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現役落語家のCDリリース表2012

落語ブームと言われて久しい。

『タイガー&ドラゴン』『ちりとてちん』など、落語をテーマにしたドラマが制作されていた時代もすっかり懐かしい昨今。テレビでは相変わらず漫才・コントなどの色物芸が主流だが、その一方で、落語を求める声はじんわりと広がっている。落語に関する出版物は勿論のこと、落語の口演を収録したCD・DVDのリリース量も以前に比べて格段に増加した。非常にゆっくりではあるものの、古典芸能となりつつあった落語は着実に大衆芸能への道を辿っている。

落語の何処が素晴らしいのか。落語が素晴らしいとされる理由の一つに、「笑いだけを表現するものではない」という点が挙げられる。世間一般では、落語といえば笑えるものだというイメージが浸透していると思われるが、必ずしもそうではない。滑稽噺が落語の本流であることは確かだが、人と人とのつながりを描いた人情噺や怨恨や情念がおどろおどろしく表れた怪談噺など、様々な演目が存在している。いわば落語は、ドラマや映画のように人間の喜怒哀楽を刺激する芸能なのである。

しかし、それだけ複雑な表現が可能な芸能であるにも関わらず、落語はまだまだ世間一般に浸透し切れていない。何故か。落語を論じる人には、どういうわけか現場主義者が多い。寄席の敷居の高さについては認めているものの、落語を聴くならばホールで行われる独演会に行け、と彼らは語る。それ自体は間違いではない。落語に限らず、基本的に芸能は場の空気が大きく完成度に関わるジャンルである。そして、場の空気を肌で感じるには、テレビやパソコンの映像として観るよりも、ライブで観た方が断然良い。とはいえ、いきなり独演会に行くというのはハードルが高い。オススメの落語家を紹介している本も随分増えたが、それを参考に高いチケット代を払うのは気が引ける。第一、好みの落語家がいたとしても、近くで独演会を開催してくれるとも限らない。地方在住ともなれば、近場に来てくれる落語家の数はごく僅か。ちょっと遠出するにも、けっこうな金がかかる。車を出せば高速料金と駐車料金を取られ、電車に乗れば電車賃、バスに乗れば乗車賃、食事を取る必要もあるし、どうせなら物販で手ぬぐいとかも買いたいし……となると、財布が軽くなってしょうがない。そういう行為が当たり前と思っている落語ジャンキーになるまでの道は、なかなか長くて険しいのである。

かくして、ひとまず一般の人が落語ブームに触れるためには落語のCDを聴くのがベストなのではないか、というのが私の持論である。先にも書いた様に、ブームと言われるようになってからというもの、現役落語家の口演を収録したCD・DVDは数多くリリースされている。無論、多少の当たり外れ、好みの差異などはあるだろうが、それでも負担は少ない。なにせ、安いCDになると、2,000円で買うことが出来るのである。無論、何から何まで買う必要はない。最近では、レンタルコーナーも随分と充実してきた。特にTSUTAYAは力を入れている感がある。立川志の輔・春風亭昇太・柳家喬太郎など、初心者にも分かりやすい落語家のCDを取り揃えてくれている。

……と、話が長くなってきた。そろそろ本題に取りかかろう。

最初にも書いた様に、落語ブームと言われて久しい昨今。しかし、この2012年は特に、ブームが形となって表れた年であった。桂三枝が師匠の名跡“桂文枝”を襲名し、桂平治が大名跡である“桂文治”を襲名し、二つ目時代から人気を博していた春風亭一之輔が真打になり、昨年末にうっかり死んだ立川談志の初の孫弟子の真打が誕生したり……非常に実りのある一年だった様に思う。その動きが落語CDのリリース傾向にも、多少の反映がなされたようで、今年は実に様々な作品がリリースされた。今回の記事は、そんな2012年の落語CDをひとまとめにしてみたものである。とはいえ、いわゆる昭和の名人と呼ばれる落語家たちのCDは含んでいない。無論、彼らの口演にも素晴らしい発見はあるが、やはり現代に生きている以上、現代の落語家を聴くのがスジというものだろう。

というわけで、非常にぞろっぺえなまとめではあるけども、よければ一つお付き合いをば。

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「立川志の輔独演会」(岡山)

一週間ぶりに、岡山市民文化センターに行く。

先週は、この場所へ柳家小三治独演会を鑑賞するために行ったが、今回は立川志の輔独演会「志の輔らくご」の鑑賞のために来た。柳家一門と立川一門。落語界に詳しくない人には、この二つの流派はまったくの無関係だと思われるかもしれないが、実は非常に深いかかわりがある。というのも、立川流の家元である立川談志は、そもそも柳家一門だったのだ。ところが、師匠である先代の柳家小さんと意見で対立し、柳家一門を飛び出して、落語立川流を創設した……と、こういう経緯があったわけだ。

ちなみに、小三治は談志の弟弟子にあたり、志の輔は談志が柳家を飛び出す直前に取った弟子である。こう考えると、なにやら深い因縁があるような無いような……いや、多分無いんだろうけど。

開演は18時30分、終演は21時。予定では2時間で終わる筈だったらしい。

■立川志の彦『松竹梅』
開口一番は、志の輔五番目の弟子・志の彦。マクラを少しもふることなく、とっとと古典落語『松竹梅』へ。松さん竹さん梅さんの職人トリオが結婚式に呼ばれたので、御隠居から余興を習うことになるのだが……という演目。最初は危なっかしげな印象を受けたが、流れに乗ると、良い意味での軽妙さが出てきた。ネタの肝となる式で余興を始める三人のくだりも、三者三様のバカバカしさがきちんと笑いになっていた。ただ、途中でオチの前フリになる言葉が出てきたにも関わらず、途中でネタを切ってしまったのが、ちょっとだけ違和感を覚えさせた。マジメに覚えたところをそのままやったのかしらん。ちなみに、『松竹梅』を聴くなら、林家木久扇柳家喬太郎がオススメ。

