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『トツギーノ』解体新書

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(2006/07/26)
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『R-1ぐらんぷり2006』放送直後、興奮冷めやらぬ当時の私は、当時運営していたブログ「NOT FOUND~見つかりません」において、バカリズムのネタ『トツギーノ』をまるまる扱った記事を掲載した。当該記事では『トツギーノ』の全行程をテキスト化、その構成から「シュール」という言葉で片付けられがちなネタの笑いどころを分析、可視化しようと試みたのである。結果として、記事にはそれなりの反応があった。アクセス数も伸びたように記憶している。

しかし、当時の分析には、今の私から見れば稚拙に思える部分が少なからず見受けられた。無論、今の私がやっていることが、何処に出しても恥ずかしくない最高峰のお笑い評などという厚顔無恥な考えを起こしてはいない。だが、人間は成長するものであるべきだし、また、時と場合に対応して考えを変える生き物だ。当時から七年が経過して、私もそれなりにネタを観る目を養ったという自覚はある(単なる勘違いなのかもしれないが)。そこで今回は、当時の記事のフォーマットを再利用して、改めてバカリズムの『トツギーノ』について解説しようと思う。まあ、とどのつまりが、他にやることが見つからないから、いっちょ昔の記事をリサイクルしてしまおうという安直なことを考えてしまったわけである。

なお、記事で引用しているのは、『R-1ぐらんぷり2006』においてバカリズムが披露した『トツギーノ』であるため、後に彼がリリースした『宇宙時代 特大号』に収録されている『トツギーノ』とは内容が違う可能性がある(未確認)。また、以下の解説において、やはり『トツギーノ』の全行程をネタバレしているので、読まれる際は注意していただきたい。そもそも『トツギーノ』を知らないという方は、こちらの動画をどうぞ。……便利な時代になったもんだ。
 
当該記事では触れていないが、確か、ネタ本編に入る前に「トツギーノ」というタイトルが提示された記憶がある。当時の私はあまり気にならなかったのかもしれない。だが、初めに「トツギーノ」という馴染みのない言葉が提示されることで、観客の意識の中には不安が生じた筈だ。果たして、「トツギーノ」という言葉は、何を意味しているのか。そんな疑念を抱かせた状態で、バカリズムのネタ『トツギーノ』は始まる。

「朝起きーの」

「トイレ行きーの」

「歯ぁ磨きーの」

「着替えーの」

「時計見ぃーの」

「焦りーの」※時計を見ながら焦っている女性の絵

「家を出ぇーの」

「トツギーノ」


まずは『トツギーノ』の基本形である。出掛けようとしている女性がいきなり嫁いでしまう、その唐突な展開に笑いが生まれる。とはいえ、その流れに違和感は無い。展開はあまりにも唐突ではあるが、女性にとっては「嫁ぐ日の朝」だったのではないかと考えられる余白がある。つまり、この時点では、あくまでも「唐突さ」が焦点となっているわけだ。しかし、「トツギーノ」の意味がはっきりとした安心感から、客の笑いは通常よりも大きいものとなる。

「風邪引きーの」

「医者行きーの」

「受付済ませーの」

「待ちーの」

「名前呼ばれーの」

「トツギーノ」


先の基本形を少し煮詰めた進展形。舞台を病院の待合室にすることで、先の流れでは控えめになっていた違和感が強調され、より唐突な印象を与える展開になっている。オチのきっかけが、先の展開が読めない「家を出ぇーの」から、後の展開が予測できる「名前呼ばれーの」に変わることで、より裏切りの色合いを強めているのも絶妙(「家を出る→嫁ぐ」の流れは自然だが、「病院の待合室で名前を呼ばれる→嫁ぐ」の流れは不自然)。とはいえ、展開そのものはまだ破綻していない。

「ある日森の中ぁーの」

「熊さんに出会いーの」

「花咲く森の道ぃーの」

「熊さんに出会いーの」

「熊さんの言うことにゃーの」

「トツギーノ」


ここで展開が大きく変化。これまでの流れを無視し、童謡『森のくまさん』をモチーフとした新しい展開が提示される。これにより、先の二つの展開から「ある状況を全て強引に「トツギーノ」で落としてしまうネタ」と想定していたであろう観客の意識をスパッと裏切る。また、どうして『森のくまさん』を選曲したのかという、ある種の不条理さも。オチは先の二つと同様に唐突だが、シチュエーションの特異性が面白味を底上げしている。『森のくまさん』の世界を味のあるタッチでイラスト化することで、目で見て楽しめる笑いにしている点も大きい。普通の格好で熊が出るような森の中を歩く女性って……。

