえるかもしれない。「塙:このネタ、昨日嫁に見せたら爆笑だったよ!」。

続いて、現れたのは三四郎という漫才師。「M-1グランプリ2010」では準々決勝に進出した、若手の注目株だ。ナイツと同じマセキ芸能社に所属している。今回、彼らが披露した漫才は、『悪魔ゲーム』なるもの。ルール不明の悪魔ゲームを強いられる、創作型の漫才だ。正直、内容はくっちゃくちゃで、とても見られたものではない。ただ、ところどころで飛び出してくるナンセンスなボケが、妙に面白い。大爆発の予感を匂わせながらも、まだまだ不器用で上手くコントロール出来ていないといったところだろうか。三四郎の漫才が終わると、続けてカントリーズという漫才師が登場する。彼らもまた、マセキ芸能社に所属しており、現在は漫才協会にも籍を置いているという。『夏バテ』という実に分かりやすいテーマで、オーソドックスな東京漫才を見せつけてくれた。華やかさはないが、だんだんと面白くなっていくコンビではないだろうか。

二組のゲストによる漫才が終わると、再びナイツの二人が登場。立て続けに三本の漫才を披露する。国際化社会に向けて英語でヤホー漫才をしてみる、ツッコミがしっくりこないのでボケとツッコミを入れ替えて漫才をしてみるなど、独演会ならではのネタが並んでいる。ようやく、漫才のフォーマットで遊ぶ余裕が出てきた、ということなんだろうか。その中で披露された、塙が夏バテの症状を理解できずに、病院で診察してもらう漫才が秀逸の出来。ボケの手数は少なく、決して賞レース向けではないのだが、実にナンセンスでバカバカしいネタだった。もしかしたら、本来の彼らは、こういう漫才をやっていきたいのだろうか。「土屋:だから夏バテだからでしょ!?」。ちなみに、この時のナイツは私服っぽいラフな格好で登場している。気軽に楽しんでくださいといわんがばかり。

三本の短い漫才が終わると、今度はゲストの春風亭昇太師匠が登場。五十を過ぎているとは思えない若々しい足取りで、高座へと上がる。マクラは勿論、ナイツについて。昇太師匠はナイツと同じ落語芸術協会に所属している。「昇太:久しぶりに見ましたね。見る見る、顔が変わっていって、売れていく芸人の姿を」。それ以前のナイツは、まったく違う表情をしていた。「昇太:なんか、ただ生きてるだけ、みたいな。そんな二人だったんですよ」。ネタは『力士の春』。息子を相撲取りにしようとしている両親が、英才教育を施す様をナンセンスに描いた新作落語だ。昇太師匠の新作でも鉄板の名作といわれているが、ここでも確実にウケていた。……強い!

昇太師匠が引っ込むと、ナイツによる最後の漫才が始まる。ピシッとしたスーツに戻り、2011年の話題を総ざらい。伊達直人、八百長問題、カンニング問題など、2012年になった今となっては懐かしい話題が多い。……当然か。その消費されまくった時事ネタに、さらりと「塙:M-1グランプリ、八百長あったんです」とエッジの利いたボケをブチ込むあたりが、実にらしい。これもM-1の風化とともに、通用しにくいネタになっていくのだろうが。ところが、この時事ネタ漫才が、後半に突入して国民栄誉賞の話に突入した途端に、ガラリと雰囲気を変えていく。詳しくは書けないが……「塙:ちょっと可愛過ぎるんですよね……顔が」「土屋:……まあ、個人の見解なんでね」。彼らの悪意が剥き出しになった秀作といえるだろう。実に満足だ。

ところで、本作には特典として、ライブでは披露されたものの、版権的な理由で編集せざるを得なかった漫才が、ナイツ自身の解説と合わせて収録されている。編集した上で収録してくれたことは有難いのだが、解説を外せる仕様にしていないため、実際のライブではどういう漫才が演じられていたのかがイマイチ理解できないのが実に残念。まあ、そもそも収録できなかったネタを収録してくれているのだから、文句をつけるほどのことではないのかもしれない。それよりも問題なのは、音声特典。ナイツによる「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」のネタに対する音声解説が収録されているのだが、実際の録音収録では立て続けに映像が流れていたらしく、三組のネタに対する解説がぶっ続けで繰り広げられているのに対し、DVDでは単独チャプター扱いになっている(※要するに、「三組ぶっ通しで解説を録音しているにもかかわらず、三組ぶっ通しで再生できない」)のは、どういうことなのか。おかげで、解説がブツ切りになって、聴こえないところがある。どうしても聴きたいわけではないが、こういうちょっとした粗が印象を悪くする。本編が上々の出来だっただけに、残念である。