■立川志の輔『猿後家』
ゆっくりと登場し、低いトーンでじっくりとマクラを始める。ただでさえガラガラした声なのに、これではちゃんと聞こえない……と思ったら、だんだんと声が高くなり、しゃべりもスピーディーに。オリンピック・パラリンピックの話から、“芸術性”を評価される競技の選手は辛いだろうな、という話へ。「そこを評価されるという意味では、我々も同じなわけですが……」と、ここで小噺を連発し、「これを評価しろって言われても……」的な言い回しのことを。抑揚のある話に大笑いしながらも、ちょっとマクラが長いんじゃないかしらん、と思い始めたところで古典落語『猿後家』。猿に似ているが故に、猿に関係する言葉にやたらと敏感な後家さんの家に出入りする職人たちの苦労を描いた話。既にCD化されている演目だけれど、マクラの勢いがあったからか、これがバカみたいに面白い。猿後家さんの家に錦絵を持って行くくだり、あんなに笑える場面だったっけ? 最初から最後まで、とにかく大笑いの一時間だった。

志の輔 らくごBOX志の輔 らくごBOX
(2003/04/23)
立川志の輔、きたろう 他

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~仲入り~

■松永鉄九郎『長唄三味線』
考えずに感じる時間。しっかし、改めて三味線の音色はイイ。心が洗われる。

■立川志の輔『新版・しじみ売り』
海外で公演をするときは、三味線の音色には敵わない……という話から、『新版・しじみ売り』へ。手を真っ赤にしてしじみを売っている少年を可哀想に思った男が、そのしじみを全て買ってあげる。更にお金を渡そうとすると「受け取れない」と断られたので、その事情を伺ってみると……。これもCD化されているネタだが、これまたナマで聴くとやっぱり迫力が違う。子どもが男に事情を説明するくだりの緊張感もさることながら、終盤の男とその弟分のやり取りもたまらない。そして、何故だかほっとしてしまうオチ……一足先にやってきた冬に思わずシャツの衿を立ててしまいそうになる、寒くて切ない口演であった。ちなみに、演目に“新版”とあるのは、中盤からオチにかけての展開を大幅に変えているため。

志の輔らくごのごらく(3)「みどりの窓口」「しじみ売り」―「朝日名人会」ライヴシリーズ31志の輔らくごのごらく(3)「みどりの窓口」「しじみ売り」―「朝日名人会」ライヴシリーズ31
(2005/11/23)
立川志の輔

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ちなみに、物販は無し。でも、充実した時間を楽しめたので、もろもろ良し!

女子×落語×雑談÷落語=

落語が密かなブームになっている……そんな風に囁かれていた頃から随分経ったような気がするが、相変わらず落語は密かなブームのままである。テレビに出演している芸人といえば、今も昔も大手芸能事務所に属する漫才師・コント師・ピン芸人ばかり。そこに落語家の姿を見ることは無い。テレビで見かける落語家といえば、やっぱり「笑点」の大喜利コーナーくらいのもの。それでも、そっと耳をすませば、落語が密かなブームになっている、という声が相変わらず聞こえてくる。この声の先を辿れば、きっとあの寄席に続いてる気がする……カントリーロード……ってなもんだ。

そんな落語ブームの最中、放送が開始されたテレビアニメ『じょしらく』。女子の落語、略してじょしらく。落語をテーマにしたアニメといえば、過去に『落語天女おゆい』という作品があった。原作を桂歌丸の弟子である桂歌若が手掛け、落語芸術協会が製作協力として参加しており、内容も落語を全面的に取り入れている……らしいが、観たことはない。さほど話題にもならなかった気もする。厳しい言い方をしてしまうと、失敗作だ。その失敗を乗り越えて、再び落語がアニメになるのか……と、放送開始前までは思っていたのだが、蓋を開けてみると、殆ど落語とは関係のない内容でびっくりした。

じょしらく 1(期間限定版) [Blu-ray]じょしらく 1(期間限定版) [Blu-ray]
(2012/09/26)
佐倉綾音、山本希望 他

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『じょしらく』の主な舞台は楽屋。高座を終えた女子落語家たちが、楽屋で他愛も無い話をゆるやかに展開する。……一応、登場人物は全員落語家ということになっているが、落語を演じる場面はまったく映し出されない。とどのつまり、やっていることは『らき☆すた』と大して変わらないのだが、話題の掘り下げ方はこちらの方が断然上手い。調べてみると、なるほど原作はギャグ漫画家として高い評価を得ている久米田康治。上手くて当然というべきかもしれない。

そして今、私はこの『じょしらく』のオープニングテーマとエンディングテーマにハマっている。ネットで何度か音源を耳にしただけなのだが、すっかり頭から離れなくなってしまった。オープニングテーマは主要キャラ五人を演じる声優たちのユニット極♨落女会による『お後がよろしくって…よ!』、エンディングテーマは謎の落語家集団・桃黒亭一門による『ニッポン笑顔百景』。これまた調べてみると、前者は数々のアニメソングを手掛けてきた畑亜貴×神前暁、後者はヒャダインとしてもお馴染み前山田健一による作品とのこと。更に、そこへギャグアニメの名手である水島努が映像をつけるのだから、より面白いことに……何? アニメがつくだけ情けねえ? 誰だ、今言ったヤツあ!(※注意:『寝床』のパロディです)

お後がよろしくって・・・よ!お後がよろしくって・・・よ!
(2012/08/15)
蕪羅亭魔梨威(佐倉綾音),空琉美遊亭丸京(南條愛乃),波浪浮亭木胡桃(小岩井ことり),暗落亭苦来(後藤沙緒里) 防波亭手寅(山本希望)

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ニッポン笑顔百景
ニッポン笑顔百景
(2012/09/05)
桃黒亭一門、もりフ 他

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落語と関係あるようで、落語とまったく関係無いアニメ。そのゆるーいスタンスはどうかと思わなくもないが、少なくともテーマソングはいい。しみじみといい。アニメの内容もそれなりにいいので、なんとなしに首を突っ込んでみるのも悪くはない……と、思う。

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「柳家小三治独演会」(岡山)

17時ごろ、岡山県某所に到着。すぐさま、近くの紀伊国屋書店に入り、柳家喜多八師匠のCDを購入。ワザオギレーベルのCDは、ボリュームがあるのに一枚2,000円と安めの価格設定なので嬉しい。空腹だったので、行きつけのラーメン屋へ行こうと思うも、久しぶりの岡山だったこともあってか、場所を完全に間違える。しょうがないので、適当なそば屋へ入るも、味が好みではない。踏んだり蹴ったり。

