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落語CDムック『立川談志 1「芝浜」「源平盛衰記」』

落語CDムック立川談志 1 (Bamboo Mook)落語CDムック立川談志 1 (Bamboo Mook)
(2010/12/15)
立川談志、川戸貞吉 他

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【芝浜】(1982年12月9日収録)
幼い頃の私は、大晦日をたまらなく愛していた。それは決して、年が明けて正月になると、両親や祖父母、或いは素晴らしき御親戚一同からお年玉という名のお小遣いが戴けたからではない。私は年末に漂っている緊張感が、好きで好きで仕方がなかったのである。全校生徒が見ている前で体育館のステージに立つ時の緊張感とも、コンクールに投稿しようと考えている自作の小説の最初の一文を原稿用紙に書き込んだ時の緊張感とも違う、世界中の空気が一緒になってピンと張り詰めているような感覚。その、普段はあまり味わうことの出来ない緊張感が、私は大好きだった。当時、幼かった頃の私には、その緊張感がどうして生み出されるのかがよく分からなかったが、大人になってみて、なんとなくその理由が分かった。あれは、今年一年という年が、静かに息を引き取ろうとしている、臨終によって生じる緊張なのである。今年を粛々と見送り、新年を盛大に迎え入れる。その準備をしなくてはならない最終日の緊張なのである。

古典落語『芝浜』の主な舞台は大晦日だ。普段から酒ばかり飲んでいて、ろくに商いに出ようとしない魚勝という男がいるのだが、このままじゃ飯が食えないと女房にせがまれて、ある日の朝、仕方なしに芝の河岸へ出かける。ところが、間抜けにも女房が起こす時間を間違えたようで、河岸の問屋が開いてない。腹ぁ立てるも、しょうがねぇ……と、芝の浜に下りて、海の水で顔を洗ったりなんぞしていると、そこで汚い財布を発見する。なんとなしに取って中身を確認すると、これが四十二両という大金。慌てて家に戻って女房に見せつけ、これからはもう死ぬまで遊んで暮らせるぞーっと、ニコニコしながら昨夜の酒を……。明けて、朝。女房の声で目を覚ました魚勝は、商いに行っておくれよとせがまれる。何ィ言ってやがる、ウチには四十二両という大金が……何ィ? あれは夢だとォ? 女房が言うには昨日、魚勝はお昼ごろに目を覚ましたかと思うと友達連中を連れて来て、めでてぇめでてぇと酒に肴にドンチャン騒ぎ、そのまま寝ちまって今に至るという。つ、つまり、財布を拾ったってのは夢で、飲んだり食ったりしたのは本当? この一件で深く反省をした魚勝、酒とはスッパリと縁を切り、どうにかこうにか商いをイチからやり直し……三年目の大晦日……。

談志の『芝浜』には、私が愛したあの大晦日の空気が充満している。何もかもが片付いて、新年を迎える体勢になっている魚勝と女房の会話には、それでも年末の緊張感がそこはかとなく漂ってくる。具体的に書くと、状況はすっかり落ち着いているにも関わらず、なんだか口数が多くなって、なんだか忙しない。この気持ちの落ち着かなさこそ、年末のあの緊張感なのである。そして、その流れから、女房が魚勝に漏らしてしまう告白。この告白の場面こそが『芝浜』の醍醐味であるとされているが、私は、むしろその前段階である年末の空気を愛したい。……女房よりも空気に執着してしまう、そういうところが私のモテない原因なのだろうか?

【源平盛衰記】(1982年6月18日収録)
源平の戦いといえば、まず思い出されるのは手塚治虫の『弁慶』である。文字通り、源義経の忠実な家来として知られる武蔵坊弁慶の人生を、ギャグを散りばめて描いた作品だ。当時、角川文庫から、『ロストワールド』『来たるべき世界』『メトロポリス』などに代表される手塚治虫の初期作品シリーズが発売されていて、私はそれらを収集していたのだが、その中の一冊『平原太平記』に本作が収録されていたのである。なにせ中学生くらいの頃の話なので、具体的な内容についてはまったく覚えていないのだが、とにかく面白く読んだことだけは覚えている。歴史的史実という大黒柱がしっかりとしているから、無茶苦茶なギャグをブチ込んでも、ストーリーが揺らがない。安心して、楽しく読める傑作だった。

『源平盛衰記』は地噺形式の古典落語である。地噺とは、登場人物同士の会話ではなく、主に落語家自身の語りによって構築されているネタのことだ。『源平盛衰記』以外にも、『お血脈』『目黒のさんま』『紀州』『たがや』などのネタが地噺とされている。この『源平盛衰記』のシステムは、この『弁慶』とまったく同じと言っていい。いや、もしかしたら、手塚治虫も『源平盛衰記』に着想を得て『弁慶』を描いたのかもしれない。何の根拠もないけれど、時代の重なりといい、ギャグを放り込むタイミングといい、実によく似ている。閑話休題。『弁慶』が武蔵坊弁慶の物語であるように、『源平盛衰記』は『平家物語』をモチーフに源平の合戦について描いている。但し、談志の源平は吉川英治『新平家物語』をモチーフとしているため、既存の『源平盛衰記』とは根本から違っている。……どうも、こういうストーリー性の無い演目を取り上げると、解説がどうも堅苦しくなるな。とりあえず客観的事実で外堀を固めてみたが、果たしてここまで付いてきてくれているのかしらん……?

『源平盛衰記』は自由度の高いネタなので、オリジナルギャグを幾らでも放り込むことが出来る。つまり、演者のセンスが大きく反映されている。そして談志の『源平盛衰記』、大変に面白い。考えてみれば、そもそも落語については人一倍分析していて、しかも各ジャンルのエンターテインメントに対して興味本位に突き進んでいくタイプの談志、そりゃ面白くなって当然だ。語りの部分も味わい深く、故に不意のギャグがたまらない。時事ネタも多いが、それを超越することも多い。あんまりウケていないけれど、セントルイスブルースのくだりなんか笑わずにいられない……。理解できなかったとしても、この流暢な良い立てだけでも惚れ惚れすること間違いなし。とにかく、この凄さは聴けば分かる。分からないなら、しょうがない。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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