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『るきさん』

るきさん (ちくま文庫)るきさん (ちくま文庫)
(1996/12)
高野 文子

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世間の皆様方に比べて、私の様な人間が日々の生活を送るためにこなさなくてはならない労働など大したものではないだろうと思われるが、それでも身体に疲れは溜まるし、「出来ることならば今日の仕事には行きたくないなあ」などという甘ったれた言葉が頭の中をぐるぐると回転し続ける、という経験も二度三度どころではない。とどのつまりは働きたくないわけだが、それを実行した場合、今日の食事もままならないと戦後日本を再現したかのような日々を送らなくてはならないので、どうにもならない。働かざるもの食うべからず、と人はいう。誰が創ったか、この言葉。骨の髄まで沁み込む沁み込む。それでは、どうにかして労働時間を、或いは、労働に必要なエネルギー量を、減少することは出来ないものか。そんなことをぐだぐだと考えているうちに、私はふっとるきさんのことを思い出すのである。

高野文子の漫画『るきさん』の主人公、るきさんは加算機で“お家でやるお医者の保険の請求”を出す仕事をしている。通常ならば一ヶ月はかかるというこの仕事を、るきさんは一週間で済ませてしまう。つまり、一週間だけ働いて、残りの三週間は自由ということだ。自由。甘美な響き。るきさんが仕事で得られる収入がどのくらいなのかは描かれていないが、それでも、それなりに余裕のある日々が遅れる程度には稼いでいるらしい。なにせ、普段のるきさんがやっていることといえば、近くの図書館で本を借りたり、談話室で昼寝をしたり、郵便局で切手を購入したり……という程度。無駄の少ない、洗練された毎日。だからこそ得られる自由なひと時。そんな日々の中でも、るきさんは決して孤独じゃない。OLをしている友達のエッちゃんが、たびたび家に遊びに来るからだ。ほどほどに外部との繋がりを得ている。この絶妙さ。ああ、このくらいのスタンスで、生活が送れたらなあ。そこに痺れる、憧れる。

それでも、分かっている。それは、あくまでも憧れでしかなくて、本当にその生活を始めようとしても、業の深い自分には持続できないであろうことを。必要以上の欲望を知ってしまった私には、そんな生活は送れないということを。私は、本能的に知っているのである。だから、私は今日も仕事に出掛け、それなりの疲労を蓄積していき、自分の時間を熱望し、『るきさん』に憧れながらも、そこに踏み出せずに、また日常へと帰っていくしかないのである。哀しいことに、それが私の身の丈なのだ。……別に哀しくなんかない、やいっ。

私から宮本へ


エレファントカシマシ、活動休止(※正しくは“ライブ活動”らしい)。メンバー同士が不仲になったわけではなく、ボーカルにしてバンドを牽引する主役である宮本浩次の耳が、文字通り言うことを聞かなくなってしまったためだという。よもや綿棒を突っ込み過ぎたのではあるまいか、などという医師免許も持たない庶民の安易な発想は何の意味も含まず、ただただ虚空へと自己満足の風になって消えていったのであった。それにしても、宮本が歌手として出来なくなったというのは、哀しい。魂の叫びか、或いは、単なる野獣の咆哮か、兎にも角にも得体は知れないが、その歌声には随分と惹きつけられた時期が私にもあった。が、そこには、哀しみだけではなく、ある種の期待感も芽生えていた。というのは、ライブ活動出来なくなった宮本は、またペンを手に何かを書き始めてくれるのではないかと思ったからである。

明日に向かって歩け!明日に向かって歩け!
(2002/05)
宮本 浩次

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エレファントカシマシの宮本浩次といえば、世間一般においては純然たるロック歌手であると認識されているだろうが、私にとっての宮本はむしろ、文章家として認識されている。その数少ない出版物『明日に向かって歩け』は、ド迫力の真っ赤な表紙というのも実に良かったが、軽妙かつ挑発的な文章は多感な高校生たる私のハートを真っ直ぐに貫いた。そも、どうして宮本の本を買おうと思ったのか、その経緯については失念したが、とりあえず、そういう事情がったため、宮本は私にとって歌手というより文筆家なのである。現在、この本は絶版となっているらしい。今から十年前のエッセイを復刊する義理は出版社には無いだろうが、この本が少なくとも当時の私にとって素晴らしかったことだけは、ここに書き記しておく。

幸せよ、この指にとまれ(初回盤)(ボーナスCD+DVD付)幸せよ、この指にとまれ(初回盤)(ボーナスCD+DVD付)
(2010/05/12)
エレファントカシマシ

