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七夕の夜に「柳家花緑独演会」に行ってきた。

七月七日木曜日。七夕の夕刻、僕は一人で岡山へと向かう列車に乗っていた。そこで行われる「柳家花緑独演会」を鑑賞するためである。ただ、僕は別段、柳家花緑のことを好いているわけではない。それでも、瀬戸内海を挟んでいるとはいえ、隣県で落語会が行われるというのであれば、やはりこれは鑑賞に出向くべきであろうというと、そういう結論に至ったが故の行動であった。しかし、幾ら隣県とはいえ、決して近くはない。仕事場を途中で抜け出し、宇多津駅から坂出駅へ、坂出駅から岡山駅行きの列車に乗り換えるという行程を経て、結局一時間ばかりかかってしまった。会場となった岡山市民文化ホールまでは、路面電車で向かった。やはり路面電車は、ちょっとした移動にはこの上なく便利である。

会場に到着、チケットをもぎってもらって中に入ると、早速物販コーナーを発見する。ここ最近、僕にとっての落語会の目的が物販になってしまっている気がするのだが、気のせいということにしておく。物販コーナーでは、花緑手ぬぐいを始めとして、これまでにリリースしてきた本・CD・DVDが陳列されていた。それらを購入すると、独演会終了後に行われる予定のサイン会に参加できるという。僕としては、朝日名人会シリーズの一枚である『柳家花緑1』を入手したかったのだが、残念なことにそこでは売られていなかったので、以前に購入を惜しんだ新書本『落語家はなぜ噺を忘れないのか』を購入する。支払いを済ませると、物販スペースの脇に通される。そこには長机が置かれており、その上には大量のふせんと使い捨て用の鉛筆が。どうやら、独演会後のサイン会を迅速に済ませるために、このふせんに名前を書いて購入物に貼りつけておかなくてはならないらしい。なにやら工場の流し作業風景を彷彿としながら、ふせんに自分の名前を書いた。

物販前の通路を抜けたところにある階段を上がって、ホールの中に入る。すると、そこには沢山の人がいた。ほぼ満員といった様相で、二月に同じ場所で行われた立川志らく独演会は一体なんだったんだと思いもしたが、それだけ花緑の知名度が凄いということなのだろうと納得することにした(後で知ったのだが、花緑は年に一度岡山で独演会を行っているらしい。恐らくお馴染みの客も多いのだろう)。開演予定時刻まで残り時間十分といったところで、自分の指定席に座る。……が、なかなか始まらない。落語会となると、どうもこの待ち時間が落ち着かない。会場内に時計を設置してあれば、こんな気持ちにならずに済むのだが、それを望むのは贅沢だろうか。
 
幕が開くと、まずは前座さんが登場。現れたのは、柳家緑太さん。あまり愛想の良さそうな顔ではないが、真面目さが感じられる。ネタは『たらちね』。とてつもなく丁寧な言葉を使う女性を嫁にもらった男の困惑する様が面白い。僕は以前『御公家女房』という題で同じ内容のネタを聴いたことがあったのだが、それに比べて少しオチが分かりにくかった感がある。とはいえ、噺の筋道が丁寧に作り上げられていて、なかなか面白かった。今後の活躍に期待したい。

前座の出番が終わると、今度は花緑師匠の出番である。さあ、どういう落語を聴かせてくれるのだろう……と構えていると、いきなり「タクシーの運転手にソープ帰りだと疑われる」という下ネタのマクラが始まって、些か驚かされる。会場には小学生、中学生くらいの少年少女の姿もあったのだが、このマクラで正解だったのだろうか? ……とは思ったものの、面白かったので、思わず口角が上がってしまった。そして始まったネタは、なんと『初天神』。天神様のお参りについてきた息子が、駄々をこねて父親を振り回す落語だ。あんなマクラ振っておいて、また凄いネタを放り込んできたなあ……と、半ば呆れてもみたが、これがなかなか面白い。親子のやり取りを決して突飛に演出せず、ひたすら丁寧に描いていたために、落語本来の面白さが明確に表れていたような。実に良かった。

『初天神』は団子を買ってもらったくだりで終了。本来なら、この前に飴を買ってもらい、この後に凧を買ってもらうことになっているのだが。なかなか大胆に切ったなあ……と思っていたら、なんと幕が下りない。ネタが一つ終わったにも関わらず、花緑の高座はまだ続いたのである。なんだか妙な構成だ。ネタが一つ終われば、仲入り(休憩)を挟んで、次のネタに入るものと思っていたのだが……そういうこともあるのかと、思わず膝を打った。続くネタは『祇園会』。京都の人間に江戸のことをバカにされた江戸っ子が、お国自慢争いを始めるという落語だ。初めて聴くネタだったので楽しみにしていたのだが、途中でお祭りの内容を自慢し合うくだりで、なんだか気持ちが醒めてしまった。この原因は恐らく、先日鑑賞した「玉藻寄席」にあるのだろう。江戸っ子が祭りの盛り上がりを再現する様から、たい平のモノマネパフォーマンスと小遊三の江戸っ子気質を重ねてしまったのだ。流石に分が悪いというものである。

