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夢見るクズではいられない

『甲府い』という落語がある。

豆腐屋の店先で、卯の花を盗み食いしている若い男が捕まった。話を聞くと、男の名は善吉といい、甲府(今の山梨県)からやってきたという。善吉は幼い頃に両親を亡くし、伯父さんのところで厄介になっていたのだが、その恩を返したいと思いつき、江戸で商売を始めて、一人前の男になって帰ってこようと考えていた。しかし、身延山で願掛けをして、江戸に出てきたところをスリにあって無一文になり、空腹になっていたところで盗みを働いてしまったのだ。それを聞いた豆腐屋の主人は、これも何かの縁だと考え、善吉を店で働かせてやることにする……。


今でこそ、山梨から東京まで、電車で二~三時間程度しかかからないが、当時は大抵の移動が徒歩(駕籠や馬もあっただろうけど)。生まれ育った故郷を捨てて上京するには、並大抵じゃない覚悟が必要だったに違いない。それなのに、着いて早々にスリにあうとは、なんという運の無さか。落ち込んで、空腹から盗み食いをしてしまう気持ちも、分からなくはない。しかし、その一方で、この一連の行動からは、「江戸に対する漠然とした憧れ」が垣間見られる。ただ、伯父さんに恩を返したいというのであれば、別に甲府にいたままでも実行できる筈だ。むしろ、伯父さんに恩を返したいという大義名分の元に、善吉は甲府を捨てて、江戸へと飛び出したのではないか。……というのは、単なる妄想に過ぎないのかもしれないが……。

江戸から東京へと名称が変わった今でも、かの地に憧れを抱く地方者は少なくない。聞いたところによると、今や東京都の人口の半分以上は地方出身者であるそうだ。そこに行けば夢や希望が叶うかもしれない。そんな漠然としたガンダーラの様なイメージが、東京という街にはあるのだろう。

毎週土曜、深夜に放送されているバラエティ番組「オンバト+」。ゼロ年代お笑いブームの地盤を築いた「爆笑オンエアバトル」の後継であり、世間にはまだまだ知られていないような若手の芸人たちが、そのネタでもってしのぎを削り合う番組だ。先日、この番組で、キャプテン渡辺が漫談を披露していた。

キャプテン渡辺は、あるあるネタを得意とするピン芸人である。

一般的に「あるあるネタ」とは、芸人が提示するシチュエーションを観客自身の実体験と重ね合わせることによって、笑いを生み出す芸風という認識がある。だが、キャプテンのあるあるネタは、既存のあるあるネタとは一線を引いている。何故ならば、キャプテンのあるあるネタは、その対象を“クズ”に限定しているからだ。ここでいうクズとは、働きたくはないけれどもお金は欲しいという、人の業のカタマリの様な人間のことをいう。売れない時代が長かったキャプテンは、芸能界という巨大な山脈の地下でもぞもぞと蠢いているクズたちを、数多く目にしてきたのだろう。だからこそ、キャプテンが口にするクズあるあるは、なんともいえないリアリティに満ちている。

但し、「それは果たして前述の様なあるあるネタと同類なのか?」と問われると、返答し難い。クズたちの最大公約数を切り取って、ネタとして昇華するキャプテンの芸風は、単なる生態観察なのではないか、という見方も出来る。……ところが、これが面白いことに、キャプテンのあるあるネタは共感できるのである。というのも、「楽してお金を儲けたい」という、キャプテンがいうところのクズたちの願望は、誰しもの心の中にあるものだからだ。全ての人間は完璧に生きられない。だからこそ、キャプテンが語るクズたちの生き方に、観客は苦笑しながらも共感を覚えてしまうのだ。

その日、キャプテン渡辺が披露したのは、地方から東京へやってきたクズたちについてのあるあるネタだ。いつも通りに、堂々とした態度でネタを進行していくキャプテン。観客もまた、いつもと同様に笑い声を上げる。ところが、ネタが進むごとに、その“いつも”の中に、ほのかなメッセージが見え隠れしている。

ここから先は、キャプテンが披露していた漫談を、全て文字起こししたものである。通常ならば、こういう行為は芸人さんの営業妨害に繋がりかねないので、出来る限り避けているのだが、このネタに関しては、もっと多くの人の目に触れてもらいたいと考え、このような手段に出ることにした。無論、当人および関係者から苦情があった場合は、文字起こし部分を削除する所存である。
 

 漫談をするよ!
 えー、今日は、我々の様なダメ人間というか、クズの話をするよ!
 クズが、地方から夢見て、上京して来たときの話だよ!
 ちなみに僕は静岡出身で、静岡から芸人を夢見て上京して来たんだよ!