……ただ、「ナイツ漫才1」の音声特典は必見。いや、必聴。漫才をしている最中の塙が、どういうことを考えて話題を展開しているのかが分かる、割とガチンコな解説になっているので。ナイツの漫才が好きな人なら、聴くべき。


・本編(87分)
「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」「ナイツ漫才2」「ナイツ漫才3」「ナイツ漫才4」「春風亭昇太」「ナイツ漫才5」

・特典映像(14分)
「ナイツ特典漫才(音声解説バージョン)」

・音声特典(ナイツによるネタ解説)
「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」

人生に影響を与えたネタ45本

「MUSIC SOUP -45r.p.m.-」という番組がある。プロのミュージシャンたちが、人生に影響を与えた珠玉のナンバー45曲を語るトーク番組だ。僕たちはその生きる過程上、必然的に多方面から様々な影響を受けざるを得ないわけだが、それにしても45曲というのは些か多すぎやしないか、と思わなくもない。中には、さほど思い入れがないけれども、色々探しているうちに思い出したので……という楽曲もあるんじゃないだろうか。まあ、そういう楽曲があったからといって、何も文句は無いのだが。

ところで、こういう「人生に影響を与えた楽曲」という企画の与える既視感は、一体なんだろう。しばらく考えているうちに、答えに辿り着いた。この企画、“バトン”に似ている。“バトン”とは、かつてブログ界隈で流行した、一種のアンケートである。同じ質問を知り合いのブロガー同士で回し合うところから、“バトン”と呼ばれている。その質問内容はというと、当たり障りのない質問や、その人自身に触れるプライベートな質問、はたまた大喜利の様に遊び心の溢れる質問まで、実に様々だ。せっかく知り合えたのだから、袖振り合うも多生の縁、お互いのことをもっと知ってみよう……ということなのだろう。しかし、そもそも匿名性の高いインターネットの世界において、相手を容易に知ろうというスタンスが良くなかったのか、あっという間に廃れてしまった。……或いは、僕も知らないところで、密かに今も続いているのかもしれない。あの日、あの時、僕が誰かに渡したバトンは、今頃どこでどうしているのだろうか。

話を戻す。「人生に影響を与えた楽曲」という同一の質問を様々なミュージシャンにぶつけてみる、この番組のスタンスはまさに“バトン”そのものだ。だからこそ、なんともいえない既視感もあれば、ちょっとやってみたいという気持ちもふつふつと湧いてくる。……インターネットを利用している人間は、プライベートに関する質問は苦手なくせに、こういう結果的に自分自身を語るような企画は大好物なのだ。面倒臭い生き物だね、どうも。

というわけで、これは僕もやってみようと思ったのだが、しかし考えてもみれば、僕の「人生に影響を与えた楽曲」が果たして45曲もあるのかというと、正直いって自信がない。そこで、これを自己流にアレンジして、「人生に影響を与えたネタ」にしてみることにした。音楽については詳しくないが、芸人のネタについてはそこそこ詳しいつもりである。だから、まあ、これならば出来るのではないかと踏んだわけである。まあ、影響を受けたといっても、僕は芸人としてアウトプットする側ではないのだが。細かいことは気にしない、思いついたからやるのである。

以下、発表します。

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『こんぺいとう』(ニッチェ)

