『わびれもの』(小坂俊史)
わびれもの (バンブー・コミックス MOMO SELECTION) (2010/05/27) 小坂 俊史 商品詳細を見る |
1974年5月生まれで40歳を目前に控えているにもかかわらず、竹書房の策略によって“4コマ王子”などという恥ずかしいキャッチコピーをつけられている漫画家、小坂俊史のエッセイコミック。てっきり4コマ形式の作品なんだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみると(もとい頁を開いてみると)ごくフツーのエッセイコミックでちょっと驚いた。もとい、ガッカリした。というのも、本書を購入しようと思い立った理由が、氏の傑作4コマ漫画『中央モノローグ線』に感銘を受けたからで、きっと本作もあの独特の寂しさと面白さを漂わせた4コマ漫画になっているのだろうと期待していたからだ。しかしまあ、いざ読み始めてみると、ちゃんと『中央モノローグ線』のトーンが反映された内容になっていたので安心した。
(余談だが、某巨大掲示板の某スレッドで4コマ漫画について話題になった際に、小坂氏の発言と『中央モノローグ線』を茶化すような切り取り方をしたコピペブログが大量発生していたが、ろくに作品を読みもしないでこき下ろすような真似をして、そのくせ、そういった作品でアフィリエイトを稼ごうなどという不届きなブログはとっとと潰れちまえばいいと思う)
『わびれもの』は、小坂俊史が実際に訪れた“わび+さびれ”な場所・体験した“わび+さびれ”な出来事について紹介している作品だ。一応、単行本の説明文によると、本作は旅エッセイのジャンルに含まれるらしいのだが、小坂が客観的視点で現地の状況を分析・解説する様は、むしろルポルタージュに近い印象を受ける。とはいえ、それぞれの場所に対する個人的な思い入れの強さが作品を通して伝わって来るので、やはりエッセイということにした方が良いのかもしれない。本作の連載以前から、そもそも寂れたモノに強く惹かれていたという小坂は、一般人であれば見逃してしまいそうな微細な要素をきちんと捉えていて、しかし、それでいて、決してそこに深入りしようとしない。実に絶妙な距離感を保っている。この感覚、何かに似ているなあ……と思っていたら、作中で小坂が『孤独のグルメ』について語っている場面があって、合点がいった。そうだそうだ、この感じはゴローちゃんに似てるんだ(ドラマ版じゃなくて漫画版の)。
本書で小坂が訪れている場所は、まさしく多種多様。北は北海道の宗谷岬、南は九州の西大山駅まで、えっちらおっちら移動している(沖縄にはまだ行ったことがないらしい)。もそっと具体的に名前を挙げていくと、「相模湖 にぎわいの広場(平日)」「足尾銅山」「ブルートレイン」「ロッテ二軍球場」「キリストの墓」「中野ブロードウェイ(4階)」などなど……。途中からは、わびれものを見に行くというよりも、ただ単純にネタを探してさまよっているだけの様ではあったが、それでもなかなか面白かった。個人的には、ロッテ二軍球場の裏側を見てしまったくだりに、ちょっと胸をつかれるような思いがした。お笑い芸人の世界にも、きっと同じ様なことがあると思うから……。
スポンサーサイト