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アルコ&ピース『博愛』

博愛 [DVD]博愛 [DVD]
(2013/08/21)
平子 祐希(アルコ&ピース)、酒井 健太(アルコ&ピース) 他

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漫才は嘘で出来ている。

漫才の冒頭で「○○な人を見かけた」という話を持ちかけてコントに突入することがあるが、そんな人は実際に存在しない。「○○になりたい」と話し始めることもあるが、芸人として売れたいと思っている彼らがそんな夢を抱くわけがない。そもそも、その場で思いついたように話を進めていくこと自体、まったくの嘘である。漫才の多くは、そのやりとりに台本があり、舞台にかけられるまで何度も練習を積み重ね、きちんと完成した形のモノが披露されている。それらは全て虚構、作り話だ。

念のために言っておくが、漫才が嘘だということを批判したいわけではない。それは、手品が嘘だということ、漫画が嘘だということ、映画が嘘だということを批判するくらいにバカげた行為である。だが、それが作られた嘘である以上、どうしても現実との差異による違和感が生じてしまうのも事実だ(この違和感を逆手に取って、冒頭から「結婚詐欺師になりたい」と堂々と言ってのけたおぎやはぎは実に戦略的である)。

ただ、漫才で演じられていることの全てが、完全に嘘だとは限らない。例えば、『M-1グランプリ2005』チャンピオン、ブラックマヨネーズの漫才は極度の心配性だという吉田敬の性格を色濃く反映している。『M-1グランプリ2008』での活躍が今でも思い出されるオードリーの漫才も、それまでツッコミを担当していた春日俊彰のズレたところに着目してイチから再構築されたものだ。それらのネタには、作られた漫才の面白さを超越した、圧倒的な説得力が根底にある。

かつて、放送作家の高田文夫は、ツービート(もといビートたけし)の登場によって漫才がドキュメントになったと語ったことがあった。彼らが登場する以前の漫才は、漫才作家と呼ばれる人たちがネタを書き、それを漫才師が演じていた。ところが、たけしは舞台に上がる前にやっていた雑談を、そのまま漫才として披露していたのだという。その瞬間から、漫才師は自分自身の言葉で、漫才を語るようになったのだ。演者が面白ければ台本は必要無い、と高田は語る。ブラックマヨネーズやオードリーの登場は、そんな漫才のノンフィクション性の一つの進化(深化?)といえるのかもしれない。

アルコ&ピースの『忍者』も、そんな流れの中で生じた漫才である。

アルコ&ピースの『忍者』は、『THE MANZAI 2012』決勝戦のステージで披露された。その内容は、「忍者になって巻物を獲りに行きたい」と漫才をセオリーの通りに始めようとする酒井健太に対して、それを真に受けた平子祐希が「じゃあ、お笑い辞めろよ……」と真面目に説教を始める……というものだ。

一見すると、それは普通の漫才を始めようとしている酒井(ないし普通の漫才が始まるだろうと思っていた観客)と、漫才を始めるための嘘の提案を真に受けた平子のズレた認識を描いている漫才に見える。だが、ここで重要なのは、勘違いした上で発せられる平子の発言だ。「今、俺ら、どういう時期だよ?」「後輩たちがどんどん先に売れて、俺らその背中見ながら「チクショウ、次こそは自分たちが!」って、そういう気持ちで毎日臨んでんだよ!」「みんな本気で勝ちに来てんだよ!」……これらの言葉に、嘘は感じられない。何故なら、平子の言っていることは全て、彼ら自身の状況と正しく合致しているからだ。そして、平子の言葉が真剣になればなるほど両者のズレがどんどん広がっていき、それに比例して漫才もどんどん面白味を増していく。

ブラックマヨネーズやオードリーが自身の気質を漫才に反映していたのに対し、アルコ&ピースの『忍者』は「売れない若手芸人の叫び」ともいうべき真摯なメッセージを上手く工夫してネタの中に練り込んでいる。結果、その叫びが説得力となり、笑いへと昇華されているわけだ。実によく考えられている。

とはいえ、彼らの場合、そう見られることを前提にしてネタを作っていた可能性も否めない。若手芸人である自らの状況を客観的に捉え、観客が無意識に望んでいる「売れない若手芸人の叫び」を意識的に組み込んだのではないだろうか。前作『東京スケッチ』でも、自身のネタに対して自己言及を行うという視点を見せていた彼らである。その可能性は十二分に考えられる。だとすると……アルコ&ピースというコンビはとてつもなくシニカルな視点を持ったコンビであると言えるだろう。

この『忍者』を含めた、アルコ&ピースの代表的なネタを収録したDVD『博愛』が、先日リリースされた。平子の恋人が欲しがっている“ドルチェ&ガッバーナ”が何なのか分からない二人がひたすら妄想を繰り広げる『サプライズプレゼント』、怪しげな雰囲気の呼び込みに誘われて酒井が入ったお店の正体は……『呼び込み』、体内に入った精子が卵子の元へ向かう様子を人間に置き換えて描いた『受精』など、収録されているネタの多くは(シチュエーションのクセはあれど)ネタとして実にシンプルな内容になっている。しかし中には、彼らのお笑いに対する様々な思惑を匂わせるネタも幾つか。とりわけ、無知でおバカな酒井に平子があることを一生懸命に教えようとする『円弧』は、アルコ&ピースのあることに対する気持ちが大いに反映されているようで、色んな意味で面白かった。彼らと同様に、あることに対して独特の感情を抱いているジャルジャルがこのネタを観たら、けっこう本気で悔しがるのではないだろうか。

今、アルコ&ピースは売れかけている。『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0』ではパーソナリティを担当、『笑っていいとも』に週替わりではあるもののレギュラーとして出演、最近では念願の『キングオブコント2013』決勝進出が決定した。今後、彼らの状況は、大きく変化していくだろう。それに伴って、コントの傾向も大きく変わっていくことが予想される。それでも、いつまでもこのシャープな視点を失うことなく、彼らにはコントを作り続けてもらいたい。そのシニカルな目で生み出されたコントで、いつまでも意地悪な我々を楽しませてもらいたい。そんなことを、意地悪く願う。


■本編(59分)
「忍者」「OB」「サプライズプレゼント」「円弧」「呼び込み」「虫の声」「受精」「天使と悪魔」「タイムマシン」「じいちゃん」

■特典映像(21分)
「情欲大陸」
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
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