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で、気が付くと、2010年のシングル『幸せよ、この指にとまれ』を購入していた。初回限定版に付属している、ライブ音源を収録したCDが目的である。チャプターが無いのは不便だが、どの曲も確かにエレファントカシマシである。多分、恐らく、確証は無いが、エレファントカシマシはライブの方が優れている。今更か。今更なのか。まあいいや。とりあえず、このCDは良い。安いし、良い。

「オンバト+」十月六日放送感想文(北海道/ピン芸人大会)

■KICK☆517kb2,735票】※会場審査1位・視聴者投票1位
初出場初オンエア。『エンタの神様』に見出された芸人として、悪い意味で知名度の高いピン芸人……というイメージが強かったのだが、今回のネタは面白かった。世の中の許せないことに直球のツッコミを入れていくという、古典的ながらオーソドックスなボヤキ芸を圧倒的な玉数で披露するスタイルで、見事オンエア権を勝ち取った。しかし、終盤の“あいうえお作文”のくだりはなかなか秀逸だったと思う。エビの剥き方にボヤキを入れるか……。あと、何気に良い声。

■サイクロンZ【469kb/1,555票】
五戦二勝、今期初オンエア。前回はR-1ぐらんぷり決勝の舞台でも披露したネタで挑むも、惜しくもオフエアという結果に終わったサイクロンZ。今回は、以前にオンエアを記録したネタと同じフォーマットで勝負し、見事に勝利。……「オンバト+」ではこのパターンを掘り下げた方がいいのかな。『Mr.ゼティックの超能力ショー』。全体的に安定して面白かったが、特に最後の「か~ら~の~?」は現代的で実に良かった。

■ヒューマン中村【501kb/2,701票】※視聴者投票2位
三戦全勝、今期三勝目。今期のチャンピオン大会出場資格が発表されていないのでまだ分からないが、もしも昨年度と同じであれば、ヒューマン中村は現時点で出場がほぼ確定していることになる。その辺り、どうなんだろう。『俳句バトル』。幸せなカップルの五七五に対し、そんなカップルを見たモテない男たちの五七五をぶつけるというフリップネタ。中山功太の『対義語』をポップに改変した様なネタで、笑えるものの些かの疑念が。フォロワーなんだろうけれども……しかし、ニケツのくだりは笑った。

■あかつ【417kb/1,657票】※視聴者投票3位
四戦一勝、今期初オンエア。スモササイズの使い手、遂にオンバトのステージでしこを踏む! 大相撲の動きモノマネから、それを取り入れたスモササイズに突入するという親切丁寧な流れから、笑いをもぎ取った感。あと、これは割とどうでもいいけど、「スモササイズの世界へようこそ!」って言い回しがなんだか面白い。現世とは別世界なのか、スモササイズは。

■あばれる君【401kb/982票】
三戦二勝、今期二勝目。前回は悪と戦う引きこもりの戦隊ヒーローを演じるという異色のコントを披露していたあばれる君、今回は店長こだわりのグラタンを待たせているお客さんと戦う。まず「えっ!? お湯の段階!?」で大笑い。グラタンのお湯の段階ってなんだよ! この不条理なシチュエーションもさることながら、とんでもないエネルギーを内に秘めたような熱情にじむ演技がたまらなく面白い! このまま、バカバカしい方向へと突っ走ってもらいたいなあ。

■ゆってぃ【401kb/875票】
二戦全勝、今期初オンエア。『爆笑レッドカーペット』で人気を博したピン芸人、改めてオンバト+のステージへ。前回と同様、当時ブームになった「ワカチコ」を封印し、新しい「強め~!」を押した漫談を。ただ、ネタのフォーマットは「ワカチコ」と同じなので、まるで新しさを感じない。むしろ、ちょっとグダグダになったような。ただ、なんとなく、ゆってぃはそれを意図的にやっているような印象も与えられる。恐らく、「ワカチコ」ほどきっちりと型にハマっていない「強め~!」を披露することで、ネタではなくゆってぃ自身の味を見てもらおうということなんだろう。まあ、そういうやり方も、悪くないっちゃ悪くない……のか?

