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柳家喬太郎 寄席根多独演会

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(2011/11/30)
柳家喬太郎

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既にお気づきの方もいると思うが、完全に落語ブームである。世間ではなく、僕がそういうことになっている。みうらじゅんがいうところのマイブームというやつだ。世間ではどうなんだろう。その界隈では、少し以前から「落語ブームが来ている!」という話が盛り上がっている様だが、一般の人よりはお笑いの状況に詳しい程度の僕が見たところ、どうもブームと呼べるほどのことは起こっていないような気がしている。

ブームというのはもっと、世間がその事象に目を向けている状況を意味するのであって、今現在のそれは決してそこまで注目されている様には思えないのである。……とはいえ、以前に比べて、落語が注目されているのは事実らしい。如何せん、以前を知らないので全ては想像でしかないのだが。まあ、ショートネタブームという、回転寿司かハンバーガーショップかというような感覚でもって芸人のネタを観る、その短い時間だけで面白いだ面白くないだと判断する、などという下らない時代が過ぎ去って、ついでにお笑いブームも終わっちゃった今、ファーストフードに対抗して話題になりそうでならなかったスローフードのポストに落語が収まったのだと考えれば、理に適っているのかもしれない。

ただ、その割に、僕の周辺には落語を聴いている人があまりいないように思う。あくまで周辺の話なので、根拠もへったくれもないのだが、どうもそれほど話題にしている人はいない。これはどういうことなのか……と、考えた。その結果……という程に大層な話ではないのだが、やはり落語というジャンルに対する固定概念が強いのだろう。即ち、何故だか知らないけれど着物を着た老人が、江戸時代が舞台になっている物語を一人で説明する……という。いや、これこそがむしろ、こちら側にとっての固定概念なのかもしれない。だから、向こう側の人たちはこういう風に考えているから、落語を聴かない。聴こうとしないんだ、と。もうちょっと近寄ってみようか。落語を聴こうとしない理由。そもそも、落語を聴く楽しさというものを知らないから、分からないから、近付こうとしていないのではないか。その未知なる存在……という程に遠いわけでもないが、とにかく知らないものの楽しさが分からないから、触らないのだ、と。……なんて、落語歴一年と少しの人間がいうことじゃない。ひとまず、そういう印象である。ただ、そういうところはある、と思う。何にしてもそうだ。タバコや酒、その他ありとあらゆる嗜好品に踏み出す一歩というのは、意外と重たいものなのである。飛び越えてみれば簡単だ、どうってことはない。ただ、飛び越えたところで、何が得られるのかという話ではあるが……。その辺りの話は、奥田民生の『and I love car』に任せよう。大抵の嗜好品の必要性は、あれで説明される。好きなんだ、いいだろう……だ。

話を戻す。僕が落語を聴いている理由は、単純に面白いからである。しかし、この「面白いから」というのが、また厄介だ。どう面白いのか、ということを説明する必要がある。そんなの自分で聴いてみろ……というと、聴かない。これは僕に限った話なのかもしれないが、どうも他人から薦められるモノというのは、いざ実践しようとするとなかなか踏み出せないものだ。「アイツの好みとオレの好みが合うとは限らねェ」と思うんだろうなあ……悪い癖だ。心のどこかで他人を信用していないから、そういうことになる。つまり、逆にいえば、相手に信用してもらえるような薦め方をすれば、こちらも納得できる。無理矢理、何某を見るように抑えつけようとしたって、相手は警戒して手を出そうとしない。なんとなく面白そう、楽しそうな雰囲気を漂わせながら、だんだんとこちらに近づくようにして、食わせる。向こうは、ただ食ってると思う。こちらは食わせてる。なんだか、ある種の詐欺みたいだが、それが正解なんだろうな。

脱線が過ぎた。そろそろ本題に移る。

柳家喬太郎は、今最も面白い落語家の一人だといわれている。……“最も面白い落語家の一人”という表現がしっくりこないが、まあ気にしない。さて、どこが面白いのか。まず、腕がある。近年、個性豊かな落語家たちが次々に登場しているが、中でも純然たる落語家としての手腕を見せているのが、この喬太郎だ。洗練された仕草、喋りに加えて、全身から漂う気品。落語を聴かない人がイメージしている落語家をそのまま実物にしたような、確固たる落語家の姿をしている。しかし、その敷居は決して高くない。落語に詳しくない一般人でも、すんなりと世界に入り込める現代性があるからだ。その原因は、恐らく彼が新作落語の作り手であることと、単なる落語好きな社会人としていたことが大きい。だからこそ、喬太郎の落語は常にしっかりと現代を見据え、且つ、観客の視点を徹底的に意識して、決して現代人を置いてけぼりにしない。また、特撮マニアでとてつもないビール腹の持ち主という点も、落語家らしからぬチャームポイントである。

そんな喬太郎が満を持して、単独名義のDVDをリリースした。期待されているのか二枚同時リリースだが、収録されているネタが寄席向けの短いものばかりなので、ボリュームという点では些か物足りない。ただ、大ネタが皆無なので、落語初心者向けの内容になっているともいえる。そういえば、以前に喬太郎がリリースした古典落語のCDも、前座噺をメインとした短くてシンプルな内容になっていた。意図的に、初心者向けの演目をソフト化しているのかもしれない。それは別にいいのだが、せめてナンバリングの様なものを振ってもらいたかった。説明するとき、ややっこしくて仕方がない。CDショップで注文する人の身にもなってもらいたいものだ。ネタはそれぞれに三席ずつ収録されている。収録時間も似たり寄ったりで、どちらの方がお得ということはない。ただ、内容には少なからず差異がある。

前者(橙)の方は、本当に初心者向けに作られているとしか思えないような、分かりやすくてシンプルな三席が収録されている。なにせ、一席目が落語の中でも特にメジャーな『寿限無』なんだから、きっとそうなんだろう。個人的には二席目の『綿医者』がかなりの傑作。内臓がボロボロの患者に“はらわた”の代わりに“わた(綿)”を詰め込むというナンセンスな本編もたまらないが、とにかくマクラが物凄い。健康診断を受けたときの状況を、必要以上に細かく説明してくれている。やや、食事中の鑑賞は控えた方がいいような内容だが、不思議と下品さは無いところは流石というべきか。一方、後者(緑)はどうなのかというと、こちらはとにかく動き重視のラインナップ。タチの悪い親父に噛みつくチワワが強烈な新作『バイオレンスチワワ』からの、座布団の上で飛んだり跳ねたり大忙しの『反対俥』への流れは、本当に五十手前の親父がやってるのかと疑わしくなる程にアクロバットだ。……そういう意味では、間男が女の家に紙入れ(財布)を忘れてしまう『紙入れ』はちょっと大人しかったが。

正直、一回の公演を二枚のDVDに分けてしまうというコンセプトは不可解だが、その内容については殆ど文句がない。完璧と言い切るほどではないにしても、上出来である。他の落語家のDVDはあまり詳しくないが、落語初心者に自信を持ってオススメできる二枚である。……ただ、特典映像がないのは、ちょっと残念……。


・【橙】本編(64分)
『寿限無』『綿医者』『孫、帰る』

・【緑】本編(62分)
『バイオレンスチワワ』『反対俥』『紙入れ』
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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