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「桂ざこばの会」(志度)

あなたが初めて聴いた落語家は誰ですか?

世の中には多種多様な落語ファンが存在する。その誰もが、初めて落語を聴いた瞬間を経験している。それが、いつ、どこで、誰のものだったかを明確に覚えている人もいれば、そうでない人もいるだろう。ただ、誰しもがその瞬間を経験しているということだけは、否定しようのないことだ。

僕にとってのそれは、桂ざこばである。今から10年近く以前、僕がまだ高校生だった頃に、ざこば一門が学校寄席にやってきたのである。会場となったのは、学校のすぐ近くにある市民会館で、落語を演じるには些か広すぎたように記憶している。当時、師匠が披露したのは、十八番ネタの『天災』。乱暴者の男が心学の先生に諭されて改心し、その教えを留守中にケンカしていたという隣家の男に披露しようとして、失敗する噺だ。ざこば師匠の演じる乱暴者が、とにかく素晴らしかった。乱暴者だが素直で、親しみの持てるキャラクターだったのである。その後、立川志の輔、春風亭昇太、柳家喬太郎などの落語家を経て、僕もすっかりイチ落語ファンとなったわけだが、今でもあの日のざこば師匠の素晴らしい高座をはっきりと覚えている。

しかし、それから現在に至るまで、ざこば師匠の落語に触れることはなかった。その機会が得られなかったというよりも、当時の高座の思い出を大切にしたいという、保守的な気持ちがあったのかもしれない。とはいえ、あれから10年以上が経っているのである。僕もそれなりに年を重ね、あの頃の自分がすっかり過去となっている。そろそろ、記憶を現在で更新するのも悪くない。僕が年を取ったということは、ざこば師匠も年を取ったということだ。今ではきっと、あの頃とは違う高座が繰り広げられているに違いない。

2014年2月9日。この日、僕は県内で開催される「桂ざこばの会」を鑑賞するために、愛車で高速道路を走行していた。言うまでもなく、今のざこば師匠の高座を確認するためである。会場はさぬき市志度音楽ホール。県庁所在地である高松市よりも東側に位置するため、西側の某市に住んでいる僕には馴染みの薄い場所だ。正直、迷子になるのではないかという懸念もあったが、昨年買い替えたスマートフォンのナビ機能のおかげで、なんとか開演30分前に到着することが出来た。文明の機器に感謝するばかりである。

駐車場から少し歩いて、会場へ。チケットをもぎってもらい、ロビーの売店コーナーを覗き込む。売られているのは、主にざこば師匠に関するソフト(落語CD、映画DVD、書籍)、そして米朝一門関連のグッズ。落語家系図を写した手ぬぐいに心を惹かれるも、購入したところで特に使うことがないという過去の経験を思い出し、手をつけず。と、ここで偶然、高校時代の友人と遭遇。まさしく当時、ともにざこば師匠の高座を鑑賞した仲間だったのだが……彼の中には、そもそもざこば師匠の落語を観たという記憶がなかった(当時は講演会に来たものだと記憶違いしていた)ことを知り、大いに脱力する。自由席だから、早く席を確保した方がいいと忠告され、慌ててホールへ。前列から五番目の端席が空いていたので、そこを陣取る。

午後2時開演。
 
前座として登場したのは、ざこば師匠の六番目の弟子である桂そうば。幾つかの小噺を披露して場の空気を温めたところで、『手水廻し』へ。“手水(ちょうず。朝の準備を済ませるための手桶)”を所望する客と手水を知らない宿の人間のズレを描いた噺で、上方では前座ネタとして演じられることが多い演目らしい。そうばさんの『手水廻し』はスマートだけどしっかりキャラが立っていて、ひたすら手水が分からない人々の姿を滑稽に演じていた。ただ、スマート過ぎて、まだ少し高座の印象が残りにくいところも。ざこば師匠に弟子入りして八年、まだまだこれからの人だろう。

続いて高座に上がったのは、本日の主役である桂ざこば。家で飼っているペットの話から妻に対する愚痴の話へ。結婚した経験のある人間であれば、誰もが共感できるだろう夫婦のズレを、実に淡々とした口調で展開していた。そして、急に落語が始まる。夫婦が絡む落語というと、何をするつもりなんだろう。そんなことを漠然と考えながら、ボンヤリと聴いていたら、「アレの顔をガツンと……」というくだりが耳に飛び込んできた。『天災』だ。あの日、あの時、学校寄席で聴いた『天災』だ。ざこば師匠にとって『天災』は十八番の一つである。あくまで、十八番の一つに過ぎない。だから、この日も『天災』が聴けるなんて、まったく考えてもいなかった。思わず、背筋にゾゾゾッと何かが走ったような感覚になり、それまで椅子に預けていた我が身を立て直した。