■今回のオフエア
377kb:冷蔵庫マン
369kb:HEY!たくちゃん
289kb:ウメ
189kb:横澤夏子

オンエア経験のあるHEY!たくちゃんとウメはどちらもオフエア。独特の味わいあるコントに定評のあるウメには期待していたので、非常に残念。未勝利組では、冷蔵庫マンと初出場の横澤夏子がオフエアになっている。「パワー☆プリン」のレギュラーとして活躍している横澤夏子の一人コントは、ちょっと気になっていたのだが……こちらも残念。

■次回
阿佐ヶ谷姉妹
ケチン・ダ・コチン
コンパス
【初】タナからイケダ
ツインクル
流れ星
BURN
マヂカルラブリー
ムートン
ラバーガール

コンパス、ツインクル、流れ星、マヂカルラブリーと、過去に一勝だけ経験している芸人が集まっている回。対するは、無傷の十連勝中のラバーガール、無傷の四連勝中のケチン・ダ・コチン、六戦四勝と検討中のムートン。一勝組が勝つか、連勝組が勝つか、或いは未勝利組が勝つか……混戦が予想される。

『鬼ヶ島単独ライブ 地獄への通学路』

鬼ヶ島 単独ライブ「地獄への通学路」 [DVD]鬼ヶ島 単独ライブ「地獄への通学路」 [DVD]
(2012/09/26)
野田 祐介、大川原 篤史 他

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「キングオブコント2011」ファイナリスト、鬼ヶ島による第二回単独ライブ『地獄への通学路』の模様を収録。いきなりの文句になるが、舞台でのコント映像と幕間映像を分断してしまう意味がどうしても理解できない。なにかしらかの事情があるのかもしれないが、オープニング映像とエンディング映像まで分けてしまうのはやり過ぎだ。せめて、オープニング映像とエンディング映像はライブ映像と一緒にして、その他の幕間映像を別途に収録という構成にすべきだった。この違和感はあまりにも酷い。

違和感といえば、副音声もよく分からない。鬼ヶ島・ドランクドラゴン・北陽の三組による副音声コメンタリーと書いておきながら、「鬼ヶ島の副音声」「ドランクドラゴンの副音声」「北陽の副音声」「鬼ヶ島・北陽の副音声」「鬼ヶ島・ドランクドラゴンの副音声」と、副音声に参加しているメンバーがネタごとに違うというのは、どういう意図があってのことなんだろうか。前作『恐怖学園』も似たような構成になっていたが……ギャラの問題なんだろうか。よく分からない。あと、幕間映像はともかくとして、特典映像に収録されている初単独ライブ『ファンタジーゾーン』に副音声が無いというのも、サービス精神としては如何なものか……。

などなどの文句を並べ立ててみたが、これらはあくまでもDVD作品としての本作に対する文句である。本編について、特に文句はない。むしろ充実した内容になっている。なにせ、オープニングコント『門とカラス』が、いきなりとってもサイコーだ。校門に扮したアイアム野田と、カラスに扮したおおかわらが、校則違反の生徒を処刑せんとばかりに待ち構えている……どういう生活を送っていれば、こんな設定が思い浮かぶのか。そんな二人(?)の元にやってくる校則違反者の生徒が明かす二人の正体も、これまた実にたまらない。彼らの不気味な世界観とバカバカしさが混在した、オープニングに相応しいコントといえるだろう。

その後も、奇妙で不思議なコントが続く。一般の学生たちが繰り広げる運動会に、謎の超能力を持つ不気味な少年が現れる『運動会』は、笑いどころがないのに笑ってしまう彼らならではのコント。後味の切なさすら、笑える。観ると呪われてしまうビデオを見てしまった教師と生徒の姿を描いた『呪いのビデオ』は、これまた不気味なテーマにも関わらず、登場人物がやたらと普通のトーンなのが面白可笑しい。呪われた順番を巡って、自然に先輩後輩の関係が作られていく展開が下らない! その中でも素晴らしいのが、無実の罪で九年間も廊下に立たされ続けている生徒の真実が明らかになる『九年間』というコント。「反省してます!」「反省が伝わってこない!」というやりとりは、なにやら日本と某国のやりとりを彷彿と……こういう知的なコントも出来るんだな!

これらの素晴らしいコントがあったからこそ、DVD作品としての出来の悪さは非常に残念だった。同じ事務所の東京03やラバーガールはちゃんとライブ映像と幕間映像を一緒にしているんだから、そこばっかり贔屓しないで、鬼ヶ島のDVDもそういう風にしてもらえたらなあ、と切に願う次第である。ちゃんと面白いんだから、周りが支えてあげないと……。


・本編(98分)
ライブ:「門とカラス」「九年間」「運動会」「呪いのビデオ」「教育委員長の娘」「スタディボーイ」
幕間映像:「オープニング」「地獄ドラマチック「外来種」」「地獄ラジオ」「呪いのビデオ」「呪いを解くビデオ」「エンディング」

・特典映像:鬼ヶ島発単独ライブ『ファンタジーゾーン』(42分)
「オープニングVTR」「しゃべる箱」「大好きなお母さん」「母ちゃんとよしお」「父の思い出」「さわやかテニス」

