■『英会話』(01年2月20日/15分14秒)
隣の家の子は母親のことをママと呼ぶらしい。これからの子どもは英語が使えるようにならないといけない、丁度我が子が家に帰って来たから英語で呼んでみよう……。テキトーな英語が次から次へと流れるように繰り出される珍妙な新作落語。「優雅な洋服をドレッシング」「ワンピース、ツーピース、ロングピース」「人間にはマンがつくというなら、酒屋さんはキッコーマン?」など、実にバカバカしいボケが飛び交っている。そのシチュエーションやネタのセンスから、戦後に作られた演目であることは想像に難くないが、それでも笑ってしまうのは寿輔師匠の手腕が故か。ただ、ネタそのものよりも、マクラのインパクトの方が衝撃的。ねっとりとした口調で語られる自虐ネタは、しかし絶妙な軽さがあって、なんともいえない面白味を帯びていた。
■『猫と金魚』(03年3月30日/16分44秒)
「のらくろ」の作者として知られる田河水泡が手掛けた新作落語。隣の家の猫に金魚を食べられてしまった。新しく金魚を買ってきたはいいが、また食べられないようにしなくては……。「殆どの人は努力なんてしてもしなくても同じなんですよぅ~!」というマクラがなんとも凄い。こういう的を射た皮肉がグサッと胸に突き刺さりながらも、なんだか妙に笑えるから不思議だ。そういう空気を作り出してしまえる力量があるということか。肝心のネタも軽いリズムで面白いが、ところどころに冷ややかな要素も含有。「(金魚が)死んでも眺めることは出来るでしょ?」なんて、なかなか凄味があっていい毒であった。
■『地獄巡り』(02年9月30日/15分01秒)
桂米朝が演じる上方落語の大ネタ『地獄八景亡者戯』を演出し直した一席。亡者たちが初めてやって来た地獄で得る様々な発見を、小ネタ時事ネタ流行ネタを散りばめて展開している。地獄のホテル、地獄の有名人ショップ、地獄の歌舞伎に落語などと、地獄ネタならなんでもござれ。先の二席の様に、寿輔師匠ならではの軽さと毒舌は楽しめないが(その両方の要素がネタの根源に植えられているネタなので、入る余地が無かったのかもしれない)、原点である『地獄八景亡者戯』の空気をしっかりと残した一品に仕上がっている。ただ、個人的には、もうちょっと欲しかった気も。せめて、あと5分。
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