開演までに時間があったので、腹ごなしも兼ねて、会場まで歩くことに。すると、開演一時間前に到着。時間潰しに近くをぶらぶらと散策するも、会場である岡山市立市民文化ホールの近辺には、これといって時間を潰せるような施設が無いので、大いに困る。それでも、なんだかんだとさまよっているうちに、開場五分前となったので、会場へと舞い戻る。開場前にはたくさんの人だかり。全体的に、中年~老年層が多い模様。私の席は1階11列1番。端席だ。横に気を使わなくてもいいという意味では気楽だが、狭苦しさが凄くて、それどころじゃない。てんやわんや。

19時5分、開演。

■柳家ろべえ『初天神』
まずは前座が登場。柳家喜多八師匠(小三治の弟子)の弟子だそうな。マクラでは、自身が広島県福山市出身であることと、名前の由来について。当初は“弥次郎兵衛”という名前になる予定だったのだが(師匠が“喜多八”なので、『東海道中膝栗毛』つながりで)、半人前だから名前も半分でいいだろう、ということで現在の名前になったという。演目は『初天神』。嫌というほど耳にしてきたネタなので、『初天神』だと分かった瞬間に嫌気が。しかし、間を活かした語り口に少しずつ興味を惹かれ、気が付くと大笑いしていた。師匠・喜多八の片鱗も少し。

■柳家小三治『甲府い』
前座の後は真打ち。しかし、最初は小三治師匠と分からず。イメージしていたよりも、ずっと年老いている。でも、口を開くと、確かに小三治。岡山で独演会をするのは三十年ぶり、という話から、駅前の小さな店で高座用の湯飲みを買ったという話へ。備前焼だという話をしていたので、てっきり師匠が寄席で頻繁に披露しているという『備前徳利』が始まるのかと思ったが、その後は大阪にはなかなか呼んでもらえない、大阪の落語には東京の落語が入るスキがない(見方が違う?)とう話へ。そして演目は、まさかの『甲府い』! 大好きなネタなので気合を入れて鑑賞しようとするも、その気合が空転してしまったのか、気が付くとぐっすり。自分の迂闊さに絶望するも、このネタの中でも重要なオチは聞き逃さず。全体的に淡々とした口演だったが、ところどころで小三治ならではの間を活かした笑いが放り込まれていて、しみじみとその名人ぶりを堪能させていただいた。……寝ちゃったけどな! あーあー(後悔の念)。

■柳家小三治『野ざらし』
仲入りを挟んで、後半戦。どんなマクラを展開するのかと聴き入っていたら、道楽の話から、すぐさま『野ざらし』へ。自分の中では三代目春風亭柳好のイメージがすっかり定着しているネタだが、小三治のそれも決して悪くはない。むしろ良い。年齢を重ねたからなのか、肩の力が以前よりも更に抜けており、全体的に飄々とした雰囲気。骨を釣りに行く八五郎は当然として、ご隠居までも飄々としている。後半の釣りパートでは、その飄々とした雰囲気が爆発。釣りをしている最中の歌も大変に調子が良く、実に満足できた。もとい、やっぱりこのネタは、演じている人間の絵も無くては楽しみ切れない。刺さった釣り針に苦戦する八五郎の面白いのなんの!

柳家小三治II-1「野晒し」-「朝日名人会」ライヴシリーズ42柳家小三治II-1「野晒し」-「朝日名人会」ライヴシリーズ42
(2007/06/20)
柳家小三治

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21時5分、終演。予定よりも15分ばかり早めに終わった。帰り道、微妙に空腹だったので、なか卯で鴨うどんとミニ牛丼のセットを注文する。かけうどんを期待していたら、つけうどんだった。な、なんか食べ物関連がアレな日だったな……。

ヒカリゴケの漫才『肝試し』を解体してみた。

私が「爆笑オンエアバトル」「オンバト+」を鑑賞し続けている理由の一つに、“芸人が変わる瞬間”を見られるから、というのがある。なんでもない、どこにでもあるようなネタを見せていた若手の芸人たちが、何かがきっかけで変わる瞬間。その瞬間を目にした時、私はたまらなく幸せな気持ちになれるのだ。それはまるで、父親が息子の成長を目の当たりにして感動している様な……というと、流石に少し大袈裟な気はするが。それに似たような感情が芽生えているように思う。無論、実際にライブで彼らのネタを目にしているお客さんに比べれば、私はずっと遅れているのだろうし、また思い入れにも違いがあるのだろうが。

最近、私が目にした“芸人が変わる瞬間”は、9月15日に放送された「オンバト+」で披露されたヒカリゴケの漫才である。

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(2011/01/06)
ヒカリゴケ

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ヒカリゴケは2005年に結成された松竹芸能所属のお笑いコンビ。『NARUTO -ナルト-』のロック・リーそっくりな片山裕介がボケを担当、かつてはアイドルを目指していたというイケメン国沢一誠がツッコミを担当している。……ところが、この日の「オンバト+」で放送されていたヒカリゴケの漫才では、この関係性に妙な歪みが生じていたのである。確かに、片山はボケをやっているし、国沢もツッコミをやっているのだが、ふとした瞬間に、この関係性が入れ替わっているのである。それも、笑い飯の様に、はっきりとボケとツッコミが入れ替わるのではなく、実にさりげなく自然に入れ替わっているのだ。それなのに、観客は置き去りにされることなく、笑っている。この絶妙なバランス感!

この凄さを分かりやすく説明するために、ヒカリゴケの漫才を解体してみた。当然のことながら営業妨害なので、本人および関係者から苦情が入れば削除する所存である。が、もしもこれを読んで、ちょっと面白いと思っていただけたならば……是非とも彼らの名前を覚えておいてほしい。もしかしたら来年あたり、ハネるんじゃないかと思うので。

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「オンバト+」九月十五日放送感想文

■ヒカリゴケ501kb/1,825票】※会場審査1位・視聴者投票3位
九戦七勝、今期二勝目。「爆笑オンエアバトル」初オンエア回以来のオーバー500を記録。前回も高キロバトルだったので、次回の結果次第では初のチャンピオン大会出場も有り得る。苦節六年、ようやく花を咲かせるか。ネタは『肝試し』。肝試しのドキドキを人間は恋のドキドキと勘違いする……という話から、肝試しのスケジュールを立てて行く。国沢の出来の悪いツッコミに、本来はボケの片山がツッコミを入れたり入れられたりするスタイルが、いよいよ完成に近付いている。このままだと、いずれとんでもない化け物が生まれるのではないだろうか。