・音声特典
「鬼ヶ島・北陽・ドランクドラゴンによる副音声コメンタリー」(本編ライブ映像のみ)

落語の視点で読む『ドラえもん』 ~らくだ~

『ドラえもん』に【ホンワカキャップ】というエピソードがある。

ドラえもん (30) (てんとう虫コミックス)ドラえもん (30) (てんとう虫コミックス)
(1984/03/28)
藤子・F・不二雄

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イヤ~なことがあったのび太。家に帰ると、パパと友達がビールを飲み交わしている。……昼間から何やってんだろうね、この大人たちは。「いやなことはみんな忘れて、楽しくやろうじゃないの」と口にするパパ。その様子を見ていたのび太は、ドラえもんにポロリと愚痴をこぼす。

のび太「おとなはいいよな。お酒のんでいい気持ちになれて」
のび太「不公平だ!!」


涙ながらにそう訴えるのび太を見て、ドラえもんは「お酒を飲まなくても、いい気持ちになれるよ」と“ホンワカキャップ”という道具を出してあげる。ドラえもん曰く、このキャップを通して注がれる飲み物はホンワカ放射能を帯びて、飲むとホンワカとした気分になれるのだという。……放射能って聞くとドキッとするのは私だけかしらん。

早速、ホンワカキャップを着けたジュースを飲んでみるのび太。すると……。

のび太「ただのジュースとかわらない」
 ホワ~
のび太「なんだかいい気持ちになってきた」
のび太「♪月が~でたで~た~月がで~たヨイヨイ」


完全なる酔っ払い、ここに誕生。

これをしずかちゃんに飲ませてあげたいというのび太。ドラえもんと一緒にしずかちゃんの家へと向かう。ここで出されたのが、ホームサイズのコーラ。次から次へと注がれるホンワカ放射能を帯びたコーラを飲んで、いい感じにホンワカとした三人は飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。いい気持ちになりながら、のび太とドラえもんはしずかちゃんの家を出る。

その帰り道、不機嫌そうな顔をしたジャイアンに遭遇。

のび太「あ、ジャイアンだ」
ドラえもん「黒い顔で暗~い顔してら、アハハ


何気に毒舌なドラえもん!

ホンワカとしているドラえもんは、「お~いジャイアン、いいものやるぞ!!」とジャイアンにホンワカキャップを渡してしまう。後に、酔いが冷めて後悔する二人。「あれ高いんだぞ!!」「自分がやったくせに!!」と喧嘩しながら、帰路につくのであった。

一方、ホンワカキャップを貰ったジャイアン。早速、家で宴会をしようと、スネ夫を誘う。しかし、これから塾へ行かなくてはならないスネ夫は、乗り気じゃない。実は、この話の冒頭で、スネ夫はジャイアンに切手のコレクションを奪われている。そりゃあ、乗り気じゃないのも当然というものだ。しかし、ジャイアンはそんなことお構いなしに、「おれとじゃのめねえってのか!?」とスネ夫を強引に家へと連れていく。

スネ夫「じゃ、かる~く一ぱい……」
ジャイアン「せこいこといわねえで、ガバガバやれ!」


最初は乗り気ではなかったスネ夫だが、ホンワカ放射能を帯びたコーラを飲んでいくうちに、だんだんと気分がホンワカとしていく。一方のジャイアンもまた同様。こちらもやっぱり、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。ジャイアンに至っては、家のラジカセを使って一人カラオケ大会を始める始末。

……すると、スネ夫の態度に少しずつ変化が……。

スネ夫「フー……ケッ! やめろやめろ、へたくそ
ジャイアン「いまなんといった!?」
スネ夫「(ジャイアンの顔にコーラをぶっかけて)へたくそをへたくそといってなにが悪い、へたくそ!!!


なんと、スネ夫は絡み酒だったのである。

青筋を立ててジャイアンに突っかかるスネ夫。一方のジャイアンはというと、そんなスネ夫の覇気に押されて何も言えない。まさしく“窮鼠猫を噛む”状況だ。そして状況は、更なる加速を見せていく。

ジャイアン「そろそろ塾へいかなくていいの?」
スネ夫「るせえ!! もっとつげ!!」
ジャイアン「ないよ、もう」
スネ夫「(ジャイアンに空き瓶をぶつけながら)買ってこい!」

