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『鳥居みゆき 狂宴封鎖的世界「方舟」』

鳥居みゆき「方舟」

『鳥居みゆき 狂宴封鎖的世界「方舟」』を観る。

鳥居みゆきはサンミュージックプロダクションに所属するピン芸人である。お笑い芸人には似つかわしくない端正な顔立ちとアングラ色の強いコントで、ゼロ年代末に注目を集めた。その観る人を選ぶ芸風から“カルト芸人”との呼び声も高いが、日本一のピン芸を決定する『R-1ぐらんぷり』には二度の決勝進出を果たしている。本作には、そんな鳥居が2012年9月に開催したライブの模様が収められている。

タイトルにつけられている“狂宴封鎖的世界”とは、要するに“単独ライブ”のことである。ラーメンズや東京03が“単独公演”、エレキコミックが“発表会”と単独ライブを表して他の芸人との違いをアピールしているが、何か色々とこじらせている感じが出ているという意味では、この名称が圧倒的だといえるだろう。……などと茶化してみたが、この「方舟」、かなりとんでもない作品だった。テレビでは絶対に放送できない。当初はDVD化も危ぶまれたという話だが(異例の通販限定)、実に合点のいく話である。

「もう終わりなの? 私の人生。捕まったらどうなるの?」


物語は、鳥居扮するデリヘル嬢が、ラブホテルのベッドの上で男の腹をメッタ刺しにしているシーンで幕を開ける。直後、我に返った鳥居は、男の死体をバスルームで切り刻み、トランクケースに詰め込んでホテルを脱出する。途中、死体をバラバラにしている現場を目撃した掃除のおばちゃんの頸動脈を刺して殺害、更にホテルの出口で出くわした同僚のデリヘル嬢を刺してこれも殺害、三人を殺めた連続殺人鬼として追われる身となってしまう。同時期、宇宙から落ちてきた隕石が話題に。それに乗じて、新興宗教“アーク真言教”が地球の終末を訴え、布教活動を行っていた。その教団に鳥居は入信、追手の目から逃れようとする……。

概要を書き出してみると、とてもお笑い芸人の単独ライブとは思えないハードなストーリーに改めて驚かされるが、これをちゃんと笑えるコントに仕立て上げているのだから、なんとも凄い。トランクに入りきらない頭部をどうにか詰め込もうとする様子をパズルで解説したり(観客に「一緒に考えていこう!」と呼びかける姿がまた可笑しい)、鳥居のこれまでの不幸な男性遍歴が明らかに芸能人のゴシップネタを盛り込んだモノだったり、教団内の通貨がペリカというどっかで聞いたような単位だったり、事あるごとに小ネタをブチ込んでくる。凄惨なシチュエーションで繰り広げられる俗っぽいボケの数々が、大きな笑いを巻き起こしていく様は壮絶といっていいだろう。

「絶望しかないのに、どうして人は生きているんだろう? 生きるってなんだろう?」


しかし、物語の本質は、その後半に見え始める。

“方舟”と呼ばれる閉鎖された空間で生活を送っている信者たち。彼らは我々の社会では生きて行けなくなった、いわば堕落した人々だ。とはいえ、その日常は我々と大して変わらない。ご飯を食べて、仕事をして、セックスに興じている。そこには、我々の社会をそのまま小さくしただけの、ミニチュア化された社会がある。当初、その生活は(理不尽さを含みながらも)平穏なものだった。ところが、ある事件をきっかけに、状況は悪化し始める。彼らはその小さな日常が永遠ではなかったことを突き付けられ、パニックに陥る。肝心の導師は保身ばかりを考え、まるで頼りにならない。

「なんだよ! この数値! 習ったことないよ!」


さて、そこには、どんな結末が描かれているのか。

一般的に、鳥居みゆきはカルト芸人としての側面しか認識されていない。純白のパジャマに身を包み、マラカスと手負いのテディベアを振り回していた、あのサイコホラーの様な鳥居が今でも世間のイメージだ。しかし、鳥居は単なるカルト芸人ではない。世間を冷静に見つめる眼と、その思考を作品化するテクニック、そして、その渦巻いた闇を笑いへと転換させる大衆性を兼ね備えた、不世出の奇才だ。一連の作品でも、その才能のおぞましさは伝わっていたが、本作では芸人としての凄味がより分かりやすく表現されていた。

不謹慎で俗な笑いの向こうに見える、鳥居みゆきの人間論。括目して、見よ。


■本編【110分】
こちらのサイトで購入可能。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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