■リンシャンカイホウ【469kb/1,749票】
三戦二勝、今期二勝目。前回は485kbでオンエアとかなりの高記録を叩き出していた彼らが、今回も高いキロバトルでオンエア。このまま新しい風となれるか? ネタは『どうすればモテるのか?』。女性にどういう対応を取ればモテるのか、シミュレーションを立てる。特筆するほど独創的ではないし、称賛するほど腕があるわけではないけれど、ストレスを感じずに楽しめる塩梅ではある。それでいて、先のボケが後のボケに繋がる構成が絶妙。完成度という意味では非常に出来の良い漫才だといえるだろう。これで、あとは独自の個性となる要素があれば……。

■アルコ&ピース【437kb/1,526票】
九戦七勝、今期初オンエア。当初はナンセンス系コントの使い手として番組に出場していた記憶があるが、気が付くとお笑い界のアウトロー的なポジションに落ち着こうとしている彼ら。「THE MANZAI 2011」での立ち振る舞いが、それを決定づけたのかもしれない。ネタは『気絶』。腹を殴って気絶させようとしたが、気絶しないで変な空気に……。小さいコトを大きく広げるパターンのコント。膨らませ方が自然なんだけど、あまりにも意外性が無い。もう一回、なにかしらかの展開があれば、よりハネたのでは。

■マヂカルラブリー【485kb/2,000票】※視聴者投票1位
初挑戦初オンエア。「THE MANZAI 2011」では、惜しくも決勝戦に進出することは出来なかったものの、敗者復活戦に滑り込んだという実力派。……そうは見えないよなあ(苦笑) ネタは『昔話』。野田が話す昔話は、一般的な昔話とは少し違う……。発想の突飛さに目が行きがちだが、さりげなく野田の表現力が高い。スサノオノミコトに追い抜かれるウサギとカメの動き! 10月にも出場予定なので、結果が今から楽しみだ。

■タイムボム【445kb/1,919票】※視聴者投票2位
二戦一勝、今期初オンエア。日本人とアメリカ人の漫才コンビ……というと、どうも「爆笑オンエアバトル」初期に活躍していたパックンマックンを思い出す。見た目にはっきりとした個性があるコンビはなかなか定着し辛いことが多いが……。漫才が何なのかがよく分かっていないアメリカ人と漫才をするというコンセプトは、漫才というよりもコント的で、導入に少し戸惑う。センターマイクを恐れるくだりは要らなかったんじゃないか? コンセプトに合わせた細かいやりとりをガンガン詰め込んでいるので、全体的に統一感が無かったのも残念。ただ、いわゆるアメリカ人と日本人の違いをネタにするのではなく、よりフィクション性の高いコント的な内容にしてきた点は興味深い。今後のやり方次第では、ハネるかも。

■今回のオフエア
433kb:や団
425kb:GAG少年楽団
333kb:静
261kb:スパナペンチ
221kb:さな

400kbオーバーでオフエアが二組という、なかなかの激戦回。しかも、その落ちた二組というのが、どちらも過去にオーバー500を記録した経験のある実力者。波乱の展開であるといってもいいだろう。そのうちの一組、GAG少年楽団はこれで連敗。しかし、どちらも400kbオーバーでオフエア。運が無いのか……。静は初オンエア以降、300kbあたりをウロウロと。爆発するきっかけがあれば。

■次回
あきげん
【初】いけだてつや
エリートヤンキー
オテンキ
【初】カルマライン
Gたかし
チキチキジョニー
【初】BLUE RIVER
マシンガンズ
吉田たち

前回、まさかの復活を遂げたあきげんが今期二勝目に挑む。あれはまぐれか、それとも……? エリートヤンキー、オテンキ、Gたかし、チキチキジョニーも今期二勝目狙い。特に前三組は前回高キロバトルでのオンエアだったので、ここでも高記録を残したいところ。マシンガンズは今期三勝目狙い。前回の結果がイマイチだったので、ここで大きな当たりを取りたい。なお、いけだてつやは元「三福星」。

落語の視点で読む『21エモン』

藤子・F・不二雄大全集 21エモン 1藤子・F・不二雄大全集 21エモン 1
(2010/08/25)
藤子・F・不二雄

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『21エモン』を読み返していると、こんな台詞が出てきた。

モンガー「落語じゃないか!」


『21エモン』の舞台は未来の地球、450年の歴史を誇るホテル“つづれ屋”の跡取り息子21エモンとその周辺の人たちの日常を描いた作品だ。しかし、21エモンには、宇宙を股にかけるパイロットになるという夢があった。この台詞は、その第一歩として月へとやってきた21エモンと仲間のモンガー・ゴンスケの三名が、『君にもできる宇宙無銭旅行』なる本を読んでいる最中に発せられたもの。

このモンガーの台詞の前には、こういうやりとりがあった。

21エモン「第一章、ロケットにただで乗る法」
モンガー「おっ、いいぞ!」
21エモン「パイロットになるべし……」
モンガー「落語じゃないか!」


これの元ネタは、古典落語『秘伝書』(『夜店風景』とも)。「1月に10円で食える法」「酒無くして酔える法」「あけっぱなしで寝ても泥棒が入らない方」などが書かれている秘伝書を売っていたので、これを買って読んでみると……という話である。やたらと景気の良い売り文句の裏には、まさかの真実が……という話は現代でもよく耳にする。そういった胡散臭い商売が存在し続ける限り、このネタは何度でも蘇ることが出来るだろう。

鈴々舎馬風(9代目)(1)鈴々舎馬風(9代目)(1)
(2002/06/21)
鈴々舎馬風(九代目)

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こうなると、他にも落語的な要素があるんじゃないかと探したくなる。

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『モジャ公』

藤子・F・不二雄大全集より『モジャ公』を読む。

藤子・F・不二雄大全集 モジャ公 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)藤子・F・不二雄大全集 モジャ公 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)
(2012/01/25)
藤子・F・ 不二雄