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不意打ちの爆笑噺『蔵前駕籠』で大笑い

古今亭志ん朝『蔵前駕籠』を聴く。

落語名人会(20)落語名人会(20)
(1995/09/21)
古今亭志ん朝

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『蔵前駕籠』の舞台は明治維新直後の江戸。この頃の江戸は治安が悪く、そこらに追剥ぎが出没していたという。中でも、頻繁に出没していたのが蔵前通り。吉原へと向かう客のふところを目当てに出来るからだ。そのため、吉原に来る客の数は減少し、花魁もかなりヒマになっていたという。と、そんな状況を分析し、「こういう時だからこそ、会いに行ってやればきっとモテるだろう」などとバカな考えを起こすヤツもいたようで。

ある能天気な男が、そういったような考えでもって駕籠宿へ行って、「吉原に行ってほしい」と注文する。しかし、時刻はもう暮れ六つ(午後五時~七時ごろ)。状況が状況、こんな時間に駕籠を出すと、追剥ぎに捕まってしまうからやめたほうがいい、と店の人間は注文を受けようとしない。それでも、どーしても吉原に行きたい男は、まったく食い下がらない。さんざっぱら自論を展開した挙句、「駕籠賃も倍払うし酒手(※酒代)もはずむ」といって、説得を続ける。すると、その話を陰で聞いていた店で一番血気盛んな若い衆がやってきて……。

殺伐とした空気が漂っていたであろう時代の演目にも関わらず、とてつもなくバカバカしい話である。まず、命を懸けてまで女郎屋に行こうとする男、これがバカバカしい。女郎屋をキャバクラに置き換えると、そのバカバカしさがよく理解できるのではないかと思う。向こうだって商売でやっているんだから……いや、それを知ったうえで行くというのが、また粋だったりするのかもしれないが……そこまで無理して行く必要はないのである。ところが、それでも行こうとするんだから、男というのはなんともバカな生き物だよなと肩を叩きたくもなる。駕籠宿の主人が男の姿を見て思わず漏らす一言にも納得、そして爆笑せざるを得ない。

もう一つバカバカしいのは、この男の熱意にほだされた二人の若い衆である。ここに書くと、初めて耳にする楽しみが無くなってしまうので書かないが、まあ……とにかく下らない反応をする。これがとにかく面白い。笑わずにいられない。そこへ更に、追い打ちをかける一言が重なることで、より大きな笑へと繋がっていく。……ただ、この笑いのくだり、決して斬新なことを言っているわけではない。むしろ、ベタに近い。ただ、そのベタがあまりにも不意打ち過ぎて、思わず笑ってしまう。……じゃあ、ここで書いちゃいけないんじゃないか、という気もするが。書かずにいられぬ面白さ。是非とも、この一席だけでも聴いてもらいたい。

ちなみに、本作にはもう一席『代脈』という落語が収録されている。医師免許を必要としなかった時代に、医師が出来の悪い弟子に自分の代わりに患者の脈を取ってくるように命じる……というネタ。『蔵前駕籠』ほどではないが、こちらもなかなかの爆笑ネタである。特に、弟子が患者の元へと到着してからの言動は、とにもかくにも下らない……。

『KING KONG LIVE 2011』

KING KONG LIVE 2011 [DVD]KING KONG LIVE 2011 [DVD]
(2012/08/08)
キングコング

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“出る杭は打たれる”という言葉が示すように、テレビ露出が増え始めた売れっ子芸人には批判がつきものだ。ただ、それは別に、売れっ子芸人そのものに問題があるわけではない。ただ単に、売れっ子になって、それまで彼らに興味を持たなかった人間の視界に入ることにより、結果として批判の声が増えているだけに過ぎないからだ。逆にいえば、売れっ子じゃ無くなれば、そういった批判の声は収まっていくということ。つまり、批判の声は人気のバロメーターともいえるのである。

ところが、そんな人気とは関係無く、ただひたすらに批判され続けている芸人がいる。先日、コンビ結成13年目を迎えた漫才師、キングコングである。NSC在学中に「上方漫才コンテスト」最優秀賞を受賞、その後も「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞、「上方漫才大賞」新人賞、「上方お笑い大賞」最優秀新人賞を受賞するなど、“天才漫才師”ぶりを世間に見せつけた。2001年には、後に全国放送化されるバラエティ番組「はねるのトびら」へのレギュラー出演が決定。キラ星の様に輝いている芸人人生だった……が、今やそれも過去の話。昨年、大々的に開催された「THE MANZAI 2011」には、出場するも決勝戦には進出できず。自身のホームだった「はねるのトびら」も終了し、はっきりいって世間的には厳しい状況にある。それなのに、彼らは今でも批判され続けている。まるで、批判されるためだけに存在しているかのように。

