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『寄席爆笑王 ガーコン落語一代』(川柳川柳)

寄席爆笑王 ガーコン落語一代 (河出文庫)寄席爆笑王 ガーコン落語一代 (河出文庫)
(2009/11/05)
川柳 川柳

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川柳川柳の自伝『寄席爆笑王 ガーコン落語一代』を読了する。冒頭、幼少期のエピソードについての描写が素晴らしく、これは立川談春『赤めだか』レベルの傑作ではないかと思いながら読み始めたのだが、終盤で少し投げやりに感じられる描写が多くなり、やや尻すぼみに終わってしまった。もしも最初のテンションを最後まで維持していたら、この本はとんでもない大傑作になっていたかもしれない。いや、傑作ではあるんだけれどね。でも、そう言ってしまえるくらい、このエピソードの出来が良かったんだから仕方ない。

エピソードの出来でいうと、幼少期を終えて戦争へと突入していった頃の思い出話もまた、非常に面白かった。……っと、こういうところで「面白かった」なんてこと言うと、またケチつけてくる輩が出てきそうだな。うん。ここは正確に書いておこう。非常に、興味深いものがあった。よし。これなら文句もつけられないだろう。

昭和一桁世代(銭型のとっつぁんを思い出すネ)の川柳師匠、この時代はやんごとなき軍国少年だった。ラジオからは毎日、軍歌が延々と鳴り響いていた。マスコミは日本の勝利を高らかに伝え、その流れに便乗して映画も軍国的なものばかりが上映された。本書には、当時上映された映画のエピソードの一つが紹介されているが、なかなかになかなかな内容である。川柳師も、紹介しながら「これはあの北の国の映画ではない」なんて書いているが、確かに北朝鮮のことを笑えンな、これは。学校でも軍事教育が激しくなり、体操の時間に突撃訓練や分列行進などを練習させられたという。その当時の日本のメンタルについて、分かりやすく書いた一文がある。引用してみよう。

 それで思い出すのが緒戦勝利のころ、先生が「わが日本は世界唯一の神の国だから、敵が空から攻めてきてわが領空に入れば、原因不明の故障を起こしてみな墜落してしまう」などと能天気なことを言っていた。
 そのころの日本人は多少そんな気持ちを持っていた。


ネットで右翼だ左翼だ言っている今の時代が、いかにマトモかよく分かる。少なくとも今、「竹島を乗っ取ろうとしている韓国人は、いずれ原因不明の病にかかってみな死んでしまう」などと言っている日本人はいない。……いないよな? いるのかな?

その後、川柳師は学徒動員令の発令によって、軍需学校へと駆り出された。その工場では、かの有名なゼロ戦の方向舵を作っていたため、非常に誇らしく仕事が出来たという。が、そこで週に一度行われていた、昼休み中の軍事訓練はとても辛いものだったそうだ。元軍人で荒船という先生に指導してもらったらしいのだが、この先生がやけに厳しい。とにかくビンタが好きで、スキあらば飛んでくる。当時、この先生が言っていた言葉が本書に書かれているのだが、これがなかなかキョーレツでいい。……いや、良くはないんだが。これもちょっと引用してみよう。

 そのとき、一人のオッチョコチョイが、
「先生、米兵は最初に戦車で来るでしょう。竹槍じゃ戦車に刺さらないでしょう」
 途端にパーンと一発張り飛ばされた。
「バカモン、貴様たちはそんな余計なことは考えるな。ただ天皇陛下万歳と叫んで敵戦車に肉弾攻撃で飛び込め。貴様たちが住人、二十人、戦車の無限軌道(キャタピラ)に轢き殺されれば腹わたが搦みつき、その至誠が天に通じて戦車は擱座してしまうのだ」
 いやはやもう無茶苦茶だ。


日本人が自殺するとき、往々にして車や電車に飛び込んでいこうとしてしまうのは、戦中のこういった教えが関係しているのではないだろうか。嘘だけど。たぶん、飛び降り自殺とか、首吊り自殺とか、そういった死に方のほうが多い。……と、冗談は置いといて。本当に凄い時代だったんだなあ、としみじみさせられます。

この他にも、日本人と桜の関連性を軍部が利用していたという話や、「皆殺しのルメイ」ことカーチス・ルメイによる民間人攻撃の話など、戦争関連の話題が盛り沢山。戦時中の話が多いのは、さすが「ガーコン一筋の落語家」という異名を取る、川柳師匠といったところか。……まあ、そのおかげで、本書のバランスが随分とおかしくなってしまったのだけど。良いンだか、悪いンだか。

もちろん、戦争が終わってからの話も面白い。兄の酒屋を手伝うという名目で上京し、噺家になろうと三遊亭圓生の門を叩き、師匠を慕い続けるも、夜中に師匠の酒を盗み飲みしたり、酔っ払って帰って家の玄関に糞を垂らしたり、しくじりばかり。それでも楽しい芸人人生……といったところで、落語協会分裂騒動に見舞われ、愛する師匠と仲違いしてしまうことに……。こうして見ると、かなりドラマチックだ。特に師匠と仲違いの関係になってしまうところなど、かなり壮絶だったのではないかと思うのだが、本書ではそれほど深く触れられていない。まだ川柳師の中で、この辺りの話はまとまりきれていないのかもしれない。

以上の自伝に加え、本書には川柳師の艶噺を四本、テキスト化して収録している。その壮絶な芸人人生を綴った後で、どうして艶話なんか持ってきちゃうのか……と、頭を抱えてしまいそうにもなるが、考えてもみれば師匠も芸人、ただ真面目に人生を振り返るだけではイケナイという判断がなされたのだろう。たぶん。ページ数を埋めるためとか、そんなんじゃないだろう。きっと。

一人の落語家の人生だけではなく、その落語家が辿ってきた時代を綴っている本書。値段は税別760円と、文庫本にしてはちと高いが(河出文庫は基本的に高いのが玉に瑕)、読み応えについては保証できる。エロ艶噺の部分も含めて、非常に満足のいく内容だった。……いや、満足にイクじゃないって。満足のいく、だって。そういうつまらないことを言うから、またこのブログに苦情が……云々。
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円丈の本

ご存知かもしれませんが、落語協会分裂騒動については
圓生の弟子で新作落語家のターニングポイントの人とも言われる、
三遊亭円丈「御乱心」という本に詳しい…らしいです、僕も未読なんですが落語ファンの間ではかなり有名な本です。

圓生の弟子で先日亡くなった円楽師、彼が悪者になっているらしいですが、
まあ円丈側から見た話、ということでしょうか。

僕はさほど内幕には興味ないので読んでなかったけど、借りてみるかな。
うちのブログでも円丈のCDはずっと追っかけ続けているしね。
これとかあと円丈著「ろんだいえん」っていう最近の本にも興味があるし。

もし菅家さんも興味があれば。

No title

おおっと、もちろん知ってますよ。
読んでみたいんですけどねえ。なにせ古い本ですからねえ。
『ろんだいえん』も気になってますが、あの表紙の迫力に押されて…。
というか、まだ故すずめ師の『創作落語論』も読み終わってない…。
全体的に遅々としております。ううっ。
プロフィール

菅家しのぶ

Author:菅家しのぶ
お笑いDVDコレクター。2014年5月からコンテンツリーグ発行のフリーペーパー『SHOW COM(ショーコン)』で名盤DVDレビュー「神宮前四丁目視聴覚室」を連載中。

連絡用メールアドレス
loxonin1000mg@yahoo.co.jp

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https://twitter.com/Sugaya03

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