あの日以来の『天災』は、なんだか大人しくなったような印象を受けた。当時の『天災』は、とにかくパワフルだった。乱暴者は本当に乱暴者で、だからこそ素直でヘナチョコな側面に愛着を感じた。無論、今回だって、そう感じた。でも、当時ほどではなかった。師匠が年を重ねたことで、以前のパワフルさが失われてしまったからなのか。それとも、僕の思い出が、過剰に美化されていたのか。真実は分からない。ただ、今のざこば師匠には、乱暴者よりも心学の先生の方が、よほど似合っているように感じた。

独演会その(一)天災 強情独演会その(一)天災 強情
(1994/12/21)
桂ざこば

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仲入り。ロビーの売店でざこば師匠のCDを購入する。『高津の富』『狸の化寺』が収録されている。『高津の富』は好きな演目だ。金持ちのフリをして宿屋に泊ろうとした男が、泊めてはもらえたものの、代わりにそこで売られている富くじを買わされてしまう噺だ。個人的に、『高津の富』は最も落語の特性を描いた演目の一つではないかと思う。一方の『狸の化寺』は、まだ聴いたことのない演目だ。大好きなネタと知らないネタということで、割とバランスがいいのではないかと判断した次第である。ギリギリまで『鉄砲勇助』『ろくろ首』が収録されているCDと悩んだが。

桂ざこば独演会 その(八)桂ざこば独演会 その(八)
(2001/12/06)
桂ざこば

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仲入りが終わって、登場したのは桂米紫さん。ざこば師匠の一番弟子・塩鯛さんの一番弟子だという。自身がかつて名乗っていた名前“桂都んぼ”に関するエピソードトークから(東京の三遊亭歌太郎さんと仲が良いらしい)、いわゆるテキ屋の話を経て、『秘伝書』へ。路上で売られている“秘伝書”を2,000円で購入した男が、その内容に驚く様子を描いた噺で、その内容は落語というよりもなぞなぞに近い。登場人物同士の会話が殆ど描かれていないため、とにかくべしゃりの上手さが重要になってくるこの演目を、米紫さんは見事に演じきって……もとい、喋りきっていた。その語り口は、いわゆる軽妙洒脱。ちょっと関西タレントっぽさも感じられたが、自身の華を上手く噺に反映していたように思う。どうやら都んぼ時代の口演がCDになっているらしいので(というか、物販で売られていた)、ちょっと購入を考えている。良かった。

特選!上方落語 高津の富/桂 都んぼ(4代目・桂 米紫)特選!上方落語 高津の富/桂 都んぼ(4代目・桂 米紫)
(2009/09/11)
桂都んぼ(4代目・桂 米紫)

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続けて、本日のトリ。言うまでもなくざこば師匠である。かつて、心の病気になったために、兄弟子の枝雀から紹介してもらった精神科医に通院していた頃の話から、『肝つぶし』。不思議な病で寝込んでいる男の元に、友人がお見舞いに駆けつける。その病の原因は、なんと恋。とある呉服屋のお嬢さんに、ある事件をきっかけに惚れてしまったのだという。ところが、そのお嬢さんというのが……。前半は徹底的にコミカルなのに、後半になると急にシリアス色が強まる。このバランスが、たまらなく不思議な後味を残した。……てっきり、夢落ちになると思っていたんだけどな。こういう噺もあるんだなあ。ざこば師匠の『肝つぶし』は、後半のシリアスさが強調されていないために、噺としては少しグズグズに。シリアスなシーンでもちょこちょこ笑いを取りに行こうという信念が故なのか……。

桂ざこば独演会 その(七)桂ざこば独演会 その(七)
(2000/08/30)
桂ざこば

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終演後、とにかく思ったのは、ざこば師匠がとてつもなく老け込んでいるということである。この10年、落語をしている姿は目にしていなかったが、テレビではたまに師匠の姿を確認していた。そこで師匠は、おじいちゃんとイジられながらも、決して若さを失っていない姿を見せていた筈なのだが。いつの間に、ここまで老け込んでしまったのだろう。御年66歳。落語家としてはまだまだこれからという年齢だ。それなのに、昨年に東京で目にした三遊亭圓歌や川柳川柳よりも老けているように見えるなんて。旧友・やしきたかじんの死が、それほどまでに彼に大きな衝撃を与えたのだろうか。

会場からの帰り道、やけに夕焼けがまぶしかった。
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ざこば師匠といえば僕は、そこまで言って委員会のレギュラーというイメージがつよいので、落語はあまり聞いたことがありませんが、記事を見て、聞いてみたくなりました。

No title

ありがとうございます。そう思っていただけると、この記事を書いて良かったとしみじみ思えます。最近、この時買ったCDを聴きましたが、これもなかなか良かったですよ。
プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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