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『猿王』(仲能健児)

猿王猿王
(2005/03)
仲能 健児

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猿。猿だ。その姿は確かに猿のそれだった。だが、おかしい。あの顔。尖った耳。大きくて丸い瞳。顔面の半分以上に切れ上がった口。あらゆるものを食べ尽す歯。人の頭すらも。猿か。猿なのか。猿の姿をした別の何かなのか。インドを旅する日本人の夢の中に、その猿が現れた。猿は言った。「おまえはオレから逃げられない」。続けて言った。「オレは神になる者だ」。

『月刊コミックビーム』誌上に、時たま奇妙な漫画が掲載される。舞台はインドか、そこに近いアジアの何処かだ。物語の主人公は旅行者で、彼は悠久の地で様々な神秘的体験を得る。とはいえ、それはあくまでも旅行中の出来事に過ぎず、彼の旅が終わることはない。初見時には「また妙な漫画家が現れたものだ」と思った。作者の名前は仲能健児。聞いたことのない名前だった。幾つかの短編を読んでいるうちに、私は彼の作品世界に興味を持つようになっていった。試しに、その名前についてネットで調べてみると、彼名義の作品が二冊ほど出版されていることを知った。一つは単行本で、もう一つは文庫本だった。文庫本には中古しかなかったようだったので、私は単行本を購入した。1,300円(税抜)という価格は決して安くはなかったが、それを手に取った時、私は確信した。名作である、と。

仲能健児『猿王』は、インドに滞在している日本人旅行者が、夢の中で遭遇した“猿”の姿をした奇妙な存在に追い回される姿を描いた作品だ。逃げる旅行者と、追う猿。その道中には、彼の事情を知らないインド人たちとの衝突や、猿の存在を認知しているサドゥー(ヒンズー教の行者)たちとの会話なども描かれているが、基本的に話は一本道である。逃げる旅行者と、追う猿。それだけだ。彼に助言するサドゥーたちは次々に頭をかじられ、猿の手下である虎や鮫に噛み殺される。それを背にして、ひたすら逃げる。逃げる。逃げる。しかし、猿が旅行者の男を必要としていると知っている一部のサドゥーたちによって、今度は彼の命が狙われる。すると、今度は猿が彼を助けようとする。敵なのか、味方なのか。正も誤も定かではない逃走劇に、果たしてどんな結末が待っているのか。

『猿王』は1994年に週刊モーニング誌上で連載されていた。猿に追われるという珍奇なストーリーも然ることながら、リアルに描かれたインドの風景が、実に味わい深い。そのリアリティが、この異常な物語をより一層引き立てる。まるで、眼球を通じて、脳がインドの風に包まれているかのようだ。巻末には呉智英による解説を掲載。本作が発表された時代と背景について書かれており、より一層、この作品の深みを感じられるように思う。
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菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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