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『モジャ公』は1969年から1970年にかけて『週刊ぼくらマガジン』誌上で連載されていた、SFアドベンチャー漫画である(1970年には『たのしい幼稚園』誌上でも連載)。そのストーリーは、退屈でつまらない日常に飽き飽きしていた小学生・天野空夫が、宇宙からやってきたモジャラ(モジャ公)とドンモの二人とともにロケットに乗って宇宙へと家出し、様々な危機的状況に遭遇していく……というもの。藤子F作品で家出といえば、『ドラえもん』の野比のび太に代表されるように、あまり長続きしないものというイメージが強いが、この天野空夫は本当に最終話直前まで宇宙を放浪している。なかなかのタフガイだ。また、他の藤子F作品に比べて、ストッパーとなる人物がいないのも特徴的。子どもならではの浅墓さが故に窮地へと追い込まれていく様は、子ども向け漫画とは思えない緊張感を生み出している。

そんな『モジャ公』にも、『ドラえもん』と同様に落語の要素が幾つか盛り込まれている。例えば、【自殺集団】に出てくる単語はその大半が『寿限無』からの引用だ。【不死身のダンボコ】に登場する田舎者の成金宇宙人モクベエは、『お見立て』『五人廻し』などの落語に登場する杢兵衛お大尽がモデルだろう。それから、【地球最後の日】の終盤でモジャ公が発する言葉は『禁酒番屋』のオチ。この他にも、『出来心』『宿屋の仇討』『身投げ屋』『だくだく』などの落語を思わせる台詞・シチュエーションが見受けられた。ただ、何処までが意図的にやられていることなのかは分からないので、これらが単なる邪推である可能性は否定できない。でも、その邪推がまた妙に楽しい。

なお、巻末にはライムスター宇多丸による『モジャ公』解説が掲載されている。以下、抜粋。

「ちょっとした表情に笑えて、ハラハラして、こわいんだから、いつの時代の子どもの心もつかむ力を持っていますよ。こわいというのは、つまり若い読者になめられないということです。これはうかつに読んでいるとまずいぞ、大人向けだぞ、と。でも、大人になって読んでもちゃんとこわい」

「F先生の人間に対する不信感や世界に対する絶望感、ご自身が内気なタイプで、ダークサイドを見つめ切っている部分から表現されるギリギリの人間の美点がホントに魅力的だと思います」

「これを読んでダメな人は、マンガは合わないってことで、もういいんじゃないかな。というわけで、まだ読んだことのない人は、本当にだまされたと思って読んでください。「モジャ公」、オススメです!」

【どうした!?品川】について思う。

9月13日の『アメトーーク』において、【どうした!?品川】という企画が放送された。

その内容は、お笑いコンビ“品川庄司”のボケを担当する品川祐のデビューから現在に至るまでの動向を洗い直し、その芸人としての変化を再確認させるもの。プレゼンターとして出演していたのは、企画発案者である東野幸治に加え、有吉弘行、陣内智則、インパルス板倉、千鳥、Bコース・タケト、ギンナナ金成の計八人。品川祐という芸人の全貌を多角的に見るためか、古今東西の芸人が選抜されていたが、番組の放送後は東野幸治だけが喋っていた印象しか残っていなかった。有吉すらも凌駕してしまう東野のエネルギッシュなトークは、彼が品川に対して並々ならぬ感情を抱いていたことを示しているように見えた。

番組では、品川の芸人人生を「ギラギラ期(1995~2005)」「調子ノリ期(2005~2008)」「どうした期(2009~2012)」の三つに分類し、それぞれの時代における彼のスタンスの変化を解体していた。芸人としてギラつくがあまりに先輩芸人にも容赦無く噛みついていた「ギラギラ期」、芸人としてだけではなく文化人としての側面も見せるようになってきた「調子ノリ期」(品川の本質をズバリと突いた「おしゃクソ事変」もこの時期)、完全に文化人方面へと流れてしまった「どうした期」。それぞれの時代における品川の性質について、様々な角度から切り込んでいき、着実に笑いが生まれて行く様は、東野のプレゼンターとしての能力の高さに加えて、どこまでも掘り下げることの出来る品川の紆余曲折ぶりを物語っていた。

しかし、考えてもみれば、番組内で品川がツッコミを入れられていたことの多くは、彼が現在の地位を確立するに至るまでに必要だった性質でもある。それから、忘れてはならないのは、それぞれの時代において品川はちゃんと結果を残している(だからこそ、こうして番組を挙げてイジることが可能だった)。もしかしたら、【どうした!?品川】は品川という成功例を解体することで、現在の若手・中堅たちに売れる芸人の一つの道筋を示したのではないだろうか……。そんなことを考えているうちに、私はふとある男の言葉を思い出した。

あかほりさとる「売れればすべからくいいのかと言うと、これはすべからくいいんだよ。この業界はまず、売れるか売れないか。売れたら、売れた作品の中で、いい作品か悪い作品かが決められる。売れない作品は、論評の俎上にすら載せられない」

オタク成金』より  


なお、番組の最後では、品川は相方の庄司智春とともに坊主頭になって、再び「ギラギラ期」の輝きを取り戻そうとしていた。先輩にも遠慮無く噛みついていた、あの時代の品川は果たして帰ってくるのか。そして、そんなギラついた品川のことを、テレビ業界はちゃんと受け入れてくれるのか。というか、現在の品川を暖かく迎えている『ストライクTV』での立ち振る舞いはどうなるのか? ……今後の彼に注目したい。

品川祐「お前ら、覚えとけよ……お前らも“どうしたんだ予備軍”だからな……!」

感謝のことば

落語とドラえもんについてのブログ記事が、以下のサイトさんでリンクされました。

■「ゴルゴ31」さん(『長短』『胴斬り』
■「痕跡症候群」さん(『長短』『胴斬り』『天災』
■「朝目新聞」さん(『長短』『胴斬り』『天災』)※9月16日分

厚く御礼を申し上げます。

落語の視点で読む『ドラえもん』 ~天災~

古典落語では、たびたび“付け焼刃”という言葉が登場する。

“付け焼刃”とは、にわかで覚えた知識のこと。鋼の焼き刃を付け足しただけの刀(付け焼刃)はすぐに切れなくなって使い物にならないことから、そう呼ばれるようになった。この“付け焼刃”を扱った古典落語は、数多く存在する。そば屋から一文せしめている男のやりかたをこっそり見ていた男が実践しようとして失敗する『時そば』、御隠居から人を褒める方法を教わり実践しようとして失敗する『子ほめ』、お世話になっている主人夫婦が見せた隠し言葉を自宅でも実践しようとして失敗する『青菜』、若い連中の博打を止めるために隠居の親分が見せた技を他所で実践しようとして失敗する『看板のピン』などなど……。

