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『シャレのち曇り』(立川談四楼)

シャレのち曇り (ランダムハウス講談社文庫 た)シャレのち曇り (ランダムハウス講談社文庫 た)
(2008/07/10)
立川 談四楼

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立川談春『赤めだか』が売れている、とのこと。そのあまりの評判の良さに、普段は単行本なんか滅多に買わない僕も、思わず身銭を切ってしまったのだが、その出費に見合った内容ではあった。一般的には、談志イズムを体感するという意味での評価が高いようだが、個人的には、出来の良い弟弟子・立川志らくに対して尋常じゃなく嫉妬してしまった、その人間臭い姿がまざまざと映し出されていたところに、この作品の熱を感じた。

その『赤めだか』発売から十八年ほど昔、これに似たような本が発売されていたことを、皆さんは御存知だろうか。その本には、一人の真打落語家が、やはり立川談志に弟子入りし、落語家として成長してゆく様子が描かれている。本のタイトルは『シャレのち曇り』。著者は立川談四楼。談春の兄弟子にあたり、現在は作家としても活動している人物である。

本書は、談志が落語協会から脱退し、立川流を立ち上げる場面より、その物語を開始している。今でこそ、当然のものとして受け入れられている感があるが、“立川流”はそもそも存在していなかった。立川一門も他の一門と同様に、寄席を中心に活動していたのである。しかし、ある事件がきっかけとなり、立川流は独自の体制を取ることを余儀無くされる。その事件とは、談志が自信を持って輩出した二人の弟子が、真打昇進試験を落とされた、というものだ。その弟子のうち一人が、談四楼だった。

当時、真打昇進試験を受けた落語家は、全部で十名。それを審査するのは、八人の大物落語家。談四楼は全力で試験に望み、その場では良い感想を頂戴した。しかし、結果として、談四楼を含む六人の落語家が落とされてしまった。落とされた落語家は、いずれも芸と仕事が評価されている者たちばかりで、合格した落語家は、その後ろ盾が見え隠れしている者たちばかりだった(なお、当時理事だった談志は不在だったとのこと)。もちろん、それが真実とは限らないが……。

ちなみに、この真打昇進試験は後に林家こぶ平(三平の遺児)と三遊亭きん歌(副会長円歌の弟子)を合格とし、古今亭志ん八(「コンクール荒し」と称された実力派)を落とし、更に後で「手違いだった」として三人を合格させるというテキトーさが大いに批判され、同年、廃止されることとなる。

談春の『赤めだか』が、物語の主人公である談春自身の成長を描くことによって、談志という巨像を映し出している作品と言えるのであれば、『シャレのち曇り』は、物語の主人公である談四楼の成長を描くことによって、落語業界の悪しき体質を映し出している。

特に、その体質の恐ろしさを感じさせられた記述が、二つある。

一つは、談四楼が立川流真打に昇進した際のお祝いとして行われた「生前葬」に参加した橘家円蔵が、そのペナルティとして「一ヶ月の寄席出演停止処分」を食らったという一文だ。円蔵師といえば、立川談志・三遊亭円楽・古今亭志ん朝とともに“落語四天王”と呼ばれるほどの実力者である。そんな人物が、落語協会を脱退したばかりとはいえ、一介の若手真打昇進のお祝いに参加しただけで、寄席への出演を止められるという処分を食らってしまう。落語家というのは、もうちょっと寛容で粋なものだと思っていたのだが、全員が全員、そうというわけではないらしい。シャレを商売にしている筈なのに、シャレが分からないということか。

もう一つは、談四楼とともに真打昇進試験で落とされてしまい、同様に協会の体質に対して異議を持ち、その追加試験に参加しないことを表明するが、師匠によって断固反対されてしまうことで、苦悩の道を歩むこととなってしまった真田家六の輔が、酒で身体を壊し、入院する場面である。師匠が協会を抜けたことで自由に協会を批判できる立場となった談四楼と、師匠とともに協会に残ったことで、その体質に批判的でありながらも、そこでやっていかなくてはならない板挟み的な立場となった六の輔。友人同士であり、同じ意思を持つ二人が、その立場ゆえにすれ違っていく様は、とても落語界の話とは思えない。

ところどころに挟み込まれる陳腐な恋愛小説っぽい描写の臭みがややキツいが、落語界の内面を“小説”として痛烈に描き出した今作は、もっと多くの人に読まれるべきだろう。特に『赤めだか』を楽しめた人にはオススメだ。まあ、あの本ほどに談志イズムは映し出されてはいないが……。なお、現在の落語会の体質については、『師匠! (ランダムハウス講談社文庫)』のあとがきに書かれているとのこと。……この商売上手!
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菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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