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「第九回玉藻寄席 昇太・花緑 二人会」(高松)

五月十八日、午後五時。

いつもなら会社で仕事の後片付けをしている時間に、私は高松市の菊地寛通りを闊歩していた。このところ、全国的に恵まれない天気が続いていたが、この日ははつらつとした晴天であった。……とはいえ、時刻は夕暮れ。太陽はゆっくりと西へ沈んでいき、辺りは橙色の光から闇へと包まれていく行程をゆっくりと進行させていた。

居酒屋や飲食店の間を縫う様に歩いていた私は、その空腹を満たすべく、以前から訪れてみたいという願望を抱いていたつけ麺屋へと足を運んでいた。インターネットサイトによると、開店時刻は午後五時。ぴったりのタイミングである。ところが、店の前まで来てみると、明らかにまだ開店していない。表の看板を確認すると、“午後六時半から開店”とある。……どうやら、チェックしていたサイトの情報が間違っていたらしい。残念だが、諦めなければならないだろう。気を取り直して、別の店へと向かう。そちらの店には、過去に何度か訪れたことがある。確証はないが、夕暮れ時に店を閉めているということはないだろう。店の前に行くと、“開店中”という看板が目に入った。ほっと胸を撫で下ろし、私はその扉をゆっくりと開いた。

この日、私は仕事を早退して、アルファあなぶきホールで行われる「第九回玉藻寄席 昇太・花緑 二人会」を鑑賞するために高松市を訪れていた。香川県の西ブロックにある小さな町で暮らしている私にとって、高松は決して遠い場所ではないが近い場所でもなかった。連休中でなければ行ってみようなどとは思えないほど遠くはないが、その日になんとなく訪れるほど近くはない。そういう場所である。まして一週間のド真ん中、純然たる平日に訪れるということなどは実に稀であった。開演時刻は午後六時半。私にとってはもはや馴染みの店といっても過言ではないラーメン屋“ドカ壱”において、私が650円のつけ麺を勢いよく啜っていたのは、午後五時半を回った頃。開演時刻まで一時間という絶妙なタイムスケジュールが、私の心を静かに締め付けていた。が、実際に私が愛車とともにアルファあなぶきホールのすぐ傍にある玉藻町駐車場へと到着したのは、それから僅か30分後のことであった。

今回の会場となっているのは、アルファあなぶきホールの小ホール。私が到着して、すぐさま開場となった。なんとなしに客層を確認してみるだけで、中年・老年層が圧倒的に多いことに気付かされる。「落語とは大衆芸能である」と多くの人間が口にしているが、地方ではまだまだお年を召された方の文化としての域を超えていないようだ。小ホール入り口の脇では、グッズ販売が行われていた。見ると、昇太・花緑の両師匠が過去にリリースしたCD・DVDの数々に加えて、昇太師匠が出版した『城歩きのススメ(サイン入り)』が販売されていた。サイン入り書籍は魅力的だが、如何せん書籍の内容に興味を覚えない。しばらく考え込んだ挙句、何も買わないという結論に至った。開演までに時間があったので、空いている椅子に座って入場時に受け取ったアンケートを記入する。「今後、玉藻寄席に呼んでもらいたい落語家さんを書いてください」という項目があったので、柳家喬太郎、春風亭一之輔、瀧川鯉昇、三遊亭圓丈、三遊亭白鳥、林家彦いちなどの名前を記入した。説明が遅れたが、「玉藻寄席」とはアルファあなぶきホールが主催する落語会の名称で、過去には、桂歌丸、春風亭小朝、立川志の輔、三遊亭小遊三、林家たい平などが出演していたことがある……らしい。ちなみに、私は昨年6月に、「第七回玉藻寄席 小遊三・たい平 二人会」を鑑賞している。たい平師匠は『紙屑屋』で、小遊三師匠は『替り目』を披露していた。

午後六時半、開演。

開口一番に登場したのは、もちろん前座さん。名前は瀧川鯉ちゃ。瀧川鯉昇師匠のお弟子さんである。ちょっとしたマクラを振ってから、ネタは『桃太郎』。我が子に「桃太郎」を聞かせて寝かしつけようとする父親に、当の息子がその意義について説明するという、両者の本来の立場が逆転するスタイルの落語である。前座さんにしてはなかなか上手で、違和感無く聴くことが出来たのだが、仕事を抜け出してきたことも手伝ってか、だんだんと夢見心地に。気が付くと、口演はすっかり終わってしまっていた。申し訳ないと思いながらも、でも前座さんだし……と言い訳している自分もいる。ひとまず反省。