“付け焼刃”ネタの多くは、他人から教わったこと・他人がやっているのを見たこと、その姿をそのまま再現しようとして失敗する流れになっている。何故、付け焼刃は失敗するのか。その理由は、表面的な格好良さに気を取られるあまり、その背景にある広い知識・柔軟な思考に気付かないからだ。目の前にあることだけを拾い上げても、それは単なる猿芝居でしかなく、まさかの事態に対応することは出来ない。……とはいえ、安易に他人の格好良い姿を真似したいという気持ちは理解できる。もとい、共感できる。だからこそ、付け焼刃で失敗する人たちの姿は、滑稽に見えると同時に何処か親しさを感じてしまうのだろう。

短気で乱暴者の八五郎が主人公の『天災』も、付け焼刃ネタの一つだ。

NHK落語名人選(99) 五代目 春風亭柳朝 天災・大工調べNHK落語名人選(99) 五代目 春風亭柳朝 天災・大工調べ
(1996/12/21)
春風亭柳橋(六代目)

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その喧嘩っ早さが故に、女房や実の母親にまで手を上げてしまう八五郎。その姿にほとほと呆れ返った町内の御隠居は、八五郎に心学の先生を紹介する。当初は先生の言うことに反抗していた八五郎だったが、少しずつ話に耳を傾けるようになり、最後は納得してしまう。「どんなに腹が立ったとしても、天災だと思って諦めてしまいなさい」という先生の言葉に深く感動した八五郎は、そのまま家へと帰る。すると、そこで近所の熊五郎が今の女房といるところを前の女房に踏み込まれて、大変な騒ぎが起きていたという話を耳にする。「なるほど、それならさっき先生から聞いた話を熊の野郎にもしてやろう!」と、八五郎は熊の元へと向かう……。

『ドラえもん』に、これら“付け焼刃”のくだりを導入に用いたエピソードがある。タイトルは【ジ~ンと感動する話】

ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス)ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス)
(1975/11/01)
藤子・F・不二雄

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放課後の教室を覗きに来た先生は、そこでのび太を見つける。どうして帰らないのか話を聞いてみると、テストで0点を取ったから家に帰りたくないのだという。そんなのび太に対して、先生は励ましの説教をし始める。

先生「0点とったのはざんねんなことだが、すぎたことばかりくよくよしたってしかたがないだろう。目が前向きについてるのはなぜだと思う? 前へ前へと進むためだ! ふりかえらないで、つねにあすをめざしてがんばりなさい」


この言葉に「じいん」と感動したのび太。目に涙を浮かべつつ、そのまま真っ直ぐ家に帰る……かと思いきや、先生から聞いた言葉を他のみんなにも聞かせて、この感動を共感しようと試みる。しかし、まあ、わざわざ説明するまでもないと思うが、案の定、その試みは失敗に終わる。

のび太「すっごくいいはなしきかせよう。ジーンと感動するはなし」
しずか「えっ、どんなの」
のび太「目が前についてるのはなぜでしょう
しずか「きまってるわ、うしろについてたらかみのけがじゃまだもの」
女友達「ばかみたい」

のび太「目が前についてるのはなぜだ
スネ夫「じゅくへいくんだよ。なぞなぞなんかやってるひまはないっ」


のび太の言い方にも問題はあるけれど、「ばかみたい」はキツい!

ところが、それでものび太は挫けない。諦めない。友達にはちゃんと聞いてもらえなかった「じいん」とする話を、家に帰ってママにも話そうとするのである。先生から教わったように、彼の目は完全に明日しか見えていない! が、明日を見過ぎるあまり、目の前のママが見えていない。あからさまな地雷へと真っ直ぐ向かう戦車の様に、のび太はドツボへとハマっていく。

のび太「テストの答案をみせる前に話があります。なぜ目がついてるかというと…
のび太のママ「答案をみるためです。早くだしなさいっ!」
 (0点の答案を片手に説教するママ)
のび太「すぎたことふりかえるよりあすをめざして…」
のび太のママ「なんです、へりくつばっかり!」


……こうして見ると、落語の“付け焼刃”が笑えるのは、それをちゃんと構ってツッコミを入れてあげている人がいるからだということが、よく分かる。当人の意識しないところでボケ役となっているのび太と、そこにツッコミを入れるどころか、相手もせずに放置してしまう面々。これはのび太が可哀想過ぎる! ……まあ、のび太の説明が雑過ぎるという問題点もあるが(抜粋した台詞の太字部分だけを見ると、その雑さがよく分かる) かくして、のび太はドラえもんに救済を求め、吹き込んだ声を聞かせるだけで人を感動させられるジーンマイクなる道具を手に入れるのだが……それでいいのか、のび太よ。

ちなみに、ドラえもんの反応はこんな感じ。

のび太「あのね、目が前についてるのは前に進むためなんだよ
のび太「どう? 感動したかい?」
ドラえもん「?」「?」「?」


付け焼刃は剥げやすい、付け焼刃は鈍りやすい……。

落語の視点で読む『ドラえもん』 ~胴斬り~

『ドラえもん』に【人間切断機】というエピソードがある。

ドラえもん (10) (てんとう虫コミックス)ドラえもん (10) (てんとう虫コミックス)
(1976/04/25)
藤子・F・不二雄

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リビングでテレビを見ているドラえもんとのび太。そこへママがやってきて、のび太におつかいを頼む。テレビは見たい。でも、おつかいに行かなくちゃならない。二つに一つ。いっそのこと、テレビを見ながらおつかいに行けないものかしら……。そんなのび太の苦悩を受けて、ドラえもんがポケットから取り出したのはなんでもないベッド。それにのび太を寝かせる。続いて取り出したのは、巨大な回転ノコ。それをゆっくりとのび太の胴体に近付けていく。

のび太「何だ。このまほうのたねは、ぼく知ってるよ」
のび太「からだの上と下はべつの人がはいるんだよね」
ドラえもん「はいらない


哀れ、のび太の身体は上下に真っ二つ。

のび太「ほんとに切るやつがあるか」
ドラえもん「心配するな。かんたんにくっつくのりがあるから」


くっつくのりがあるからといって、何の躊躇もなく友人の身体を真っ二つにしてしまうドラえもんもドラえもんだが、とてつもない状況にも関わらず冷静なツッコミを入れるのび太ものび太である。ただ、当然のことながら、何の考えもなく真っ二つにしたわけではない。ドラえもん曰く、上半身と下半身に分かれてしまったのび太の身体のうち、下半身に電子頭脳をつけて、おつかいをさせるのだそう。……他にもっと方法があったんじゃないか!? しかし、そのことに関しては特にツッコミを入れることなく、ドラえもんの言うとおりに下半身のび太をおつかいに行かせる上半身のび太。どうやら未来の道具を使い過ぎて感覚がマヒしてしまっているようだ。