こんぺいとう [DVD]こんぺいとう [DVD]
(2011/12/21)
ニッチェ

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島根県出身の江上敬子と三重県出身の近藤くみこによって結成された女性お笑いコンビ、ニッチェ。遠く離れた場所で生まれ育った二人は、映画スタッフを多く輩出する日本映画学校で出会った。当時、二人はともに女優を志していたのだが、同校の講師に「女優は無理だ。お笑いに行け」と忠告され、2005年にコンビを結成し、芸人としての活動を開始する。講師の言葉は正しかったようで、二人はコンビ結成四年目で若手芸人出演のお笑い番組のレギュラーとなる。後に番組は終了するが、その後も芸人として着実に成長を遂げ、2011年には「お笑いハーベスト大賞」「NHK新人演芸大賞」をダブル受賞。今、最も注目すべき女性コンビとして、評価されつつある。勢いあるね。

ニッチェの二人が「お笑いハーベスト大賞」「NHK新人演芸大賞」を受賞したネタは、いずれも同じコント『子役オーディション』だ。その内容は、近藤扮する子役志望者が初めてのオーディションに緊張していると、江上扮する芸歴五年目の子役がやってきて先輩風を吹かし始める……という、設定自体はごくありきたりなもの。中身に関しても、こういうコントではありがちな「高い目標を自慢する」「演技の凄さを見せつける」「本番に弱い」などの、実にオーソドックスな展開を見せている。だが、江上が演じる子役のアクの強さが、その盤石の設定・展開に大きなうねりを生み出す。この“うねり”によって、『子役オーディション』は単なるオーソドックスなシチュエーションコントの域を脱し、一味違った濃厚な世界へと変貌を遂げる。

『子役オーディション』の最大の見どころは、なんといっても先輩子役が尊敬している役者としてカツシン(勝新太郎)の名前を挙げる序盤のくだりである。決して否定するわけではないが、子役が目指すには高すぎる、それでいて渋すぎる目標だ。そのギャップだけでも面白いのに、更に彼女はカツシンの演技(恐らくは『座頭市』を意識)をしてみせる。これがまた、絶妙に上手い。カツシンのことをちょっと知っている程度の人間が見ても、それがカツシンであるとすぐさま理解できるだろう。

ニッチェによる初めての単独DVD『こんぺいとう』には、『子役オーディション』を含む12本のネタが収録されている。そのうち8本がコントなのだが、やはり『子役オーディション』が抜群に面白い。これ以外のコントもかなり高い水準にはあるのだが、ややキャラクターの個性に頼っているきらいがある。カツシンレベルの“うねり”は、そう簡単に見せてはくれないようだ。ただ、江上のおばちゃんキャラ全開の『社員食堂のおばちゃん』は、一見の価値あり。完成されたキャラクターもさることながら、生々しい品のなさがなんともたまらない。「丁度いいじゃないか。あんた、男も日替わりだもんなあ……」。

残りの4本には漫才が収録されている。ニッチェといえばコントのイメージが強いが、実は漫才もなかなかイケる。ここでの江上は素の状態だが、言動はコントのそれと同様に濃厚だ。中でも、泣いている女友達をなぐさめるのが苦手だという江上が、近藤を相手になぐさめる練習をする『女友達のなぐさめ方』は、人間の表面的な付き合いの面倒臭さを浮き彫りにしたメッセージ性の強い漫才である。……いや、メッセージはないかもしれないが、ズバズバと本音を口にする姿は実にロックンロールであった。「話聞いてやってんのに、なんで飯奢んないといけないんだよ!」。その江上もまた、打算的な理由で女友達と繋がっていようとしているところが、また生々しい。どんなに否定しても、彼女もまた性という枠組みに捉われているのである……って、だからそういうネタじゃないってば。

高いポテンシャルを持ったコンビ、ニッチェ。しかし、既にテレビバラエティでは、多種多様の個性溢れる女性芸人たちがそれぞれの住処を定めている。彼女たちも、いずれそこに飛び込まなくてはならない。漫才やコントが出来たとしても、その能力がバラエティでも活かされるとは限らない。果たして、彼女たちはどの様に注目され、世に出ていき、どのような場所に落ち着くのか。勝手ながら、気になる次第である。


・本編(61分)
「子役オーディション」「社員食堂のおばちゃん」「ガールズトーク」「ヤンキーのひみつ」「女友達のなぐさめ方」「面接」「島根」「カリスマ美容師」「逆ナン」「保育園の先生になりたい」「海女と真珠」「お母さんの告白」

・特典映像(3分)
「ニッチェとサマーデート ~ケイコとクミコどっちが好きなの?~」

『浅草芸人』(中山涙)

