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『ウラハラ』(ハライチ)

ウラハラ [DVD]ウラハラ [DVD]
(2010/12/29)
ハライチ

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漫才の基本形といえば、ボケとツッコミ。ボケ役はボケに、ツッコミ役はツッコミに徹するのが当然である。この形を崩した漫才も存在する。ボケに対してボケを重ねるスタイルの漫才や、ボケを否定せずにやんわりと受け止める漫才などが、それだ。とはいえ、それらの漫才は、あくまでもアウトローである。ボケとツッコミによって成立する漫才が王道として在るからこそ、そのスタイルに反逆する漫才が認められるのだ。

その観点から言うと、ハライチの漫才は非常に斬新だった。彼らの漫才は、岩井(ボケ役)のボケに対して、澤部(ツッコミ役)がそのボケに乗っかるというスタイル。一見すると、それはボケに対してボケを重ねているだけに見える。しかし、それは違う。澤部の乗っかりは、最終的に岩井へと放たれるツッコミに向かうノリツッコミの行程に過ぎない。つまり、澤部は岩井のボケにボケを重ねているのではなく、最後の最後に一度だけ放たれるツッコミのために、ただただ乗っかっているだけなのだ。彼ら自身は、その漫才スタイルを“ノリボケ漫才”と呼んでいる。それは、これまで見たことのない、まったく新しいスタイルの漫才だった。

「M-1グランプリ2009」決勝戦。この年、M-1では“リベンジ戦”が話題の中心となっていた。東京ダイナマイト、南海キャンディーズ、ハリセンボンといった、過去に決勝へと駒を進めるも結果を残せなかったコンビらが、数多く決勝戦に進出したからだ。彼らが、前年の決勝進出者であるナイツ、モンスターエンジン、笑い飯らにどう立ち向かうか、その動向が大いに注目された。そこに、ハライチの姿もあった。既に「爆笑レッドカーペット」などの番組でその実力を見せつけていた彼らだが、“果たしてノリボケ漫才はM-1で評価されるのか”という意味で、結果がどうなるのか見当のつかないコンビとして不安に思われてもいた。しかし、蓋を開けてみると、9組中5位という順位に落ち着いた。決して高い順位ではないが、彼らの前に笑い飯が伝説のネタ『鳥人』を披露していたことを考慮すると、上々の成績だ。ハライチの漫才は、M-1でもきちんと評価されたのである。

それからおよそ一年後。「M-1グランプリ2010」決勝の舞台に、ハライチの姿はあった。2009年大会とは違い、2010年は新しい顔ぶれが揃った大会だった。カナリア、銀シャリ、ジャルジャル、スリムクラブ、ピースと、いずれ劣らぬ曲者揃い。既にノリボケ漫才のスタイルが公然のネタとなっているハライチには、そんな新人たちの様な新しさが少なからず求められていた。そこで彼らが取った手段が、“天丼”だった。ノリボケ漫才の大半は、岩井のボケと澤部の乗っかりによって構成されている。そして、岩井のボケは基本的に、一度きりしか使われない。この一度きりのボケを、二人は澤部の乗っかりに再利用したのである。先ほど使われたフレーズが、忘れた頃にもう一度登場する。お手本のような“天丼”だ。ただ、この手法は、彼らの普段の漫才でも何度か使われてもいた。一応、決勝ではその手法をより強調した構成にはなっていたが、それでは他の個性的な曲者たちには勝てない。結局、彼らは9組中7位と、前年よりも順位を落としてしまう。彼らなりに考えた作戦だったのだろうが、あまり芳しいとはいえない結果を残すこととなった。

「ウラハラ」は、M-1グランプリ2010決勝戦が終了した三日後の2010年12月29日にリリースされた、ハライチの漫才ネタ作品集だ。同じ年の2月、彼らは既に漫才集「ハライチ」をリリースしているので、今作は第二弾に当たる。タイトルの印象から、なんとなく「ハライチ」は表で「ウラハラ」は裏と捉えてしまいそうだが、披露されているネタに大きな違いは無い。お馴染みのノリボケ漫才を堪能できる『部活のエース』『旅行』『喫茶店』、岩井がファンレターを読み上げて澤部が内容にツッコミを入れるオーソドックスな読み物漫才『ファンレター』、ノリボケ漫才の一つの進化系漫才『刑事』など、「ハライチ」で披露されていた漫才とはまた違う趣はあるものの、一線を画すと言うほどの違いもない。

その中で唯一気になったのは、『シチュエーション』というネタ。

岩井「よくさ、学園モノの青春ドラマとかで、元野球部の不良が野球部を潰しに来るのにさ、キャプテンが説得して、その不良がまたね、結局野球を始めるっていうシーンがさ」
澤部「あー、ありますね。「目を覚ませバカ野郎!」っつって、ぶん殴ったりしてね」
岩井「ああいうの一度やってみたいとか、思ったことないわ」
澤部「んー、んん!?無い!?」


シチュエーション漫才に入るように見せかけて、入らない。ノリボケ漫才における澤部の乗っかりぶりを活かしつつ、岩井のボケとしての存在感を浮き立たせた秀作だ。この漫才を観ていると、別のコンビのあるネタを思い出さずにはいられない。そう。つい先日、このブログで取り上げた銀シャリの『万引きGメン』のことだ。ハライチの『シチュエーション』と銀シャリの『万引きGメン』は、その手法は違うが、ともに漫才コントを否定している。これは単なる偶然なのかもしれない。だが、これまでに培われてきた漫才の定石を否定したM-1グランプリ2010決勝の舞台に進出した二組の漫才師が、それぞれ違った方法で「漫才コント」という形式を壊した漫才を演じているという事実は、なかなか興味深い。M-1グランプリが終了した今、漫才は史上かつてない転換期を迎えているのかもしれない。

“ノリボケ漫才”という新たなスタイルの漫才を生み出したハライチ。彼らはもしかしたら、漫才の新たなる時代の担い手となり得る存在なのかもしれない。全ての漫才を過去にしてしまうかもしれない彼らの漫才から、今後も目が離せない。


・本編(37分)
「部活のエース」「ファンレター」「旅行」「ゆびきりげんまん」「喫茶店」「刑事」「シチュエーション」

・特典映像(35分)
「岩井勇気の一度やってみたかったヤーツ」
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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