「豪華客船乗りーの」

「貧乏な画家に出会いーの」

「先端立たされーの」

「船座礁しーの」

「船沈みーの」

「画家沈みーの」

「トツギーノ」


『森のくまさん』の進展形。しかし、歌詞をそのまま『トツギーノ』の世界に取り込んでいた『森のくまさん』に対し、ここでは名作と名高い洋画『タイタニック』のシーンを彷彿とする言葉をはめ込むことで、言語のニュアンスによる面白さを強調している。また、超がつくほどに有名なシーンを「先端立たされーの」、最も盛り上がるシーンを「船沈みーの」、愛する恋人との悲しい別れのシーンを「画家沈みーの」の一言で片付けてしまう冷酷さもたまらない。今でこそ“悪童”ぶりをアチコチで見せているバカリズムだが、この時点で、既にその片鱗は見せていたといえるのかもしれない。

「助走つけーの」

「トツギーノ」


一つ一つの展開に時間をかける流れが出来始めていたところで、極端に短いネタを投入。観客の意識を整えつつ、続く新しい展開に備えてのアクセントになっている。

「太りーの」

「激太りーの」

「激髪伸びーの」

「トツギーノ」


これまでの『トツギーノ』は全てシチュエーションに変化を加えたものだったが、ここではネタの主役ともいえる女性キャラクター自身に変化が生じている。太って、髪が伸びる様子をイラストで表現、その極端な変化で笑いを生み出した。また、それまでの「トツギーノ」時のイラストに、変化を加えている点も見逃せない。ここで女性に大きな変化を加えることで、それらのイラストがフリとなる。

「お前を嫁にーの」※さだまさしの絵(右側)

「貰う前にーの」※さだまさしの絵(よりアップ)

「トツギーノ」※さだまさしの絵(文金高島田)


『関白宣言』でトツギーノ。文字だけを読むと、『森のくまさん』のくだりとさして変わらないように感じられるが、イラストが女性ではなくさだまさしで統一されている点に注目。また、歌詞の流れも唐突だ。嫁いでいる最中にも関わらず「トツギーノ」とは、これ如何に? 『森のくまさん』の版権ネタに『太りーの』のイラストの面白さを加え、更にそれまでかろうじて保たれていた流れの均衡をもブチ壊す。だんだんと近付いてくるさだまさしのイラストも、不条理でどことなく狂気的だ。この瞬間、『トツギーノ』は何が起きてもおかしくない無双状態に突入する。

「お前を嫁にーの」※さだまさしの絵(左側)

「貰う前にーの」※さだまさしの絵(よりアップ)

「ジョルジーニョ」※ジョルジーニョの絵

「ジョルジーニョ」※ジョルジーニョの絵(更にアップ)

「トツギーノ」※ジョルジーニョの絵(文金高島田)

「終わりーの」


二回連続登板のさだまさしから先の流れを彷彿とさせておきつつも「ジョルジーニョ」というダジャレを繰り出すという唐突な裏切り、しかし、その後は先の流れに沿ってオチとなる「トツギーノ」へと平和的な着地を迎える。……と、一見すると何の意味も無いように見えるネタにも、きちんと笑いが生まれる公式が反映されているということが、これで少しは分かったのではないかと思われる。分からなかったという人は、まあ、それはごめんなさい。どっちみち、究極的にいえば芸人のネタなんて、好み次第でどうとでもいえるのだ。ただ、それを突きつめているか、突き詰めていないか、これは誰が見たって分かる。バカリズムの『トツギーノ』、当時としては面白かった。突き詰めていた。でも、今のバカリズムの方が、ずっとずっと自由で面白い。『トツギーノ』は完成されている分、型にはまっているともいえるし。昔より今がいいとはっきりいえる、こんな素敵なことはない。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

Twitterアカウント
https://twitter.com/Sugaya03

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