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「立川志らく独演会 in岡山」(11月15日)

2011年11月15日の夕刻、私は父が運転する車の中で憂鬱な気分になっていた。この日、我々二人はおよそ9ヶ月ぶりに行われる「立川志らく独演会」を観るために、仕事を早めに終えて岡山の中心地を目指していた。しかし、平時でさえ交通量の多い国道2号線は、帰宅ラッシュの影響もあってか酷い渋滞に見舞われており、我々の車はなかなか前へと進もうとしなかったのである。加えて、ここ最近は乗車する側ではなく運転する側になることが殆どだった私は、久しぶりの助手席に気分が悪くなり、完全に車酔いの様相を呈していた。座席の背もたれを限界まで倒し、どうにかして寝ようと思ったのだが、これがどういうわけかまったく眠れない。仕事中にウトウトと居眠りしてしまう無神経さが、ここにきて役立たず。なんとも情けない。

だが、それでも車は少しずつではあるものの前進を続けていたのか(気分が悪くて前進している感覚すら掴めなかったのだ)、しばらくして我々は渋滞から抜け出すことに成功した。とはいえ、車の行列からは逃れられず、なんだか前後から圧迫されているかのような状態はなおも続いていた。それでも気力を振り絞り、どうにか気合を入れようとすると、今後は父が小用に行きたいとぐずり始めた。しかし、近辺には飲食店やドラックストアの様な、トイレを容易に貸してくれそうな店はまったく見当たらない。しばらく進むと、コンビニが見えてきた。だが、反対車線にある。もし、このコンビニに入ることが出来たとしても、そこから再び元の車線に戻るのは難しいに違いない。渋々、断念する。その後も、幾つかのコンビニが目に入ったが、いずれも反対車線側にある。左車線にコンビニが無い。そのうち、我慢できなくなってきたのか、左足でリズムを刻み始める父。あわや大惨事なるか、と不安に苛まれたところで左車線にあるローソンを発見。“町のほっとステーション”に文字通り、ほっとする。

そんなこんなで会場に到着したのは、開演のおよそ十分前のことだった。会場前には人影が少なく、大半の客が館内に収まっているのは一目瞭然である。財布からサッとチケットを取り出し、ビリッともぎってもらい、スワッ(SWA)とホールに向か……おうとしたのだが、ロビーの物販コーナー前で立ち止まる。今年2月に行われた独演会にも物販コーナーがあり、終演後には購入者全員を対象としたサイン会が開催されていた。今回も、それをやるのか。受付の女性に聞いてみた。「あの……これを買ったら、後でサイン会……」「あ、はい!やりますよー」。そうこなくっちゃ、張り合いがない。しばらく考えて、この日のために購入を躊躇していた師の新著『落語進化論』と、前回の独演会では買おうかどうか悩んでいる隙に売り切れてしまった、師の十八番ネタが書かれた手ぬぐいを購入する。父も手ぬぐいを買っていた。サインしてもらう気らしい。……ミーハーだなっ(←決して人のことは言えない)。

ホール内では、既に数多くの観客たちが席についていた。だが、以前に同じ会場で行われた【柳家花緑独演会】【立川志の輔独演会】と比べてみると、やはり客数は少ない。前回、我々の席は左端の方だったが、今回は真ん中である。落ち着いて観られる、とてもいい席だ。開演に少し時間があったので、Twitterで会場に到着した旨を報告する。途端に館内放送。携帯電話の電源をお切りくださいという内容。当然のマナーである。聞いたところによると、翌日の広島公演では、師匠のネタ中に高座を撮影した輩がいたらしい。とんでもない話だ。