キングコングを批判する人たちは、口を揃えて彼らを「つまらない」という。芸人にとって最も口にされたくない言葉であり、芸人至上主義を謳う私は本来ならば「そうじゃない」と断固否定すべきなんだろうが、その言葉に共感を覚えてしまう自分もいる。確かに、かつてのキングコングはとても面白いとはいえなかった。漫才師としての技術は群を抜いて高かったが、その言葉に重みはなく、何処となく上滑っている印象すら覚えた。それ故に、彼らの「つまらない」を完全に否定することは、私には難しい。ただ、それはあくまでも過去の話である。今のキングコングは、決してつまらない漫才師ではない。むしろ、現存するどの漫才師よりも広範囲の観客をド直球でもってターゲットに収めることが出来る、平成を代表する漫才師に成り得る力量を見せつつある……というのは、流石に言い過ぎか。

『KING KONG LIVE 2011』には、キングコングが2011年の夏に全国展開した漫才ライブツアーの模様が収録されている。キングコングが自身の漫才ライブをソフト化するのは、昨年リリースされた『KING KONG LIVE 2010』に引き続いて二回目。彼らの実績を考慮すると、もっと多くのリリースがあっても良かったような気がするが、そこは何かしらかの方針でもあったのだろう。ライブの模様はノーカットで収録、にも関わらず1時間50分というとてつもない時間を要している。

キングコングの漫才における最大の特徴は、そのスピード感でもコンビネーションでもない。徹底した分かりやすさだ。面白い・面白くないに関わらず、老若男女に確実に伝わるであろう分かりやすさ。予備知識も何も必要としない、ハードルの低さ。それが、キングコングの漫才だ。本作に収録されている一本目の漫才『掘った芋いじるな』を観ると、そのことがよく分かる。『掘った芋いじるな』は、梶原が誰でも簡単に英語が喋れる方法として、「掘った芋いじるな」をエエ感じに言うと「What’s time is it now?」と本当に聞こえるからやってみせるというが……というネタ。このネタの何が凄いかって、最初から最後まで同じテーマを続けているところが凄い。こんな素朴なテーマを、掘り下げもせず、別方向に展開することもせず、テーマそのものだけで勝負している。しかも、やっていることといえば、顔と口調の笑いばっかり。でも、それを強引に笑いへと持って行く。このポテンシャルの高さが、また凄い。

その後も、「童謡『森のくまさん』を歌う」というベタなテーマをベタにきちんと突き詰めて行く『森のくまさん』、かつての知り合いと再会するもまったく思い出せない状況の必死さを全力で表現する『こいつ誰だっけ?』、親しい友達が偶然出会うときにやるモーション(お互いの手を打ち合う挨拶)を漫才に取り入れようとして失敗し続ける『ヘイヘイヘイ』など、シンプルな動きと言葉で笑わせる漫才が畳み掛けられる。そこで求められているのは、漫才師としての実力のみ。骨太、しかし軽妙なステージは、ある意味において漫才の最高峰と呼ぶに相応しいといえるのかもしれない。

ただ、難点もある。単なるオーソドックスであることを恐れているのか、芸人としての自意識が暴発してしまったのか、本作で披露されている漫才の中には、とてつもない下ネタが組み込まれていることもしばしば。中でも、西野が梶原に夢の国の楽しみ方を全身を使って伝えようとする『素敵なディズニーランド』は、かなり酷い。勢いに任せて、かなーり酷い。「ヌッキーだとイヤらしいお姉さんになる」を掘り下げちゃダメだろう! ……キングコングが批判されている理由は、面白さ云々よりも、こういった芸人としての生き様に対する偏執的ともいえるこだわりが大きいのではないか。特典映像も見たが、エグいくらいに芸人らしく振る舞うことを追求していた。こういうところが愛されるようになれば、もうちょっと芸人として人気を集めるようになるのではないか。……キャラクターが確立された今、難しいかなあ。

ちなみに、ヌッキーは五反田にいるらしい。


・本編(110分)
「掘った芋いじるな」「森のくまさん」「こいつ誰だっけ?」「ヘイヘイヘイ」「ヤンキー憧れ」「素敵なディズニーランド」「肝試し」

・特典映像(117分)
ツアーの裏側を追いかけたメイキング映像

2012年10月のリリース予定

17『小林賢太郎テレビ 3
24『バカリズムライブ「運命」 [DVD]
24『ニッチェ初単独ライブ「ポテトサラダ」 [DVD]