『祇園会』が終わり、仲入り。特にすることもなかったので、なんとなしに物販の方を覗きに行くと、一人で六枚も手ぬぐいを購入している老人の姿を見かける。どうやら、近所の人に配るつもりらしい。……落語を観に来ているにも関わらず、どうしてこんなに落語の粋とかけ離れた行為が出来るのだろうと、なにやら残念な気持ちになった。

仲入り終了、再び花緑が高座に上がる。マクラは、先日の東日本大震災でのエピソードから、原子力は身体に良いという説もあるという話。なんでも、原子力が身体に良いという説を最初に提示したのは、岡山大学の人らしい。意外な縁だ。そこから落語『権助提灯』へ。……こうして振り返ってみると、なんだか落語の内容とマクラの内容が一切関わりがないような気が。兄弟子である小三治師匠の影響だろうか。『権助提灯』は、風の強い夜に女房と妾に振り回される旦那と、そんな旦那のことをニヤニヤと横で笑って見ている権助の様を描いた落語だ。ドラマ「タイガー&ドラゴン」で題材にされたこともあるので、知っている人も少なくないのではないだろうか。この落語も聴いたことがなかったので楽しみにしていたのだが、これはどうもあまり合わなかった。僕の了見でいうと、つまりつまらなかった。どうも、粗筋をなぞっているだけに見えたというか、枠だけ組み上がってしまって中身が伴っていないというか。そもそも、『権助提灯』という落語自体、少し難しいネタであるように思う。ちょっとシステム的な部分に偏っているネタだと思うのだ。

『権助提灯』が終わると、またも幕が下りない。続けて演じられたのは『ちりとてちん』だ。御隠居が腐ってしまった豆腐を使って、物知りを装う男に痛い目を見せる落語である。ドラマのタイトルになったネタなので、知っている人も多いだろう。これはなかなか面白かった。特に、腐った豆腐が出てくる前に登場する、お世辞を言いまくる男のキャラクターが良かった。程々にデフォルメされていて、しかしコント的になり過ぎない絶妙さ。一方、後半では腐った豆腐を食べた男のリアクションで、こちらの意識をグイグイと引き込む。『権助提灯』とは打って変わって、きちんと自分のネタにしていることが伝わってくる、いい『ちりとてちん』だった。

ただ、総合的に見ると、今回の独演会には少し物足りなさを覚えた。ネタの数だけを見ると四本も演じられているものの、その内容が短めに編集されているので、一つ一つのネタによってもたらされる満足感があまり得られなかったことが、その原因だろう。やはり落語は、長々と一本のネタを観るのが良い。そういう意味では、短いながらも満足のいく出来だった『初天神』『ちりとてちん』は珠玉の出来だったといえるのかもしれないが。

独演会終了後、物販が行われていた通路へ移動すると、沢山の人だかりが出来ている。どうやらサイン会に参加している人たちの波らしい。哀しいかな、僕は遅れを取ってしまったようだ。急いで最後尾に並ぶ。時刻は既に午後九時を回りかけている。このままだと、帰宅時間がいつになるか分からない。早く進まないものか……と思うが、サービス精神旺盛な花緑師匠が一人一人にきちんと挨拶しているので、これが遅々として進まない。客は客で図に乗って、落語の感想を言ったり、持参した色紙や扇子にサインしてもらっていたり。出遅れた自分が悪いとはいえ、なにやら歯痒い気持ちになる。結局、自分の番が回ってきた頃には、九時半を回っていた。

会場を後にして、路面電車の駅へ急ぐ。時刻表を見ると、午後十時までは電車が走っているとのこと。そこから岡山駅に向かい、高松方面の電車に飛び乗る。来たときと同様、坂出駅で降りて電車を乗り換え、宇多津駅で降りる……という行程を踏んでいるうちに、時刻はもう午後十一時。夕飯を食べそびれ、すっかり空腹だった僕は、帰りにマクドナルドでハンバーガーのセットを買った。揚げたばかりの熱いポテトを口に放り込んでいくうちに、胃もたれを起こす。「あーあー、だから言わんこっちゃねえ」と、我が子を案じる『初天神』の父親を思い出しながら、帰路についた。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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