浅草芸人 ~エノケン、ロッパ、欽ちゃん、たけし、浅草演芸150年史~ (マイナビ新書)浅草芸人 ~エノケン、ロッパ、欽ちゃん、たけし、浅草演芸150年史~ (マイナビ新書)
(2011/12/23)
中山 涙

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中山涙による浅草演芸150年史。江戸時代から現代にかけて、浅草の演芸がどのような動きを見せていたのかを一冊にまとめている。演芸史について書かれた本はこれまでにも何冊か出版されているが、浅草という場所に限定している歴史書は珍しいのではないだろうか。肝心の内容はというと、様々な歴史的事実をこれでもかと詰め込んでいるために、些か読みにくい。“浅草演芸史”という大河を描こうとしたのだろうが、その流れはあまりにも広く、また複雑過ぎた。

浅草演芸史の中心人物である“榎本健一(エノケン)”“古川ロッパ”が登場してからは、それも幾らか解消されるのだが、それでもまだまだ読みにくい。人名、企業名、事件などの話が膨大で、こちらの処理が追い付かないからだ。いっそ、各章ごとに年表でも作っておいてくれたら、この読みにくさも幾らか解消されたかもしれない。……が、どのみち、複雑であることに変わりはないだろう。だが、そんな膨大な史料を強引にでも包括しようとした、著者の意欲的な態度は認められるべきである。それに、全体的に見れば複雑ではあるが、文章は淡々としていてむしろ読みやすい。もう少し時間があれば、より快適に読むことの出来る一冊に仕上がっていただろう。実に惜しい。また、複雑かつ膨大であるということは、手探りに読み進めていけば、どこかしらで興味深い記述に巡り合える可能性がある、ということでもある。そして本書は、そういった巡り合わせが数多い。個人的に引っ掛かったのは、「吉本興業」のくだり。吉本興業が東京に進出したエピソードも週刊誌的に面白かったが、大阪吉本のコテコテ感と東京吉本のキラキラ感の違いがどうして生じたのか、漠然と理解できたのは大きな収穫であった(勿論、大阪と東京の土地柄の違いも大きいのだろうけど)。

あとがきにて、著者は次の様に語っている。「昔の文化を過剰に懐かしがるのも間違っているし、無意味なものだと切り捨てるのも間違っている。温故知新と「昔はよかった」は絶対に違う。歴史を学ぼう。過去の芸人さんが生み出した笑いを知ろう」と。本書は、その橋渡しに相応しい一冊といえるだろう。とりあえず僕は、エノケンの映画が観たくなった。

『にっかん飛切落語会 よりぬき名人名演集1』

にっかん飛切落語会 よりぬき名人名演集(1) (バンブームック 落語CDムック)にっかん飛切落語会 よりぬき名人名演集(1) (バンブームック 落語CDムック)
(2011/10/15)
不明

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・三遊亭小遊三『浮世床』

【あらすじ】江戸時代の散髪屋、髪結床には暇を持て余した男たちがごろごろとたむろっている。碁を打っているヤツもいれば、将棋を指しているヤツもいる。が、どちらも、なんだかバカみたい。そんな中、輪に入らずに本を読んでいるヤツがいる。せっかくだから皆に聞かせてくれないかと頼むと、渋々ながら読み始め……。

【感想】ストーリーもへったくれもない、江戸に生きる男たちの日常風景を描いた一席……なんて書くと、なにやら大袈裟だが、まあバカみたいな落語である。実際のところ、どうなんだろう。流石にこんなやり取りを毎日続けていたら、バカを通り越してイヤになって首くくっちゃいそうだけれども。割とベタなギャグが続く一席、だけどテンポでぐいぐい惹きつける。そこから、「本」のくだりのニュアンスギャグ連発がくるから、たまらない。ただ、演じる小遊三師匠が所謂ところのイイ年で、やや若くて生き生きした男たちを演じるに相応じゃない。師匠の『浮世床』は以前に若い頃の音源がCD化されているので、個人的にはそちらをオススメ。「夢」のくだりもあるしネ。