個人的には、さほど面白味のない10月のリリース予定。とはいえ、面子は濃いい。まず、もはや世界的な活躍を見せているパフォーマー・小林賢太郎によるテレビ番組「小林賢太郎テレビ」の第三弾。コントっぽいことも色々やってるみたいだけど、ラーメンズはどうなったんだろう? 続いて、孤高のピン芸人、バカリズムの単独ライブ。……これで今年のライブDVDリリースは三枚目、しかも11月には『バカリズム THE MOVIE』も控えている……働き過ぎだよホント。最後に、新たなる女性コンビの刺客ニッチェの単独ライブ。確かな演技力で生み出される、フレッシュで迫力ある漫才・コントをご堪能……。

「オンバト+」九月二十九日放送感想文(福岡)

■トレンディエンジェル【465kb/1,274票】※視聴者投票1位
二戦一勝、今期初オンエア。主に頭部がとってもトレンディな漫才コンビ。K-POPの良さについて語るという、ネット上では賛否分かれそうなテーマの漫才。大半のボケがハゲに通じるという、自分たちの見られ方をこの上なく理解している漫才だった。ただ、それ故に、底が浅いと思われてしまうフシも。ポップで分かりやすくて、尚且つ地力も凄まじいコンビだと思うんだけどな。でも、その位の認識が、彼らにとってはやりやすいのかも。

■プリマ旦那473kb/915票】※会場審査1位
三戦二勝、今期初オンエア。ダジャレみたいなコンビ名なのに、ちゃんとした漫才をするコンビ。けっこう名前で損している気がするのだけれど、意図的にやっていることなんだろうか? ネタは、映画などでよく目にする、花嫁を強奪するシーンをやってみようというもの。相方の小芝居を殆ど止めることなく横でツッコミ続ける漫才って、実は珍しいような気がする。変に感動路線に走ろうとせず、徹底的に下らない内容なのもいい。野村のバカキャラ演技力の高さも素晴らしい。タイヤ交換の際の動きが絶妙!

■アイデンティティ473kb/1,242票】※会場審査1位・視聴者投票2位
九戦五勝、今期二勝目。当たれば大きい太田プロ所属の漫才師。今回は当たりの方。ネタは『迷子センター』。悪魔的儀式が行われている部屋を効果的に使いながら、「エロティカ・セブン」「ガラモン」などの意外性のあるワードを上手く使う絶妙なセンスが素晴らしい。それでいて、「お得なキャンペーン」「ちんぷんかんぷ~ん」など、ベタなボケを使うタイミングも上手い。ただ、何処となく浮ついている雰囲気が、かつての三拍子を彷彿と。彼らと同じ道をアイデンティティも歩むのか?

■フリータイム【409kb/1,010票】
二戦全勝、今期初オンエア。知る人ぞ知る広島吉本所属のコンビ。広島吉本はまだ目立った芸人を輩出していないので、ここは頑張ってもらいたいところ。『バーテンダー』。さらりと悪意を滲ませる松浜のボケと、体型をイジられながらもビシッと返す塩谷のツッコミが、ダイノジを彷彿と。方向性は悪くないと思うので、あとはオリジナリティを……。

■ヒカリゴケ【417kb/1,128票】※視聴者投票3位
十戦八勝、今期三勝目。叔父と甥のコンビ。アイドルになりたいという国沢に乗っかって、片山もアイドルを目指そうとする漫才。前回と同様、片山が国沢の提案にツッコミを入れ続けるスタイルで、今回はそこへ更に叔父と甥の関係性も上手く盛り込んでいた。客席もかなり盛り上がっていた様に見えたのだが、キロバトルはさほど伸びず。オチがあっさりとし過ぎていたからか、それともカットされていた場面があったのか……分からない。個人的には、良かった。

■エレファントジョン【409kb/926票】
十一戦九勝、今期二勝目。『修学旅行』。前半では加藤の話に森枝がジャマをして、後半では逆に森枝の話に加藤がジャマをしようとするも、そのジャマにジャマを重ねるスタイルの漫才。内容は変化しているのだろうが、基本的な流れがいつも同じなので、本当にもういいかげん飽きてきた。いや、厳密にいうと、飽きる・飽きない以前に「またか……」という気持ちになってしまっている。観る側の怠慢と言われてしまえばそれまでかもしれないが、そろそろ本当にシフトチェンジをお願いしたい……。

■今回のオフエア
365kb:クマムシ
249kb:キャプテン渡辺
201kb:トミドコロ
193kb:ランチランチ

芸が好き嫌いのはっきり分かれるトミドコロ、面白いのに面白さがあんまり理解されていないランチランチはともかくとして、キャプテン渡辺の連敗は意外。高キロバトルで好調な滑り出しを見せたのも今は昔、やっぱりファッションを変えたのがいけなかったのか……?

