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落語の視点で読む『21エモン』

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(2010/08/25)
藤子・F・不二雄

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『21エモン』を読み返していると、こんな台詞が出てきた。

モンガー「落語じゃないか!」


『21エモン』の舞台は未来の地球、450年の歴史を誇るホテル“つづれ屋”の跡取り息子21エモンとその周辺の人たちの日常を描いた作品だ。しかし、21エモンには、宇宙を股にかけるパイロットになるという夢があった。この台詞は、その第一歩として月へとやってきた21エモンと仲間のモンガー・ゴンスケの三名が、『君にもできる宇宙無銭旅行』なる本を読んでいる最中に発せられたもの。

このモンガーの台詞の前には、こういうやりとりがあった。

21エモン「第一章、ロケットにただで乗る法」
モンガー「おっ、いいぞ!」
21エモン「パイロットになるべし……」
モンガー「落語じゃないか!」


これの元ネタは、古典落語『秘伝書』(『夜店風景』とも)。「1月に10円で食える法」「酒無くして酔える法」「あけっぱなしで寝ても泥棒が入らない方」などが書かれている秘伝書を売っていたので、これを買って読んでみると……という話である。やたらと景気の良い売り文句の裏には、まさかの真実が……という話は現代でもよく耳にする。そういった胡散臭い商売が存在し続ける限り、このネタは何度でも蘇ることが出来るだろう。

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(2002/06/21)
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こうなると、他にも落語的な要素があるんじゃないかと探したくなる。
 
ホテルつづれ屋で働いているロボットの名前は、ゴンスケとオナベ。この二人の名前は、実はどちらも落語ではお馴染みの名前である。ゴンスケは、落語では田舎者の飯炊きの名前だ。金に汚くて、無粋でイヤらしい人間として現れることが多い。落語の世界ではかなりの人気者で、『権助提灯』『権助魚』『権助芝居』など、演目にもしばしばその名が使われている。一方のオナベは、落語ではこれまた田舎者の女中の名前である。顔があんまり良くないが働き者なので、使用人として重宝されている。……が、その真面目さが故か、権助ほどは重宝されていない感がある。『仔猫』『持参金』などの演目に登場。

春風亭昇太1「権助魚」「御神酒徳利」-「朝日名人会」ライヴシリーズ29春風亭昇太1「権助魚」「御神酒徳利」-「朝日名人会」ライヴシリーズ29
(2005/05/18)
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名前でいえば、【ロケットを作ろう】というエピソードに登場する、21エモン一行が乗るためのロケットを作ってくれる少年の名前がジンゴローという。これは、落語にたびたび登場する名工、左甚五郎が元ネタ。甚五郎の作品には魂が宿っており、実際に動いたり、時には喋ったりもするという。一方、21エモンに登場するジンゴローは、実際にロケットを作ってはくれたものの……。ちなみに、左甚五郎は『ねずみ』『三井の大黒』などの演目に登場している。ただ、ジンゴローは左甚五郎とは違い、21エモンたちの注文を素直に受け入れてくれる。むしろ甚五郎の性質に近いのは、【ウキキの木】に登場するウキキの木。植物性の宇宙人で、超能力を使ってホテルの従業員にワガママし放題な様は、まさしく左甚五郎そのもの。このウキキの木、最終的には朝日を浴びて花を咲かせ、21エモンたちに大金を授ける。もしかしたら、ウキキの木の正体は、やはり左甚五郎が登場する『竹の水仙』なのかもしれない。

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(2001/05/23)
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それから、【久しぶりだね5エモンくん】に登場する宇宙人は、ジュゲム星のチョーキューメー氏。彼の名前は『寿限無』に登場する、長生きしてほしいという親の願いを受けて子どもにつけられた長ーい名前から来ている。どのくらい長いのかは、書くのが面倒なので書かない。

柳家喬太郎 名演集1 寿限無/子ほめ/松竹梅柳家喬太郎 名演集1 寿限無/子ほめ/松竹梅
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続いて、ストーリーから。