・桂歌丸『紙入れ』

【あらすじ】出入りしている家のおかみさんに気に入られて、男女の仲になってしまった若い男、新吉。今日も手紙を貰って、旦那の家で二人イチャイチャしていた。と、そこへ、帰ってこない筈の旦那が、予定を変更して帰ってきてしまった。慌てて家を飛び出す新吉。何か忘れ物はないかと懐を探ると、おかみさんから貰った手紙を入れた紙入れが……。

【感想】間男の落語。落語にはやたらと間男が出てくる。実際に間男しているヤツもいれば、間男と間違えられるヤツもいる。まあ、どちらにしても、落語の題材にしやすいバカってことなんだろう。で、この落語に出てくる新吉は、間男の上に間男をした家に忘れ物をしてくるっていう、混じりっ気のない純粋なるバカである。こんなことがアチコチであると思うと、女房を貰おうという気になれないネ。人間を相手にするのヤメて、ヤギかヒツジでも飼っちゃおうかしら……。色気のある落語で、途中で「よく聞けば猫が水飲む音でなし」なんていう、生々しい川柳も飛び出す。……意味は聞くな。それを“笑点の翁”こと歌丸師匠が演じている。一見すると適役じゃないように見えるが、師匠の達観した視点から演じられる男女の様は、人間のどうしようもない部分を強調して、実に面白い。それまで、師匠といえば人情噺・怪談噺の印象が強かったのだが、こういうバカな滑稽噺が一番面白いように思う。

・立川談志『五人廻し』

【あらすじ】舞台は吉原の女郎屋。二階の廻し部屋に通された男たちが、遊女が来るのを今か今かと待っているのだが、いつまで経っても来る様子がない。と、そこへ通りがかったのが、店の若い衆。来ないなら帰るから銭を返せ、と情けないことを言う。どうぞお待ちを……と抜け出すと、また別の部屋で捕まる。そこを抜けると、また別の部屋。十人十色の客たちが若い衆に文句をぶつけ、来ないのなら銭を返せと詰め寄る。そして、どうやら彼らが待っているのは、どうやら同じ遊女らしく……。

【感想】恐らく、落語で最もネタにされている「吉原」の一席。男が女を買いに行く場所、つまり男女の関係や金銭の関係が絡む場所なので、ネタも作りやすいのだろう。実際、傑作が多い。この落語が面白いのは、遊女に待ちぼうけを食らっている十人十色の男たち。江戸っ子ぶって、吉原の歴史をイチから語り始める男もいれば、田舎者、軍人まで登場する。実に多種多様だが、全員がいってることが結局は「銭返せ」だってんだから、なんとも情けない。どんなに見た目、様相を装っていても、人間の本質はやっぱり欲なんだなあ……と、しみじみと思わせられる。それを演じる立川談志家元、彼らの個性を最大限に煮詰めて、濃厚なキャラクターとして笑わせる。時事ネタが絡んでいるので、ところどころで笑えないところもあるが、それを凌駕するほどの大ハクリョク! 個人的にたまらないのは、最後に登場する杢兵衛大尽。若い衆に銭を与える場面、札を指でつまんで「ほーれ、欲しかんべ!欲しかんべ!こんな銭、見たことねえべ!」とはしゃぐ様子が、憎らしいのに可愛らしいのはどういうことだ?

柳原可奈子初単独ライヴ『見せたがり女』

柳原可奈子 初単独ライブ「見せたがり女」 [DVD]柳原可奈子 初単独ライブ「見せたがり女」 [DVD]
(2011/09/21)
柳原可奈子

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次世代を担う女性ピン芸人、柳原可奈子が自身にとって初めての単独ライブ「見せたがり女」を2011年7月に行った。彼女の名前が世に知られるきっかけとなったバラエティ番組、「爆笑レッドカーペット」の初回放送から約四年半、ようやくの初単独ライブである。彼女と同様に、「爆笑レッドカーペット」への出演をきっかけに人気芸人となった狩野英孝の初単独ライブが2008年8月、ロッチの初単独ライブが2009年10月に行われたことを考えると、その遅さがよく分かる。しかし、考えてもみれば、柳原が所属している芸能事務所は、かつて一世を風靡した山田邦子を世に送り出した太田プロ。隠しきれない華を持った彼女の売り出し方に、些か慎重だったのかもしれない。