■次回
あかつ
あばれる君
ウメ
【初】KICK☆
サイクロンZ
ヒューマン中村
HEY!たくちゃん
ゆってぃ
【初】横澤夏子
冷蔵庫マン

次回はピン芸人大会。一直線にチャンピオン大会を目指すヒューマン中村を始めに、初オンエアのネタがなんだか忘れられないあばれる君、ヘンテコな質感のコントは何度でも食べたくなるウメ、発想よりもパフォーマンス力で見せる実力派サイクロンZなど、何がなんだか分からない連中が出揃う。もういっそ、皆で一緒にワカチコワカチコ~!

「オンバト+」九月二十二日放送感想文(福岡)

■BLUE RIVER461kb/1,718票】※会場審査1位・視聴者投票2位
初挑戦初オンエア。ワタナベ九州支部に所属する漫才師で、二人とも福岡県出身とのこと。バイト先に好きな女の子がいるので、その子から連絡先を聞き出したいという話から、実際にやり取りをするにあたって絵文字をどう使えばいいかという話へと展開する、二部構成の漫才。前半は緩やか、後半はハイテンポ、メリハリの良さが目立つ。ベタなボケと切れ味の良いツッコミが心地良いが、ここにプラスアルファの要素が欲しいと思ってしまう。でも、まあ、それだけ地力を感じたということなので。次回以降に期待。

■Gたかし【421kb/2,082票】※視聴者投票1位
五戦四勝、今期二勝目。スケッチブックモノマネ芸人。今回も『ものまね紙しばい』。以前はもっとモノマネのバリエーションを広げていたイメージがあるが、今回は普段よりも強くイラストで笑わせるスタイルで。地方収録仕様なんだろうか。とにもかくにも、「タッチ」の世界を猪木&ボビーで強引に再現(それでいてイラストは原作にかなり近付けている)しているのに笑った。あそこまでやってしまったら、もう逆に卑怯なんじゃないかと思わなくもない。いやー、下らない。

■オテンキ【445kb/1,196票】
六戦四勝、今期二勝目。『結婚式に遅刻』。ここ最近は小ボケ役ののりが中心になって展開する人情ドラマ、みたいなコントを作り続けていた彼ら。今回のネタもその路線に近いが、以前に比べてクオリティは格段に下がっている。GOが天然キャラを掘り下げ過ぎたのか、もはや笑いになりにくい領域に突入していたからだ。ああいうキャラは、程々くらいが丁度良い。ただ、肝心のネタに関しても、ちょっとメリハリの悪さを感じた。まるで、シチュエーションだけを先に思いついて、後から無理矢理ボケを押し込んだような……。あと、ちょっと劣化版インスタントジョンソンみたいになってきているのも、憂慮すべき点であるように思う。

■吉田たち【445kb/1,201票】
二戦一勝、今期初オンエア。双子の漫才コンビ。ザ・たっち以降、双子の兄弟がお笑いコンビを結成するパターンがやたらと増えてきた気がする。今年の頭にはツインズって双子コンビがオンエアされていたし……そういえば彼ら、あれからどうなった? ネタは『女を賭けた決闘』。双子であることを利用したボケでキチッと掴んでから、ちゃんとセンスを活かした漫才を展開しているあたりに、自分たちの見られ方が分かっているんだなあと感心。当たり前っちゃ当たり前か。ダンスバトルからの「殴るフリでいい」というメタボケ、そして終盤の絶対にケンカが強いヤツの登場……。視聴者投票は伸びなかったが、もうちょっと評価されても良かった!

■いけだてつや【397kb/1,482票】※視聴者投票3位
初挑戦初オンエア。かつて“三福星”というトリオを組んでいたメンバーの一人。最近、自らに起こった出来事について語る漫談。ふわっとした雰囲気に不安を覚えるも、「みんなはC.W.ニコルさんのブログは見てるのかなあ?」の一言にグッと胸を掴まされる。細かいエピソードがさりげなく伏線となっている点も、なかなか興味深い。テンポは緩やかだけれども、実はあべこうじと同じ路線なんじゃないだろうか。スマイリーキクチ以来の微笑み漫談家として、今後の活躍に期待したい。

■今回のオフエア
381kb:マシンガンズ
377kb:チキチキジョニー
305kb:あきげん
265kb:カルマライン
253kb:エリートヤンキー

今期、高キロバトルを記録したマシンガンズ、あきげん、エリートヤンキーが軒並みオフエア。「あきげん」に関しては、連勝は確実と思っていただけに、意外な結果になった。「THE MANZAI 2011」ファイナリストのチキチキジョニーもオフエアに。……こうして見ると、オフエア組の方が豪華だな。
プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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