続いての登場は、今回の主役の一人である柳家花緑師匠だ。マクラでは、丁度この落語会の前日が先代小さん師匠の命日だったことから、それに関するエピソードを幾つか。また、「開運!なんでも鑑定団」出張コーナーでレギュラー出演することになった経緯や、新幹線で美輪明宏と遭遇した話など、実に盛り沢山な内容。それらの話を受けて、「先代小さんが十八番としていたネタ」である『笠碁』を披露した。碁が下手だけども打つのは好きだという二人の老人が、ふとしたことから喧嘩を始めてしまい、そのまま仲違いしてしまう。しかし、なにせ下手なので、お互いにお互い以外の人間と碁を打つことが出来ない。とうとう我慢できなくなり、ある雨の日、片方がもう片方の家へと様子を見に行く……。殆ど老人二人しか登場しないネタなので、昨年40歳になられたばかりの花緑師匠に果たして上手く演じられるのだろうかと思っていたのだが、これが実に面白かった。『笠碁』に登場する二人の老人は、どちらも我儘で意固地で素直になれない性格だ。本当は碁が打ちたくて仕方がないのに、どちらもなかなか謝りに行こうとしない。その姿は、まるで小学生の男のコだ。花緑師匠は、そんな二人の子どもっぽい部分を強調して、彼らの無邪気で可愛らしい一面を楽しく表現していた。ただ、少し残念だったのは、オチを改変していたところ。決して悪くはないオチだったのだが、二人の無邪気さを最後まで保つという意味で、従来のオチで観てみたかった。ただ、二人の友情……という意味では、正しいオチだったのかもしれない。

柳家花緑1「朝日名人会」ライヴシリーズ53「七段目」「笠碁」柳家花緑1「朝日名人会」ライヴシリーズ53「七段目」「笠碁」
(2008/09/24)
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仲入りを挟んで、後半戦に突入。出囃とともに登場したのは、美しい和服姿の女性。名は、桧山うめ吉というらしい。美しい三味線の音色に合わせて小唄や都々逸などを披露し、最後には踊りも見せてくれた。後で調べてみたところ、彼女は「うめ吉」名義で何枚もCDをリリースしている俗曲師とのこと。華のある人だとは思っていたが、ここまでガッツリと活躍なさっている方だとは知らなかった。ネットに幾つか音源が落ちていたので聴いてみたら、これがなかなか良い。ベスト盤もリリースされているらしいので、いつか手を出すこともあるかもしれない。

ALL ABOUT UMEKICHIALL ABOUT UMEKICHI
(2010/07/21)
うめ吉

美しい歌声に心が洗われたところで、今回のもう一人の主役である春風亭昇太師匠の登場だ。高座に上がり、すぐさま口を開いたかと思うと、先のうめ吉さんが年齢不詳であるということをイジり倒し、プロゴルファーの石川遼が結婚したことについてイジり倒し、自身の独身に関するエピソードをイジり倒し……観客の洗われた心をすぐさま爆笑色に染めてしまう。流石の手腕だ。その一方で、“さぬきうどん”のことを“さぬきそば”といってしまう大失言もブッ放したり。流石だ! 流石は柳昇門下だ! ネタは十八番の『権助魚』。妾宅へと遊びに出掛けた旦那のアリバイ作りに、家へ帰る前に魚屋で魚を買っていくようにいわれた権助。ところが、権助は山育ちの田舎者なので、魚について完全に無知だ。そこで、とにかく「網打ち魚」を買いあさって、奥様に事情を説明するのだが……。『笠碁』の老人二人と同様、このネタの権助もまた子どもらしい魅力を放っているキャラクターだ。お金には貪欲だが、さほど執着はしない。楽しいことを、ただただ楽しいままに生きている。そんな権助が陽気にカンチガイを繰り広げていく様が、とにかく楽しい。それでいて、笑わせどころは決してキャラクターに頼らず、的確にビシバシときめていく。実に爽快だ。気が付くと、客席は会場全体をうねらせるかのような爆笑に沸き立っていた。なるほど、これが爆笑の渦か……。

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午後八時四十八分、終演。物販で『じゅげむ』のCDを購入する。

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(2003/10/22)
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今回の落語会と同様に、素晴らしいアルバムだと嬉しいな。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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