【銀河の間へごあんない】より。ミリオネヤ星からやってきたという人物がホテルつづれ屋にやってきた。

ママ「まあ、ミリオネヤ星から! 遠いところをようこそ」
ミリオネヤ星の客「なにね、金があまってしようがないから、使いにきたんよ。ぼかァ、星を1ダースばかり持ってる大地主でね」
パパ「へえ~!」
ミリオネヤ星の客「今度の旅行のみやげに、火星か水星を買っていこうと思っとるんよ」
パパ「へ~ええ!」


とてつもなく景気の良い話をするが、これは実は全部ウソ。彼……もとい、彼ら(12人がくっついて1人に化けていた)は本当は貧乏旅行中であった。しかし、高い料理を注文してしまったため、予算オーバーに(ちなみに、この時彼らが食べた料理の一つが“アバラカベッソン”というが、これは名人と呼ばれた八代目桂文楽の造語)。

ミリオネヤ星の客A「さいわい大金だといってカバンをあずけてあるから、ホテルのおやじは信用してるはずだ。だから夜中に……」
ミリオネヤ星の客B「こっそりにげるか!」


金を持たない人間が金持ちのふりをして宿に泊まるというシチュエーションは、『宿屋の富』とと同じもの。最終的に大金を手にするという展開も似ている(21エモンではダイヤだが)。しかし、ミリオネヤ星から来た客たちは、そのことに気付かずホテルから逃亡。21エモンとモンガーの二人は彼らが乗り込んだロケットに飛び込んで、ようやくそのうちの一人を発見する。ミリオネヤ星から来た客は、ロケットに乗り込んだもののお金が無く、従業員として働いていた。

21エモン「このダイヤがあれば、ロケットを借りきって、宇宙のすみずみまで旅行できます」
ミリオネヤ星の客「それは一度きみにやったものだから、うけとれないといったろう」
21エモン「でもパパは、こんなものもらういわれがないっておこるんだよ」
ミリオネヤ星の客「それはそっちのかってだ。ぼくはうけとらないといったらうけとらん!」
21エモン「わからずや!」


せっかく持ってきたお金を受け取らないがために言い争いが起こる、この展開は『三方一両損』と同じ。『三方一両損』では、拾った財布を届けに行けば、「財布は受け取るが中身はいらねえ!」と言われたことからケンカになる。江戸っ子の見栄というか意地というか、とにかくそういう理念があるのだろう。実に立派である。これがもしゴンスケであれば、間違いなく受け取っていたことだろう。

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ここからは細かいところを探っていこう。

【ばかさわぎの森】に登場する、大声を出されると眠れない敏感な客は、恐らく『宿屋の仇討』から。

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【ノロノロ・チャカチャカ】に登場する、せっかちな客とのんびりした客は『長短』から。

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【星ゴロたち】で無一文の21エモン一行が飛び込んだホテルが偶然にも親戚だった、という展開は『九州吹き戻し』……って、これはちょっとこじつけっぽい。

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【宇宙オリンピック】でゴンスケがついた嘘が大袈裟になっていく様は、『御神酒徳利』を思い出す。

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【イモかロケットか】で大金を手にしたゴンスケのことが気がかりでしょうがないパパが「いっそのことドロボーにでもとられちまえ」とボヤくくだりは、『水屋の富』……って、いよいよ細かくなってきた。

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ふと、落ち着いて考えてみる。ホテルを仕切るパパは大旦那で、ママは女将さん。主人公の21エモンは親を心配させている若旦那で、モンガーはそんな若旦那と意気投合する小僧さん。そこにゴンスケもオナベもいる。『21エモン』が、想像上の未来という現代から隔絶された世界を舞台にしているにも関わらず、常に一般庶民の視点から逸脱していないのは、そんな落語の空気が作中に息づいているからなのかもしれない。

ところで、21エモンの未来が現実になっても、そこに落語は生きているだろうか?
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

Twitterアカウント
https://twitter.com/Sugaya03

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