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『青い空、白い雲、しゅーっという落語』(堀井憲一郎)

青い空、白い雲、しゅーっという落語青い空、白い雲、しゅーっという落語
(2009/01)
堀井 憲一郎

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今更だけど、堀井憲一郎の『青い空、白い雲、しゅーっという落語』の話をしようと思う。既に発売から三ヶ月ばかりが経過していて、本としての旬は幾らか過ぎているし、僕自身も数週間前に読み終えてしまった本なので、読了時に感じた興奮は失われてしまっているのだけれど、以前にブログで紹介した本の感想を、このまま書かずにいるのはどうなのかという気持ちが急に芽生えたので、当時の感情を掘り起こして、書くことにした。……まあ、ただ単に、近辺のブログで取り上げられていないから、という理由の方が大きいのだが。どうして取り上げられていないのだろう。かなり面白い本だったのだが。

などと書いておきながら、実はその理由はなんとなく察しがついていたりする。いわゆるテレビ系ブログ・演芸系ブログがバラエティ本について特集する際、その多くは、本文で触れられている芸人・タレントの本質についての記述に注目するからだ。だからこそ、弟子の立場から師匠について書かれている『赤めだか』『雨ン中の、らくだ』の様な書籍や、QuickJapanなどの雑誌に見られるタレントへのインタビュー記事は、この系統のブログでは持て囃される。しかしながら、この『青い空、白い雲、しゅーっという落語』は、そういった芸人やタレントの本質について触れられている本ではない。だから、あまり取り上げられていない。まあ、単に“趣味が合わない”“興味が無い”というような、生理的な理由なのかもしれないが。

『青い空、白い雲、しゅーっという落語』は、著者の堀井憲一郎が落語会を訪れた際に経験した出来事や、落語に係わる思い出などを、ひたすらコミカルに描いたエッセイ本である。例えば、吉川潮がたびたび上梓しているような落語評論本の類いではなく、ただただ純粋に“落語”をテーマにしたエッセイ本だ。そんな本をブログで取り上げるのは、確かに難しいかもしれない。なにせ、書かれていることといえば、寄席でラーメン食ってる人がいただとか、落語家の熱演中に頭にハエが乗っかっただとか、高座で黙り込んでしまった落語家がいただとか、実に他愛の無いことばかり。これで記事を書くというのは、確かにムツカシイ。でも、僕は書いちゃう。面白い本は、正当に面白いと評価されなくてはいけないのである。何を偉そうに。

本書が最も読者に伝えたいと思っているだろうこと。それは、落語会の空気である。近年、稀に見る落語ブームと言われているが、実際に落語会を訪れる人がどれだけ存在しているのか。どんなにテレビやビデオで落語を観賞したところで、その現場の空気を感じることは難しい。お笑いDVDばかりを観て、その感想を書き、まるで現場に居合わせたかのような文章を書いている人間が言うことではないが、だからこそ分かる。どんなに映像が優れていても、現場の空気には敵わないのだ。とはいえ、まったく未知の空間に飛び込むのは、これまた難しい。人生を噛み締めるごとに良さが分かってくるのが落語だと言われているが、人生を噛み締めることで保守的になってしまうのが、人間というものだ。そんな、未知の世界である落語会の空気が、本書ではつらつらと綴られている。

例えば、もぎりの話。もぎりとは、チケットの半券をモギる(チギる)人のこと。ある日、二つの落語会をハシゴした堀井氏。昼の立川志の輔独演会を終えた後で、夜の立川志らく・柳家花緑の二人会に女性スタッフとともに参加してみると、どうもチケットがおかしい。確認してみると、それは昼の立川志の輔独演会のチケット。もぎりに間違えて渡してしまったのである。そして、もぎりも間違えてモギってしまった。この、なんともいえない温い感覚が、落語会。田舎のCDショップにさえ万引き防止用のシールが使われているような時代に、随分と危機意識の欠けたシステムに感じるが、これが落語会なのである。本書には、こういった類いのエピソードが、幾つもある。

個人的に強烈だったのが、柳家小のぶという落語家の独演会に行ったという話。この柳家小のぶ、“幻の噺家”と言われている。自分で言っている。彼の落語は独演会でしか聞くことが出来ない。好奇心旺盛な堀井氏、チケットを予約しようと電話をかける。本人が出る。「予約したほうがいいでしょうか」と尋ねると、「あたしはそんなに人気がないので、大丈夫です」と応えられる。出かけてみると、二十畳ほどの座敷に十枚の座布団が敷かれている。湯のみを運ぶ老人。見ると、またもや本人。それを十一人の客が観ている。否、見守っている……これが2005年の出来事。本文では2006年のバージョンが主に記載されているが、それは実際に読んでもらいたいと思う。

最近は落語論を語る落語家も増えていて、一部ではなんだか高尚なモノであるかのように取り上げられていることも多い、落語。しかしながら、観客にとっての落語は、あくまでも庶民の文化であり、単なる娯楽だ。落語会に興味がある方がいるならば、本書を手にとって、その空気を堪能したところで、現場へと足を運んでもらいたい。で、後で、面白かっただの、つまらなかっただのと、語れば良いのである。僕は行けないけど。田舎暮らしで尻に根っこが生えちゃってるから。近くに寄席がある人が羨ましいなァ。

ちなみに、本書の様な単なるエッセイだけでは面白くない、俺は落語家の魂の叫びが聞きたいのだという人に配慮したのか、本書には新進気鋭の落語家十人に対するインタビューも、そこはかとなく収録されている。皆が大好き、立川談春・立川志らくに対するインタビューも収録されているので、良ければ。
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プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

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