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落語の視点で読む『ドラえもん』 ~天災~

古典落語では、たびたび“付け焼刃”という言葉が登場する。

“付け焼刃”とは、にわかで覚えた知識のこと。鋼の焼き刃を付け足しただけの刀(付け焼刃)はすぐに切れなくなって使い物にならないことから、そう呼ばれるようになった。この“付け焼刃”を扱った古典落語は、数多く存在する。そば屋から一文せしめている男のやりかたをこっそり見ていた男が実践しようとして失敗する『時そば』、御隠居から人を褒める方法を教わり実践しようとして失敗する『子ほめ』、お世話になっている主人夫婦が見せた隠し言葉を自宅でも実践しようとして失敗する『青菜』、若い連中の博打を止めるために隠居の親分が見せた技を他所で実践しようとして失敗する『看板のピン』などなど……。

“付け焼刃”ネタの多くは、他人から教わったこと・他人がやっているのを見たこと、その姿をそのまま再現しようとして失敗する流れになっている。何故、付け焼刃は失敗するのか。その理由は、表面的な格好良さに気を取られるあまり、その背景にある広い知識・柔軟な思考に気付かないからだ。目の前にあることだけを拾い上げても、それは単なる猿芝居でしかなく、まさかの事態に対応することは出来ない。……とはいえ、安易に他人の格好良い姿を真似したいという気持ちは理解できる。もとい、共感できる。だからこそ、付け焼刃で失敗する人たちの姿は、滑稽に見えると同時に何処か親しさを感じてしまうのだろう。

短気で乱暴者の八五郎が主人公の『天災』も、付け焼刃ネタの一つだ。

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その喧嘩っ早さが故に、女房や実の母親にまで手を上げてしまう八五郎。その姿にほとほと呆れ返った町内の御隠居は、八五郎に心学の先生を紹介する。当初は先生の言うことに反抗していた八五郎だったが、少しずつ話に耳を傾けるようになり、最後は納得してしまう。「どんなに腹が立ったとしても、天災だと思って諦めてしまいなさい」という先生の言葉に深く感動した八五郎は、そのまま家へと帰る。すると、そこで近所の熊五郎が今の女房といるところを前の女房に踏み込まれて、大変な騒ぎが起きていたという話を耳にする。「なるほど、それならさっき先生から聞いた話を熊の野郎にもしてやろう!」と、八五郎は熊の元へと向かう……。

『ドラえもん』に、これら“付け焼刃”のくだりを導入に用いたエピソードがある。タイトルは【ジ~ンと感動する話】

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放課後の教室を覗きに来た先生は、そこでのび太を見つける。どうして帰らないのか話を聞いてみると、テストで0点を取ったから家に帰りたくないのだという。そんなのび太に対して、先生は励ましの説教をし始める。

先生「0点とったのはざんねんなことだが、すぎたことばかりくよくよしたってしかたがないだろう。目が前向きについてるのはなぜだと思う? 前へ前へと進むためだ! ふりかえらないで、つねにあすをめざしてがんばりなさい」


この言葉に「じいん」と感動したのび太。目に涙を浮かべつつ、そのまま真っ直ぐ家に帰る……かと思いきや、先生から聞いた言葉を他のみんなにも聞かせて、この感動を共感しようと試みる。しかし、まあ、わざわざ説明するまでもないと思うが、案の定、その試みは失敗に終わる。

のび太「すっごくいいはなしきかせよう。ジーンと感動するはなし」
しずか「えっ、どんなの」
のび太「目が前についてるのはなぜでしょう
しずか「きまってるわ、うしろについてたらかみのけがじゃまだもの」
女友達「ばかみたい」

のび太「目が前についてるのはなぜだ
スネ夫「じゅくへいくんだよ。なぞなぞなんかやってるひまはないっ」


のび太の言い方にも問題はあるけれど、「ばかみたい」はキツい!

ところが、それでものび太は挫けない。諦めない。友達にはちゃんと聞いてもらえなかった「じいん」とする話を、家に帰ってママにも話そうとするのである。先生から教わったように、彼の目は完全に明日しか見えていない! が、明日を見過ぎるあまり、目の前のママが見えていない。あからさまな地雷へと真っ直ぐ向かう戦車の様に、のび太はドツボへとハマっていく。

のび太「テストの答案をみせる前に話があります。なぜ目がついてるかというと…
のび太のママ「答案をみるためです。早くだしなさいっ!」
 (0点の答案を片手に説教するママ)
のび太「すぎたことふりかえるよりあすをめざして…」
のび太のママ「なんです、へりくつばっかり!」


……こうして見ると、落語の“付け焼刃”が笑えるのは、それをちゃんと構ってツッコミを入れてあげている人がいるからだということが、よく分かる。当人の意識しないところでボケ役となっているのび太と、そこにツッコミを入れるどころか、相手もせずに放置してしまう面々。これはのび太が可哀想過ぎる! ……まあ、のび太の説明が雑過ぎるという問題点もあるが(抜粋した台詞の太字部分だけを見ると、その雑さがよく分かる) かくして、のび太はドラえもんに救済を求め、吹き込んだ声を聞かせるだけで人を感動させられるジーンマイクなる道具を手に入れるのだが……それでいいのか、のび太よ。

ちなみに、ドラえもんの反応はこんな感じ。

のび太「あのね、目が前についてるのは前に進むためなんだよ
のび太「どう? 感動したかい?」
ドラえもん「?」「?」「?」


付け焼刃は剥げやすい、付け焼刃は鈍りやすい……。
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菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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