おつかいから帰ってきた下半身のび太に、次から次へと用事を言いつける上半身のび太。もはや『ドラえもん』ではお馴染みの、未来の道具を楽しむあまりに図に乗ってしまうパターンである。

上半身のび太「わるいけど戸だなから、おせんべいもってきてよ」
上半身のび太「同じ自分だから、遠りょなくつかえる」
上半身のび太「ついでにのみものももってくればいいのに。気がきかないな」
上半身のび太「えっ、きみも食べたいって
上半身のび太「(ドラえもんと一緒に笑いながら)口もないのに、どうやって食べるんだろう


なんという暴君ぶり!

そこへしずかちゃんがやってくる。家に遊びに来ないかというしずかちゃんの誘いを受けて、のび太(上下セット)はドラえもんと一緒に出掛けることに。その道中、ジャイアンとスネ夫に遭遇。サッカーをしようと強引に誘うので、下半身のび太だけを連れて行ってもらう。……この状況にさほど驚かないしずか・ジャイアン・スネ夫も、完全に感覚がマヒしているな。その後、下半身のび太を放ったらかしにして、しずかちゃんの家でトランプ遊びに興じる面々。しかし、ドラえもんはふと不安を覚える。

ドラえもん「だけど…、足だけほっといて大じょうぶかな」


ドラえもんの不安は見事に的中する。下半身のび太はジャイアンの股間を蹴り上げた挙句、二人からスタコラサーッと逃走してしまう。下半身大暴走の巻。上半身のび太を載せていないため、やたらめったらすばしっこい下半身のび太はなかなか捕まえられない。どうやって捕まえようか、ドラえもんは考える……。

この【人間切断機】と同様の状況を用いた古典落語がある。その名も『胴斬り』だ。

枝雀落語大全(15)枝雀落語大全(15)
(2000/08/23)
桂枝雀

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ある男が夜道を歩いていると、辻斬りに胴をスパーッと斬られてしまう。ところが、斬った人間の腕が優れていたのか、それとも斬った刀が逸品だったのか、上半身と下半身に分かれてしまったこと以外は特に別状はない。その日は偶然通りかかった兄貴分に拾ってもらって、どうにかこうにか家に帰った。さあ、こんな状態とはいえ、仕事をしないままではいられない。かくして、上半身は銭湯の番台へ、下半身はこんにゃく屋でこんにゃく玉を踏む仕事を始めることに……。

実際に『胴斬り』を聴いてみると、【人間切断機】は『胴斬り』のバージョン違いでしかないことが分かる。というのも、以前に取り上げた『長短』とは違い、どちらも基本的な流れが殆ど同じなのである。身体が上下に分断され、それぞれがバラバラに活動するも……ここでは書かないが、オチのトリックも同じ。違っているのは、上半身が仕事もせずに好き放題をして、下半身に面倒事を全て任せるという分岐点だけ。……などと書くと、「【人間切断機】は『胴斬り』のパクリである!」と主張しているように見られるかもしれないが、そうではない。古典落語の世界では、演者の志向や時代の流れを受けて話の内容を変えてしまうことが頻繁に起こっている。いわば【人間切断機】は、藤子・F・不二雄という落語家が漫画という形式で『胴斬り』を演じてみせた、落語の新解釈なのである。そして恐らく、この【人間切断機】は落語にそのまま応用することが可能だ。誰か挑戦すれば、きっと面白いと思うのだが……どうだろう。

ところで、下半身のび太はどうやって戸棚からせんべいを……?

『御慶』を聴いた夜の話

昨年末のこと。

完全なる古典落語かぶれと化していた私は、年初めに耳にする落語を考えていた。お正月といえば演芸番組のイメージが強いが、実のところ、正月をテーマにした落語は非常に少ない。どちらかというと年末を舞台にした落語の方が多く、例えば『芝浜』『掛取万歳』『富久』などがそれに当たる。しかし、正月をテーマにした落語となると……。

一人で考えても埒が明かないと考えた私は、Twitterで落語好き仲間たちに尋ねてみることにした。すると、『御慶』という落語が相応しいのではないか、との回答を多数戴いた。『御慶』とは、富くじを当てた男がこれまでとは違った正月を迎えたいと大家に話したところ、おめでたい言葉「御慶」と「永日」を口にする挨拶を教えてもらい、実践するというネタである。なるほど。これは確かに正月が舞台になっているし、なによりめでたい。早速、古今亭志ん朝師匠の音源を購入し、来たるべき正月に備えた。

落語名人会(27)落語名人会(27)
(1995/11/22)
古今亭志ん朝

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そして正月。家族同士で挨拶を交わし、演芸番組を何も考えることなくダラリと鑑賞して、夜が来た。私は寝るときに落語を聴くようにしている。今こそ、『御慶』の出番だ。早速、CDをプレイヤーに突っ込んで、再生ボタンを押す。軽妙かつ明朗な志ん朝師匠の口演で奏でられる古典落語は、ある意味で至極といえるだろう。やがて、落語の世界でも、正月がやってきた。富くじを当てた男が、方々で挨拶をする。「ギョケーイ!」「エイジツーッ!」「ギョケーイ!」「エイジツーッ!」……おめでたい言葉が一転、まるで一発ギャグの様に繰り返されていて、ついつい笑ってしまった。

正月に正月らしい落語を聴くことが出来て満足した私は、そのまま眠りにつこうとした……が、眠れなかった。というのも、ふとあることが気になっていたからだ。「ギョケーイ!」に似た言葉を、私は何処かで聞いた覚えがある。一体、何処で聞いたのか……。しばらく考え込んでいたが、不意に私は気が付いてしまった。志ん朝師匠の「ギョケーイ!」の言い方は、アレとまったく同じだということに! そう、アレとは……。