 我々は、上京するときに、
「よっしゃー、もう成功するまで絶対に帰らん!」
……みたいなことは言わないよ!
 毎年、正月はきっちり帰って、親からお小遣いを貰って、東京に戻るんだよ!

 クズの夢の追いかけ方には、二種類あるよ。
 一つは、上京して来たのに、バイトとか、合コンばっかりして遊んでいて、夢へのアクションを全然起こしていないタイプ。
 彼らは、合コンをしながら言うよ。
「俺やっぱり、軽はずみに動くのヤなんだよね。どうしたら自分が成功するか、じっくり考えていきたいからさあ。今はまだ動く時じゃない……」
 動く時じゃないヤツが何故上京してるんだっていう、話になってくるよ。
 それは動いたうちに入るんじゃないかってことだよ。
 このタイプは、口では夢をバンバン語って、結局動かず、五年くらいバイトだけして実家に帰るよ!
 もう一つは、夢へのアクションを起こしてはいるが、働くのが大嫌いで、親からの仕送りとか、パチンコを駆使して、一切バイトをせずに、
「だってお前、バイトしてる時間とか無駄じゃん! そんな時間があるんだったら、どんどんネタ考えた方がいいよ!」
とか言いながら、人がバイトをしている時間以上に、パチンコをしているタイプ!
 この二つに分かれるんだよ!
 この場合、バイトすらしていないタイプの方が、写真判定でクズだよ。
 ちなみに僕は、この二つの丁度真ん中のタイプだよ!
 中性的なクズなんだよ!

 次に、上京して、初めて一人暮らしをした時は、非常にテンションが高いから、家賃を払うことすら嬉しかったりするよ。
「自分の力で生きている……」と、感じるんだよ。
 でも、一年もすると、家賃を払うのが苦しくなって、家賃が憎たらしくて仕方なくなってくるよ!
 我々は、今では、家賃が諸悪の根源と考えているよ!
 間違いないものだよ!

 次に、我々は、若い頃の考えが、実に甘かったよ。
 僕は今、36歳なんだけど、まさか、まさか自分が36の時に、こんな状態(※自らを示しながら)になっているとは……20歳の時には夢にも思っていなかったよ。
 僕はもう、36歳の時には、広い花壇にミネラルウォーターで水をやるくらいの金持ちに、当然成っていると考えていたよ!
 でも、実際は、水道水を朝食と考えることがあるほど、お金がなかったりするよ!
 これは、いうなれば、ディズニーランドでミッキーマウスに会うつもりだったのに、バイト先の厨房でどぶねずみに会うようなものだよ!
 気をつけて!

 東京で、僕と同い年くらいの、同じようなクズの劇団員とか、怠け者の芸人とかと呑んでいると、激しい傷の舐め合いが始まるよ!
 彼らは言うよ。
「俺最近思うんだけどさあ。俺たち、若いうちに売れてなくて、良かったよ。だって、30代中盤くらいになって、見えてきたものとかいっぱいあるし、はっきりいって、俺たち若手は40を越えてからが勝負だよ!」
 ……違うよ?
 もう勝負は終わりかけているんだよ。
 むしろ、今までがずっと、勝負だったんだよ!

 では、最後に。
 えー、夢見て上京したクズの、格言を置いていくよ!
「親のスネをかじりまくり、返す刀で、バイト先のパートのおばはんのスネもかじる」!


ちなみに、この日の「オンバト+」の収録は、静岡で行われた。そして、後のトークで明らかになるのだが、観客の中にはキャプテン渡辺の両親も訪れていた。勿論、キャプテンはそのことを知っていただろう。その上で、このネタを披露したのである。

「むしろ、今までがずっと、勝負だったんだよ!」という叫びは、今、キャプテンが勝負に挑んでいることを証明している。今、彼と同じ境遇にいるクズたちは、そして、東京でくすぶっているクズたちは、はたまた、東京にすら行くことも出来ずに地方でくすぶっているクズたちは、このネタを観て、何を感じるだろうか。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

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https://twitter.com/Sugaya03

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