しばらくして開幕。この瞬間が、なんだかんだで一番楽しいような気もする。
 
前座として現れたのは、志らく門下の立川らく太。2月に行われた独演会でも前座を務めていた。当時のネタは『高砂や』だったが、今回は『権助魚』を披露。他所に愛人を作っている旦那を持つ奥様が、権助に愛人のいる場所をそれとなく探ってくるように頼むのだが、その目論見があっさりと見抜かれてしまう。そこで旦那は、逆に権助を利用してやろうと考え、奥様に「偶然知り合いと会って意気投合、芸者を揚げてどんちゃん騒ぎをして、隅田川で網打ち(注釈:投網で魚を獲ること)をした。帰るのは明日の昼ごろになると伝えなさい。また、その証拠として、魚屋で適当に網打ち魚を買ってきなさい」とアリバイ工作を頼む。相変わらず、語り口は悪くないのに惹き込まれない。落語家以前という扱いの前座の実力、ここにありといったところか。ところで、昇太師匠の『権助魚』では、当時の田舎者は情報を得られなかった(よって権助は魚などに詳しくない)という説明があったが、ここではそれがなかった。元来はそういう視点で語られるネタではないということなんだろうか。

続いて本命、志らく師匠の登場。「岡山に来るのは今年2回目となりますが……それまでの間に花緑や志の輔兄さんが来たそうで……花緑はバカです」と、いきなりの悪口で会場中がニヤニヤ(ちなみに、志らくと花緑は仲良し)。その後、今年起こった震災の話を一瞬だけ経由するも、またすぐさま落語界の話に。これはこれで面白いけれど、初めて落語を聴きに来た人を完全に置いてけぼりにするのはどうなんだろう。些かの疑問を覚えるも、私には分かるネタが多いので、ひとまず大笑いさせてもらった。そうして始まったネタは、「今では談志くらいしかやらない、難しい割に面白くないネタ」という『鉄拐』。舞台は中国。上海屋という店があるのだが、ここが創業記念日にやる余興が大変に面白くて評判だったのだが、ある時とうとうネタが無くなってしまった。そこで番頭に珍しい芸人を探して来いというのだが、これがなかなか見つからない。様々な場所に赴き、迷い込んだ場所が桃源郷という不思議な世界。そこで鉄拐という老人に出会う。この鉄拐という老人、実は仙人だという。仙人ならば何か出来ないかと聞いてみると、口の中からもう一人の自分を出すという仙術を見せる。これは珍しい芸だと思った番頭は上海屋に鉄拐を連れて帰ってくるのだが、これがあまりの好評で、鉄拐は引っ張りだこの人気芸人になっていく。

『鉄拐』という落語に触れること自体が初めてだったのだが、実に不思議な落語だった。落語には幻想的な要素を含んでいるネタも数多く存在していて、例えば神様が望みを叶えてやる『ぞろぞろ』や、犬が人間になってしまう『元犬』、亡者たちが地獄を堪能する『地獄八景亡者戯』などがそれだ。しかし、舞台が中国で、しかも仙人という完全に異質の存在が噺の中心になっているのは、ちょっと珍しい。ギャグも多い。上海屋がこれまでにやってきた余興の内容や、鉄拐が芸人として出世行く様などに、どんどんオリジナルの笑いを放り込んでくる。それが実に、実にくだらない。中でも笑ってしまったのは、上海屋の余興の一つ「懐メロジュークボックス柳亭市馬」と「さだまさし『防人の人』に合わせて『じゅげむ』『芝浜』を演る」……あまりのくだらなさに、腹を抱えて笑った。ただ、オチがちょっと現代ではオーソドックスで、これだけの混沌の〆としては物足りず。後で『落語進化論』を読んでみると、このネタが特別に取り上げられていた。元来のオチだと現代では通用しないので、変えたのだそう。まだまだ改変の余地があるような、ないような……むう。
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仲入り。後方の席だったので、後ろの出口からベンチに移動する。隣に父がやってくる。疲れた顔で「あれはよく分からんかった」と。……やっぱりちょっと内輪ネタが過ぎたか。後に志らく師匠もTwitterで「アンケートに面白くないと書かれていた」という旨のつぶやきをされていたけど、あれは仕方がないところもあったと思う。私は好きだったが。