本作は、単独ライブから約二ヶ月後にリリースされた、やはり彼女にとって初めてのライブDVDである。……ライブまでにかかった時間が長いのに、ライブがソフト化されるまでの時間がやたらと短い。お笑いブームが終わったとはいえ、まだまだ需要があるということだろうか。収録されているコントは、柳原本人を診察しているスピリチュアルカウンセラーに扮したオープニングコント『見えすぎた女』を含む、全八本。いずれも、個性溢れる女性たちのリアルな姿を切り取った、彼女の芸風を如何なく発揮したコントばかりだ。それらの中には、相手が自分のことを知っていることを前提に会話を進めようとする『知らない?女』や、ありとあらゆる出来事をブログ最優先で考えている新米ママを描いた『ブログ女』のように、彼女が出演していたコントバラエティ番組「爆笑レッドシアター」で目にした記憶のあるネタも幾つか見受けられる(幕間映像には、「逃走中」に参加しているスタイリストの北条マキも登場)。どうやら、これまでのベスト的な意味合いも兼ねているようだ。売れてからライブが行われるまでの四年半をギュッと詰め込んだ、といったところか。

一方の新ネタはというと、これもなかなかに出来が良い。中でも印象に残ったネタが、柳原がアニメ声優に扮して、自身が出演するアニメ「まじょまじょカレン」のDVD発売記念イベントに出演するというコント。そのシチュエーション故に、彼女が語る話題の大半はアニメ本編の内容や声優としての活動に関するものになるのだが、それによって生み出される内輪の空気がなんともいえずこそばゆい。この“こそばゆさ”が、実にたまらない(「せつなさでご飯三杯いける」というセリフ回しの絶妙さよ……)。実際のアニメDVD発売記念イベントも、こういう空気になっているのだろうか。基本、このコントは、柳原が空想のアニメについて楽しく語っているだけの、実に微笑ましい内容になっている。ただ、このネタのタイトルが『声だけはイイ女』というところに、物凄い悪意を感じるのは僕だけだろうか。

出来のいい新作コントにベストコント。実に充実したラインナップだが、不思議と鑑賞後の満足感は弱い。その原因は、恐らく内容の薄さにある。柳原が演じているキャラクターたちは、確かにリアルで面白い。「現実にいそうだな」と思わせられる。ただ、そこから、何か進展するということがない。本作に登場するキャラクターたちの多くは、ごく当たり前の日常を切り取られ、そして暗転と共に消えてしまう。そんな日常の数々を、きちんと笑えるコントとして昇華しているだけでも十二分に凄いのだが、ここで踏み止まってもらいたくない。更なる高みを目指すべく、彼女には奮闘してもらいたい。

ただ、その一方で、この薄さこそが柳原可奈子という芸人の魅力に繋がっているのではあるまいか、という疑念もある。本作の幕間映像として収録されている『Yana Tube』(※YouTubeのパロディ。検索ワードに沿った柳原の動画が流れる)では、彼女が様々な女性たちの瞬間を演じている姿が見られる。ほんの僅かな時間しか使われていないにも関わらず、そこに映し出されている女性たちの姿はリアルで面白い。対象を深くえぐることなく、表面的な姿をそこに描写する。それこそが、柳原可奈子の本分なのかもしれない。今はまだ分からないが……彼女の次のステップが気になるところだ。

……それにしても、『居酒屋ですべる女』は何度見ても面白い。酔った勢いで得意げに口にしたツマラナイ一言を発した女性が、場が白けてしまったことを察知するまでのタイムラグが絶妙だ。これだけでご飯三杯いけるね。


・本編(78分)
「見えすぎた女」「オープニング」「ご想像におまかせします女」「Yana Tube1」「休ませて~女」「DJ RICO」「知らない?女」「Yana Tube2」「今は会いたくない女」「やらせて!TRY ギャル カオリ編」「声だけはイイ女」「逃走中」「ブログ女」「Yana Tube3」「テレビ業界の女」「エンディング」

・特典映像(15分)
「やらせて!TRY 女子大生マミ編(未公開)」「「見せたがり女」の舞台裏」
プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

Twitterアカウント
https://twitter.com/Sugaya03

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