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『二度寝で番茶』(木皿泉)

二度寝で番茶 (双葉文庫)二度寝で番茶 (双葉文庫)
(2013/09/12)
木皿 泉

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以前、とあるサイトで、荻上直子と木皿泉を勘違いしているコメントを目にしたことがある。確かに、両者の世界観はなんとなく似ている気がする。日常的なのに何処か現実感が無いような雰囲気と、そこに居る人々のちょっとコミカルな生活風景。ただ、まったりとした空気の中、まるで生活感の無い日常をタラタラと描いている荻上直子の作品に対し、木皿泉の作品には常に痛みが伴っている。柔らかくて、居心地が良くて、でもそこには人の心を揺さぶるような痛みがある。それが魅力でもあり、恐ろしくもある。……そんなことを思いながら『二度寝で番茶』を読んでいたら、まさに木皿泉自身が荻上直子の『かもめ食堂』に言及するくだりがあったので、一部抜粋する。

かっぱ「今、微妙に暴力の定義が変わってきていると思いませんか? やまだないとさんの『ハルヒマヒネマ』という映画評を読んでいて、私、なるほどと思いました。『かもめ食堂』という映画のことが書かれていて、これは日本人女性がフィンランドに食堂を開くという話なんですけど、この食堂のあり方が、とても暴力的だというんです。つまり、何を食べさせる店なのか何の表示もないし、客が中に入ってもメニューも出さない。そもそも客を呼び寄せる努力を店主はしようとしない。たしかに言われてみれば暴力的なんですよ」
大福「コミュニケーションを拒絶するのは、今は暴力なんですね」
(221頁)


『二度寝で番茶』は、夫婦で共同執筆の脚本家・木皿泉のエッセイ集である。……エッセイ集と、本書の裏表紙にも紹介されているのだが、上の抜粋を読んでもらえば分かるように、本文は対話形式で展開している。ならば、これはエッセイ集というよりも、むしろ対談集なのではないかという疑問が私の中にはある。だが、エッセイ集であるという。出している側がエッセイ集だというのであれば、それはエッセイ集なのだろう。収録曲の大半は既存のシングルからの楽曲なのにオリジナルアルバムだと言ってのけるレコード会社の様なものだ。それはもはやベストじゃないのか。そんなことはどうでもいいのか。もとい、どうでもいい。

本書を読んでいると、木皿泉作品における痛みの理由がよく分かった。その理由となっているのは、木皿泉の片割れ、妻鹿年季子(メガ・トキコと読む。カタカナで書くとハクリョクがあって宜しい)の存在である。本文において妻鹿さんは、とにかく色んなことにぶつかっていく。「それが常識」として片付けられがちな事象の数々を「へっ、そんなわけねーじゃん」と言わんがばかりに鷲掴みにし、がっぷり四つに組んで、ぶつかっていく。その感情の、理性の、言葉の説得力に、常識の世界で生きている私ははっとなり、そして少しだけ傷つくのである。

例えば、家族というモノについて、木皿泉は次の様に話を展開する。ちなみに、本文における「かっぱ」が妻鹿さんで、「大福」が夫の和泉努さんである。どうしてそういう名称になっているのかは、本書を最後まで読んでいくと分かるので割愛。

かっぱ「人権とか民主主義とか、みんなはそれが当然のごとくあるという前提でもを言うじゃない? 「その行為は人権にもとる」とか。私、その度に、なんか違うような気がするのよね。だって、誰かがつくったものでしょう? 人権とか。元々は、なかったものじゃない?」
大福「おっしゃる通り、人間の知性がつくり出したものでしょうな」
かっぱ「元々なかったものなんだから、それを維持したり使いこなしたりするのは、相当みんなが努力しないとダメだと思うんだよね」
大福「家族も誰かの発明だろうしね」
かっぱ「そう、家族もそうなの。私、それを言いたかったの。家族がイヤで自分の家に火を放ってしまう子供たちに言いたいです。核家族なんてほんとに最近できたもんなんだから。誰かがつくったものなんだから、どーしてもイヤだったら、捨ててもかまわないって。火をつけたり親を殺したりする前に、自分が家から出て行けばいいんです。家族は仲良しじゃなきゃダメだなんて大間違い。血がつながってるからって、安心しきって努力しなかったら、家族は成り立たないです。どんな人間関係も気をつかって初めて成り立つものでしょう? 世のお父さんやお母さん方は、仕事や近所づきあいでは、そのことをよーく知ってるはずなのに、なんで家族には気をつかったりくばったりできないのかなぁ」
(38頁)


実家暮らしで家族に甘えっぱなしの自分には、かなり突き刺さった。幸い、出血はしていなかったが。しかし、同時に救われたようにも感じた。ああ、家族という組織も過去に誰かが始めたことで、どうしても続けなくてはならないという類いのモノではないんだなあ……と。それが分かったからって何をしようというわけではないけれど、なんだかけっこう気が楽になった。この他にも、かなりの数のステキなやりとりがあったんだけど、一番良かったところを抜粋したらちょっと長くなり過ぎたので、ここで遠慮しておくことにする。読みやすくて、けど人生観を少なからず揺さぶられる一冊。木皿泉の本、もうちょっと色々読んでみようかしらん……。
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菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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