仲入り後、ゆったりと登場する志らく師匠。先程の落語界ネタまみれだったマクラとは打って変わって、今度は江戸の火事についての話を淡々と始める。どうやら、火事がテーマになっている落語らしい。……と、その時、ある噺が頭に浮かんでくる。もしかしたら、あの噺だろうか。いや、この流れは、ひょっとしたら……と思っていると、決定的な一言が。「火の粉が穴から入ってきて燃え上がるということも……」。『鼠穴』だ。気付いて、思わず唾を飲んだ。

『鼠穴』は、ある兄弟の物語だ。父親が亡くなって、一つの土地を分け合った二人。兄は土地を売った金を持って江戸で商売を始め、大きなお屋敷に住む旦那になった。一方の弟はというと、悪い仲間に付きまとわれて良くない遊びを始め、すかんぴんになった。どうにもならなくなった弟は、兄の屋敷へ商売の資本を借りに行く。快く貸してくれる兄。封筒に入ったお金を持って、屋敷を出る。そこで弟に悪い考えが過ぎる。「ちょっとくらいなら酒に使ってもいいだろう」と、封筒からお金を取り出してみると、なんとたったの三文しか入っていない。「兄貴は鬼だ!」と叫ぶ弟だが、この悔しさをバネに商売を始めて成功を収める。十年後、借りた三文に五両の利子を足して返しに行くと、兄は全てを告白する。「あの日、お前の眼には酒が残ってた。もし五両を貸したら、お前はそのうち二両を酒に使おうと思った、そうじゃねえか!?」。兄の心意気に涙を流す弟。成功したことを祝って、酒を酌み交わす二人。弟はそのまま兄の屋敷に泊まることに。ところがその日の夜、弟の屋敷の方向から火の手が……。

落語といえば笑えるモノだという印象が強いが、この『鼠穴』に関してはまったく笑いの要素が入り込む余地がない。もし、無理に笑える場面を作ったとしたら、全体のバランスが崩れて噺自体がガタガタになってしまうだろう。志らく師匠もまた、この『鼠穴』を殆ど真っ当に演じていた。完成されているネタに、余計なくすぐりはいらない。ミルクと砂糖を含まない純粋なブラックコーヒーの如く、苦みと渋みが合わさった熱演であった。『鉄拐』に納得できなかった人も、これには頷かざるを得なかったのではないだろうか。濃度の高い本編に対し、あっさりとしたオチだったのも良かった。だからこそ、中身がより浮き彫りになる。
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↑特典映像に談志による『鼠穴』を収録。師弟関係なのだから当然といえば当然だが、似ている。

終演後、ロビーでサイン会が行われるということで、並ぶ。熱演の直後ということで、かなり待たされるのではないかと覚悟していたのだが(兵動大樹のトークライブに行ったときにもすぐに列に並んだのだが、その時はそこそこ待たされた。無論、こちらも熱演の後だったので、納得の待ち時間である)、すぐさま現れたので、思わず「うわっ」と声が漏れた。以前の独演会で見たときの志らく師匠は、全身からエネルギーが溢れている様な印象を受けたのだが、今回は不思議と小じんまりとして、しかし味のある雰囲気を感じた。老成……とは少し違う。疲弊……でもない。例えるならば、赤々と燃え上がっていた炎が、青白く、しかし高温で静かに燃えているような、そういうイメージだろうか。事務的にサインを戴き、握手させてもらった。こういうブログをやっているのに、実際に当人を目の前にすると、どうもミーハーになっていけない。ろくに目も合わせず、サーッと立ち去ってしまった。もし、また対面する機会があるなら、「家元から『南極探検』は教わりましたか?」という、意図の分からない質問をしてみようと思う(聞いたところによると、立川流には『南極探検』が出来る人が何人かいるらしい)。

香盤表2011・11

来年も来てくれるなら、行こうと思う。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

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https://twitter.com/Sugaya03

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