「トテーイ!」

私は思わぬモノ同士が繋がったことに興奮を抑えきれず、夜更かししたのであった。終わり。

『清水ミチコ物語』

清水ミチコ物語清水ミチコ物語
(2012/03/28)
清水ミチコ

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モノマネ芸人として知られている清水ミチコのベストアルバム。某ドラえもんを彷彿とさせるキャラクター“バッタもん”とともに、彼女が過去に発表してきた音源を辿る構成になっている。……水田わさびじゃなくて、大山のぶ代の方ね。1988年に発売したシングル『こんな私でよかったら』から2009年に発売したアルバム『バッタもん』までの音源を収録。清水のおよそ11年に渡る芸人としての遍歴を確認できるわけだが、その“悪ふざけ”としか言いようがないスタンスは一貫して変わらない。無論、リスナーを笑わせることを前提とした悪ふざけなのだが、時にリスナーを放置してしまうほどに自己満足な悪ふざけを展開することも。彼女の音楽的素養の高さを考慮すると、(極端に良い言い方をすると)アーティスト志向な側面もあるのかもしれない。

それでも初期の作品では、モノマネ芸を独自の手法で披露する意欲的なスタンスが強く見られる。山口百恵を筆頭に様々なアイドルソングをメドレーで熱唱する『なつかしの月刊明星メドレー』の様にオーソドックスなモノマネ芸を見せたかと思えば、軽快なメロディに載せて四人のニュースキャスターを皮肉る『ニュースキャスター四姉妹』の様に風刺的なモノマネを見せることも。しかし、時を重ねるごとに、そのセンスはモノマネ芸の枠組みを超越していく。フランス語っぽい歌だけど歌詞の内容は算数な『イェル・ケ・クク』、野球を知らない人が野球を見ているときの気持ちを野球ファンに最高の方法で伝えられる『野球中継』などは、あまりのバカバカしさに思わず大笑い。スネークマン・ショー的なこともやるんだなあ……。無論、モノマネ芸も以前にも増して研ぎ澄まされ、遂には勝手に新曲まで作り上げてしまう始末。『リキュールの恋人』って……そりゃユーミソにも怒られるよ!

そんなくっだらないエキスが凝縮されたアルバムなのに、最後は矢野顕子と忌野清志郎のモノマネで『ひとつだけ』をしっとりと。正直、こういう終わらせ方はヒキョーだよなあとも思ったのだが、しかし清水の気合が入った一人デュエットに反抗する気持ちもすっかり沈静。そして気付かされる。これだけ悪ふざけが過ぎても芸能界で生き残れているのは、この絶妙なバランス感覚のおかげなんだなあ……と。

落語の視点で読む『ドラえもん』 ~長短~

『ドラえもん』に【のろのろ、じたばた】というエピソードがある。

ドラえもん (5) (てんとう虫コミックス)ドラえもん (5) (てんとう虫コミックス)
(1974/11/28)
藤子・F・不二雄

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どら焼きを使って、ドラえもんに宿題を手伝ってもらおうとするのび太。しかし、あっさりと断られてしまい、逆に説教を食らってしまう。

ドラえもん「(君は)のんびりしすぎてるんだよ。はっきりいえば、のろまだ!ぐずだ!」


そこでドラえもんが取り出したのは、二本の薬ビン。片方は“クイック”で、もう片方は“スロー”。“クイック”を飲むと気持ちも動きも早くなり、“スロー”を飲むと気持ちも動きも遅くなる。これを飲めば、のび太ののんびりとした性格も少しはマトモになる筈……。そう考えたドラえもんは、のび太にクイックを飲ませようとするが、当人は「薬はきらいなんだよ」と言って飲もうとしない。仕方がないので、まずはドラえもんがクイックを飲んでみて、その効果を確認することに。

ドラえもん「のび!」
のび太「のびとはなんだ」
ドラえもん「のび太くんなんて、まどろっこしくて! やれ! 宿題! 早く!」


クイックの効果で、すっかりスピーディーになったドラえもん。のび太に宿題をやらせている間も、落ち着きなく部屋の中を行ったり来たり行ったり来たり。ふと、のび太が宿題に分からないところがあるからと、しずかちゃんの家に行こうとする。無論、ドラえもんも付いていくことになるのだが、そこでクイックが凄まじい効果を発揮する。

ドラえもん「すばやく、よびりんをおす。同時にとびこむ!」
ドラえもん「(部屋に上がって)こんにちはといいながら、くつをぬぐ」
ドラえもん「やきいもは、食べるまえにおならをする(ボム)」


どこまでもせっかち。対するのび太は、そんなドラえもんに物怖じすることなく、相変わらずののんびりぶり。ところが、ただでさえのんびり屋なのび太がうっかりスローを飲んでしまったことで、更に二人のギャップは広がってしまう。以下ののび太の台詞の凄まじさよ!

のび太「ファ~」
のび太「ウファー、ファーファーファー」
のび太「ほっとけば、」
のび太「いいや。」
のび太「薬なら、いつか、ききめが、」
のび太「消えるでしょ。ねえ」


かくして、二人は対話すらままならない状況へと陥ってしまう……。

この【のろのろ、じたばた】というエピソードが、古典落語『長短』をモチーフとしていることは想像に難くない。

桂文治4「長短」「湯屋番」「廿四孝」-「朝日名人会」ライヴシリーズ24桂文治4「長短」「湯屋番」「廿四孝」-「朝日名人会」ライヴシリーズ24
(2004/05/19)
桂文治

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『長短』には二人の人物が登場する。一人は、すこぶる気の長い長さん。もう一人は、むやみに気の短い短七。気性のまったく違う二人は、それなのに不思議と仲が良い。ある日、長さんがゆったりと煙草を吸おうとしているのを見て、短七がじれったくなり、正しい煙草の吸いかたをポンポンポーンと実演し始める。すると、その様子を見ていた長さんが、やはりゆっくりと短七に何かを教えようとするのだが……。この『長短』での長さんと短七のやりとりを聴いた後に【のろのろ、じたばた】を読むと、両者が実に似ていることがよく分かる。

但し、【のろのろ、じたばた】のそれは、『長短』よりもずっと狂気的だ。ドラえもんはせっかちが極端になって青森まで駆け出して行き、一方ののび太はかたつむりと競争して敗北してしまう始末。落語では難しいであろう、ギャグ漫画という表現方法だからこそ成立するシチュエーションの深化が、そこには見られる。

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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

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https://twitter.com/Sugaya03

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